タクシー運転手が遭遇した“神客”。吉原の女性の「素敵な対応」に感動、一方で銀座は…

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2024年05月28日 16:01  日刊SPA!

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日刊SPA!

タクシー降車場 ※画像はイメージです
 タクシー運転手をしていると、よく「たくさんの出会いがあるでしょ?」と聞かれる。確かに毎乗務多くの人と密室で接してはいるけれど……。
「こんにちは。ご乗車ありがとうございます」
「……。東京駅」
「東京駅ですね、かしこまりました。八重洲通りから八重洲口でよろしいでしょうか」
「大丈夫です」

 なんて、必要最低限の会話しかできないことが多い。乗客の80%はそんな感じなので、走った道は覚えていても人の記憶は残らない。以前の記事でご紹介したような「テメエなんざぁ、二度と乗せるか!」とイラだつ輩のことは覚えているけれど、そんな記憶をいつまでも残しておくのは精神衛生上よろしくない。

 どうせ残すなら良い思い出だけにしたい。そこで今回はこれまでに出会った「素敵な・楽しい・嬉しい」お客さんについて書いてみよう。

◆呼ばれた瞬間から人柄がにじみ出ていた女性

 春の昼下がり、アプリで呼ばれた先は上野のお寺。40代の女性からの依頼だった。すぐに向かうと、さらに追加情報として「お寺の入口で待っています。よろしくお願いいたします」と丁寧な言葉が送られてきた。

 こういうメッセージを送ってきてくれる人は滅多にいないので、どんな人が待っているのか興味津々だった。きっと上品な奥様風の方なのかと想像しながら到着すると、まさにその通りの女性が待っていた。ゆっくり車を近づけると、スマホの情報と車を見比べながら、少しはにかむように会釈をされた。まるで映画のワンシーンのように思えた。

 ドアを開け、挨拶しながら名前を確認すると「〇〇でございます。よろしくお願いいたします」に始まり、乗車中は窓から見える景色の話題など、こちらを気遣うかのように話題を振ってくる。そして降りる時も「いろいろお話できて楽しかったです。またよろしくお願いしますね」と大人の素敵な言葉。ぜひまたお会いしたいと心底思った。

◆私も接客業だから、わかるわ

 江戸の昔から遊郭として名を挙げた吉原。当時は江戸の文化の中心で、遊女の最高峰花魁ともなれば、時代の最先端を行くスターだったと伝えられている。そして現代もここには複数のソープランドが建ち並んでいるわけだが……。

 周辺を走っていると、このエリアを行先に指定する若い女性が乗ってくることがある。こちらは「きっとお店の子だろうな」と思うが、あえて口にすることはない。近くに来てもお店の名など固有名詞は口にせず「このあたりでよろしいですか」と確認し、送り届ける。ある意味、こちらが気を使う。

 とはいえ、彼女たちに悪い印象を持ったことがない。高い確率で乗車時に挨拶してくれるし、乗り込んだ瞬間、車内がよい香りに包まれる。いいおっさんはそれだけでもドキドキしてしまう。中には気軽に話しかけてくる人もいる。

 先日も「運転手さん、嫌なお客さんとかあたった時とか、どうしているんですか」と聞かれ、自分なりの対処法を答えたところ「そうよね、切り替えが大事ですよね。私も接客業だからわかるわ」。そして降りる時は「今日はいいお話が聞けました。ありがとうございました」と丁寧に挨拶され、某店に入って行った。あまりの素敵な対応に、店の名前をしっかりメモしてしまった筆者である。

 ちなみに夜の銀座で働く女性にはあまり挨拶された記憶がない。威圧的か無言が多いのが筆者の印象である。

◆同業者の話は同意の嵐

 早朝のビジネスホテル前から乗ってきた中年の男性は、日曜日にも関わらずスーツ姿に大きめのキャリーバッグを持っていた。出張と思いきや、目的地を聞くと都内の某公園駐車場を指定する。

 確かあそこは観光バスの駐車場があったはず。「もしかして、バスの運転士さんですか」尋ねると「はい、やっぱりバレますか(笑)」と明るい返事が返ってきた。

 乗っている車種は違えども同じプロドライバーなので、その後はタクシーと観光バスの働き甲斐について意見交換が続いた。世間ではバス運転手は人手不足で大変とも聞いていたが、その男性は「ウチは外国人専門のバス会社なんで、皆さん陽気で楽しく運転できていますよ。チップだけでも結構もらえるのでいいですよ」なんてお話も。同業者とは気軽に話すことができ、意気投合することが多いから面白い。

◆ちょっとコンビニ寄ってと頼まれた後

 アプリで都心のマンションから乗ってきたのは20代半ばくらいの男性。タクシーに乗り慣れているのか、目的地の伝え方が的確かつ正確。テキパキしたデキる若手サラリーマン的な印象を持った。

 その彼が途中で「すみません、この先のコンビニで停めてちょっと待ってもらえますか?」と降りていく。数分後、戻ってきた彼は「お待たせしました。これ、良かったどうぞ」と、冷たいペットボトルのお茶を差し出した。

「わざわざ停まって待ってもらった運転手さんへのお礼です」なんてニクイ言葉まで添えてくれる。嬉しいじゃないですか、こういう気遣い。その後の運転はより慎重に、気合を入れ直した。

◆気遣いの言葉が自然に出る人なら大歓迎

 今の時代、街中や列車内で周囲に関心を示さず、後部座席でうつむきながら、ひたすらスマホを注視する人が増えた。結果、走行中の車内は両者無言。運転手から余計な話をするなとの教育もあるため、嫌な緊張感が続くことがある。

 だからこそ、乗降時に挨拶を返してもらえるだけで運転手はちょっとした幸せを感じる。アプリなどで呼ばれた時、迎車地でしばらく待たされイラッとしても、乗車の際「お待たせしました」のひと言が出てくるだけで気持ちが安らぐ。

 急かし方も、言い方次第で大きく気分が変わる。もちろん命令的な思考で「急げ」とされるのは反感を買うだけ。「〇分の新幹線に乗りたいのですけど、間に合いそうでしょうか」とか、「ゴメンなさい、できるだけ急いでもらえますか」とお願いされると、こちらもプロ魂に火が付き、なんとかしようと頑張る。

 要するに、ごく普通に挨拶ができて、相手を気遣うことができる人は、いつでも大歓迎というのが本音なのだ。逆に言えば、それだけしっかり接してくれる人が少ないという、裏話でもある(※運転手側にも同じことが言えるのでしょうけど……)。

<TEXT/真坂野万吉>

【真坂野万吉】
フリーライター。定時制で東京を走り回っている現役の中年タクシードライバー

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