ヤバい「巫女養成スクール」生徒を酒席の“接待要員”としてタダで動員。セクハラ被害も

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2024年05月23日 16:20  女子SPA!

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―連載「沼の話を聞いてみた」―

民間資格はピンキリだ。伝統芸能の”お免状”や、専門選考上のために業界団体が作っている資格制度は、比較的信頼できるものが多そうだ。

しかしそうしたものとは別の、手軽な民間資格のなかに質も運営も問題がありそうなものがたくさんある。そしてそれらを選ぶのは、個人の判断にゆだねられているのだが、本当にすべてが自己責任と言えるのだろうか。

今回は、とある民間資格にハマっている女性たちの沼を見ていこう。

「文化の継承という高尚なテーマを掲げながら、装束(しょうぞく)姿で接待をさせられる」――これは、民間のとある「巫女(みこ)養成スクール」での出来事だ。

◆資格は特にいらないけど

話をしてくれたのは、50代の石倉絹江さん(仮名)。絹江さんは長年、スピリチュアル業界でたくさんの教え子を抱え、指導を担ってきた。そして業界の横のつながりから、巫女養成スクールの起ち上げに携わったという。

「巫女」といえば一般には、神に奉仕する女性の総称である。神社における奉仕では神楽(かぐら、巫女舞)を舞ったり、神職の補佐的な仕事を行ったり。正月などの繁忙期に「巫女のバイト」をやったという話も、よく耳にする。普通は、そうした業務に巫女として携わるための特別な資格はいらないとされている。

では「養成スクール」とは何なのか?

一般公開されているそのスクールのHPを見ると、仕事に関しては「冠婚葬祭のバイトができる」「寺社の手伝いが受けやすくなる」など、なんとなくあいまいに説明されている印象だ(手伝いが受けやすくなる、とはどういう意味なのか?)。建設業や不動産業であれば、「お祓い」ができるとも書いてある(いわゆる地鎮祭のことだろう)。

◆基本料金は良心的

なるほど。巫女に資格はいらないとはいえ、知識や技術を身につけておけば、多少は有利になるのかもしれない(そもそもどのくらい競争が激しい世界なのかはまったくわからないが)。また、巫女について学ぶことが教養になると、考える人もいるだろう。

スクールの生徒は、某支部に登録している女性で100人強。金額は初級3万円、中級5万円…と比較的リーズナブルな設定であるが、オプションの存在や祭りの参加費などが別途かかるのかもしれない(一般的な習い事でもよくある設定だ)。

数回の座学と所作実技を経て、証書が授与される。

生徒の年齢層は30〜50代が中心であるが、未成年もチラホラ在籍しているという。小ぢんまりとした規模ではあるが、支部がいくつもあるので、少しづつメンバーは増えつつある。

ところが絹江さんの目撃では「講座の内容は質が怪しげ」「風紀的にもヤバい」、さらには「怪しいビジネスとのつながりもある」というから一体どうなっているのか。

「この巫女養成スクールを運営しているのは、地方に本部がある神道系の新宗教団体です。現地では地元に根付いた神社として知られ、何か高額なものを売るとか、強引な勧誘があるとか、そうした怪しげな話は聞こえてきません。

この東京の巫女養成スクールも、発足当初は立派な理念をもって運営されていたはずなんですよ。でも最近だんだんと、気になる点ばかりが目立つようになってきました。もはや、看過(かんか)できないところまできています」

そのスクールでは、習ったことをアウトプットする場として、一般客も参加できる「祭り」を毎月開催している。都心のビルの一角で巫女装束の女性たちがずらりと並び、酒をふるまう光景は、まるで観光イベントのキャンペンガールのようである。

◆酔客の乱入などトラブルも

「運営している神社は神社庁(※)に所属していませんので、とにかく自由。所属していない神社のすべてがそうだとは決して言いませんが、少なくともこのスクールは、やりたい放題である印象です。

祭りでは祝詞(のりと)をあげて盛り上がったタイミングで、さて喉(のど)も乾いたし〜とお酒を飲む流れになります。巫女さん風の女性たちに囲まれて、お酒をたっぷり召し上がり、すっかり出来上がった酔客が、同じ建物で開催されている巫女スクールへ乱入するなどのトラブルも発生しています」

<※神社庁:神社本庁の地方機関として、各都道府県に設置されている。神社庁の管理指導を行うのが、神社本庁。伊勢の神宮を本宗とあおぐ全国約80,000社の神社を包括する団体である。有名な神社(伏見稲荷大社、日光東照宮、靖国神社など)も、神社庁に所属しておらず、神社本庁以外にも神社神道系の包括宗教法人があるので、どれが「正当」ということはない。>

神前に供えたものを参列者の皆でいただく「直会(なおらい)」は、祭りの一部であるものの、度を超えた飲酒光景はまるで「大学のイベントサークルの飲み会のよう」と、絹江さんは話す。

◆搾取されセクハラに遭う生徒たち

さらに驚いたことには巫女スクールの女性たちが、さまざなイベントへ派遣され、そこで無償の“酒の接待要員”として扱われているという。そこでも酔客からセクハラをされるなどのトラブルが報告されている。

2020年頃、X(旧Twitter)で「神社の中に隠し扉があり、銀座の高級クラブにつながっており、巫女さんたちがドレスに着替えて接待してくれる」なる投稿がツッコミも交えてプチバズっていたが、まるでそれを再現したかのような話である。

「運営が異業種交流会で引っ張ってきた経営者を集め、巫女スクールの生徒たちに接待させるんですよね。

 生徒たちはもともとスピリチュアル系の本業を持っていて、特色を出そうと巫女養成スクールに入ってくるような中年女性も少なくありません。だから『社長と名刺交換できる』『仕事の相談ができる』と誘われると、喜んで参加しているような人もいます。

 しかし当然、そうでない生徒もいるんです」

とある20代の女性は、絹江さんにこう報告してきた。

「終電を逃す時間まで接待させられて、ふり切るようにタクシーで逃げ帰ってきたんです!」

あいまいな説明で接待させるスクールは言語道断であるが、巫女装束の素人に酒の相手をさせて喜んでいる経営者らがいるという点も、呆れた話である。当然ながらこのタクシー代も、自腹になっている。「やりがい搾取(さくしゅ)」という言葉も、頭に浮かぶ。

筆者も現場の写真を拝見したが、「違法なコンカフェのようだ」という絹江さんの表現がドンピシャだった。薄暗い会員制ラウンジのようなフロアで、巫女装束の女性が接客している。

隣に座って一緒に酒を飲むと風営法に引っかかる気がするが、主催者は、巫女たちもあくまで店の利用客であり「ただの飲み会」だ、と主張するのだろう。接待はスクールの必修や強制ではないが、同調圧力で行かざるを得ない場合もある。

◆神楽舞に憧れる純粋な気持ちで参加

絹江さんは「自分のせいで」という後悔を抱えている。彼女が巫女養成スクールの起ち上げ期に関わったSNSを見て、「楽しそう!」と参加を決めた教え子が何人もいるからだ。

絹江さんも当然本部へ苦言を呈するが、現在は設立当時とは変わり、絹江さんの言葉に耳を傾けてくれるスタッフがもういないので、暖簾(のれん)に腕押しだという。

とある絹江さんの教え子は、巫女舞(神楽)に憧れてスクールに入った。神楽鈴(かぐらすず)をシャン…シャン…と慣らしながら、優雅に舞うそれはとても神秘的だ。当時はそのスクールのほかに、教わる場が見つからなかったという。

◆コストダウンの“なんちゃって”神楽舞

スクールに入る前、教え子はうれしそうに語っていた。

「巫女舞をはじめて見たのは、七五三の祈祷(きとう)のときですかね。巫女さんがとても素敵で、自分も踊ってみたいとずっと思っていたんです。それを習うことができるなんて、本当にうれしい!」

神への奉納として舞うそれには種類があり、神社庁が定めるものもあれば、それぞれの神社独自のものもある。しかしいずれも歴史と文化の移り変わりを経て受け継がれてきた、伝統ある舞である。

ところが、スクールで教えている舞は、そうした伝統的な舞とはまったくの別モノだった。

「運営の人脈で、振付師のような人にお友だち価格で作ってもらった、なんちゃって神楽なんですよね。一般的に、伝統的な巫女神楽は、講師に依頼して習うことはできます。でもそれなりの金額がかかりますから……コストダウンのためにスクールが創作したと言えるでしょう」

スクールで教えるそれはスタンダードな巫女舞ではない、という絹江さんの説明を聞き、教え子は肩を落としていた。さらに「舞を習いたかっただけなのに、なぜバーで男性客の相手をしているんだろう」とも……。

一次が万事、説明不足で不親切なのだ(詐偽と言ってもいいかもしれない)。

運営の神道系新宗教は神社庁に所属していないので、教えるものは独自解釈も含まれること(冒頭で紹介した「お祓いができる」も同様である。神社庁の管轄下で行うことはできない)。一般の寺社で活動するために有利になる要素は、少ないこと(運営母体である新宗教での手伝いはできる)。

つまり、あくまで“その団体が考える巫女”として認定される、カルチャースクール的なものでしかないということだ。

◆巫女について学びたい人たち

世間一般に「巫女に関する情報を学べる・体験できる」というサービスは多々ある。

でもそれらはざっと見るかぎり「仕事に有利」とまでは風呂敷を広げていないのが、大きな違いかもしれない。

奉職に至らずとも、文化や作法を学び体験するという講座は有名な神社でも行っているし、外国人観光客の多い東京・浅草あたりでは「日本文化体験」として、手軽に巫女体験できるサービスも存在する。

◆見せかけの神秘性

スクールの活動は海外メディアでも紹介されており、そうした発信も「信頼できる」「素敵な」スクールのイメージを後押ししているだろう。スクールが取り上げられた海外の番組を見ると、歴史がありそうな立派な神社で、巫女たちが奉仕する神秘的な光景が映し出されていた。

しかしその実態は、あくまでメディア用の撮影であり、実際に奉仕しているわけではない。

「番組で出てきた神社は、メディアの撮影に場所を提供していることで知られる神社です。試しに、“この海外番組で登場した巫女に会いたい”と訪れてみるといいですよ。”撮影に貸しただけで、その巫女たちとは一切関係ない”という回答がかえってくるはずですから」

海外メディアでもとり上げられた、立派なスクール。疑いの目を持って調べなければ、そうした印象を持つのは仕方がない。だが、フタを開けるとこの有り様。

「本職にするわけではないから、なんとなく巫女の雰囲気を楽しめればいい」という生徒もいるのかもしれないが、絹江さんの話のように肩を落とす生徒も少なくない。

「思ってたんと違う」――そんなスクールは、巷(ちまた)に数えきれないくらいあるだろう。しかし「伝統」「心の浄化」「精神の統一」という宣伝と、やっていることのギャップがすごすぎる話であった。

◆これも自己責任なのか?

また、このスクールにはさらなる驚きがあり、疑似科学商品の代理店やマルチ商法への勧誘も紛れこんでいるという。これについてはまた次の機会に説明しよう。

一見は格式高く伝統がありそうな「認定資格」も、疑ってかかる必要があるものだと、あらためて認識させられた話である。特に民間の資格の場合は。

<取材・文/山田ノジル>

【山田ノジル】
自然派、○○ヒーリング、マルチ商法、フェムケア、妊活、〇〇育児。だいたいそんな感じのキーワード周辺に漂う、科学的根拠のない謎物件をウォッチング中。長年女性向けの美容健康情報を取材し、そこへ潜む「トンデモ」の存在を実感。愛とツッコミ精神を交え、斬り込んでいる。2018年、当連載をベースにした著書『呪われ女子に、なっていませんか?』(KKベストセラーズ)を発売。twitter:@YamadaNojiru

このニュースに関するつぶやき

  • やっぱ神道系は国学院と皇学館以外は信用出来んな…。
    • イイネ!10
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