35歳俳優「あざとカワイイ」イメージはもうない?話題の新ドラマで見せた“生々しい表情”とは

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2024年05月28日 16:20  女子SPA!

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千葉雄大instagramより
 杉咲花主演の『アンメット ある脳外科医の日記』(関西テレビ・フジテレビ、毎週月曜日よる10時放送、以下、『アンメット』)で救急部長を演じる千葉雄大がかなり評判である。

 実際に見てみると、千葉の演技がいいとかそれ以上の感慨深さがある。現在35歳。彼のキャリア全体を見渡しながら本作の演技を見つめると、どんなことが見えるだろう?

 イケメン研究をライフワークとする“イケメン・サーチャー”こと、コラムニスト・加賀谷健が、“栄光のキャリア”を更新する千葉雄大を解説する。

◆忘れられない11年前の姿

 千葉雄大を初めて見たときに感じたときめきは今でもはっきり覚えている。もう11年も前のこと。あれは、テレビドラマ史上初のディズニーシー・ロケが敢行された特別ドラマ『恋するイヴ』(日本テレビ、2013年)だった。

 溝端淳平主演の同作で千葉は配達員を演じた。赤を基調にした制服。白と赤の帽子をちょっと上向きにして被り、前髪を強調するやんちゃな愛らしさ。そしてクリスマスイブの一夜に、彼がせっせと運び込むものの温かな手触り……。

 あぁ、この人が千葉雄大なんだな。出番はそこまで多くはないが、あんなチャーミングな人を記憶しないわけにいかない。

 自分のことを初めて見る視聴者を想定して、ちゃんと名前と顔を覚えてもらうために存在感を主張している。まだ“主演級前夜”だった彼の名刺代わりの出演作だった。

◆「イケメン」という一言に尽きる

 輝く逸材が放っておかれるはずがない。事実、2015年公開の『通学シリーズ 通学電車』は、タイトル通り、通学途中の電車で高校生を演じる千葉雄大と観客が決定的に遭遇する体験ではなかったか。

 公開劇場のスクリーンでその甘やかな遭遇を享受したひとりだった筆者は、これまでイケメン研究をライフワークとしてきたが、千葉雄大こそまさに「イケメン」という一言に尽きる存在だと思った。

 このカタカナ四文字の軽い響きは、そのまま千葉の軽妙な演技を定義してもいる。一方、イケメンがインフレ状態にあるともいえる現代で、筆頭に位置づける彼がその後、俳優としてどのように生き残るのかという不安を禁じ得なかったのもまた事実である。

◆イケメン俳優として“消費”されてしまう懸念

 そもそもイケメンという言葉が意味するのは、「イケてるMENS」というように男性全般を指すもの。でもどうやらこの四字熟語を聞いて人々がすぐに関心を寄せ、判断したがるのは、男性の「面」(メン)がイケてるかどうかばかりなのだ。

 内面(演技)より外面(顔)が圧倒的に重視されてしまう。イケメン俳優の演技を見るとき、前提として顔に対する評価が先行してしまう懸念がつきまとう。

 イケメン現象学の視点から捉えると、イケメン・オブ・ザ・イケメンの千葉雄大が消費され尽くしてしまわないか。イケメンという形容が不名誉な足かせになるのではないか。筆者はとにかくこれを懸念していた。

 特に『黒崎くんの言いなりになんてならない』(2016年)以降の千葉のイケメン要素を構成するカワイイ(ないしはあざとカワイイ)成分が、年齢を重ねるごとにどう変化するのか。うまく化学反応を起こして、深い味わいとして内面が掘り下げられる必要があったのだが、現在の千葉はどうだろう?

◆煮詰まってきた感を払拭する『アンメット』

 ファンからの期待に応えるように、カメラの前に立つ本人もかなり意識的にあざとカワイイを実践し、体現してきた印象がある。30代突入以後の出演作が彼の現在を読み解くポイントになる。

 まず田中圭主演の人気シリーズのシーズン2作品となった『おっさんずラブ -in the sky-』(テレビ朝日、2019年、放送時に千葉は30歳)では、カワイイにクールを加味した鬼に金棒のイケメンキャラを強く訴求。

 光源氏が『源氏物語』の世界を飛び出して現代にタイムスリップしてくる『いいね!光源氏くん』(NHK総合、2020年)のタイトルロールは、角が取れたまろやかなあざとカワイイ仕草が、圧倒的な萌えの供給源となった。

 一方で、そのまろやかさが、『恋するイヴ』当時のようなきらっきらな純度100%のかわりに、どこか手馴れた印象を与え、経験を積んだ結果としてのしたたかなケレン味ともとれた。

 誤解を恐れずに言えば、ちょっとキャリアが煮詰まってきたというか、翳りを感じるところもあった。千葉雄大は、イケメンとして徹底的に消費されてしまったということなのか……。

 どっこい、現在放送中の『アンメット』がそれが杞憂に過ぎないのだとすっぱり示してくれた。

◆軽々しい印象を排する

 杉咲花扮する記憶障害の脳外科医・川内ミヤビが主人公の同作で、千葉が演じるのが、救急部長・星前宏太。スタッフ間の円滑剤になるまとめ役を引き受ける、頼れる兄貴キャラだ。

 アメリカからやってきた謎の脳外科医・三瓶友治(若葉竜也)が実はミヤビの婚約者であることを探り当てるのも宏太。お節介スレスレで相手の心を開かせる愛すべき人物像を輪郭付ける千葉は、特に何気ない会話場面での好演が際立つ。

 ミヤビと竜也と並ぶスリーショットから宏太のクロースアップをカメラが抜くと、千葉雄大そのものみたいな生々しい手触りが伝わる。ここには、これまでの作品のようなあざとカワイイはあまり感じられない。イケメン俳優であることへのカウンター的な演技とでもいうのか。

 第3話、ミヤビの記憶をなんとか呼び戻そうとする竜也に対して、宏太がいきなりバックハグをかます場面がある。千葉がバックハグをすれば、そりゃただちにキュン要素になるはずだが、ここではそういう軽々しい印象は排されている。

◆35歳になった今の演技

 あるいは自分の専門分野だけでなく全科に精通しようと努力する宏太の葛藤がにじむ第5話。ミヤビとのランチで、全科を網羅したい理由を涙ながらに熱く語る宏太のアップが写り、画面上のエモーションが高まったかと思えば、さっとカメラが引く。深刻な雰囲気を回避するように軽妙に笑って見せる千葉が写る。

 なんだろ、この千葉雄大。あざとテクニックなどの小細工は一切なし。自分の演技一本勝負の更地みたいな表情。ここで、俳優デビュー前の足がかりとした『CHOKi CHOKi』での専属モデル修業時代の記憶を引っ張り出しておく必要がある。

 千葉がいわゆる紙面を飾るおしゃれキングモデルだった『CHOKi CHOKi』は、2000年創刊のファッション誌。(イケメンであるはずの)モデルたちへのイケメンという形容が極端に制限された稀有なメディアのひとつだった。安易な形容よりモデルのパーソナルな一面をストリートのスナップ写真として多面的にコラージュしていた。

 そんな出自を考えると、図らずもイケメンという称号をこれまで与えられてきた千葉が、35歳になった今、『アンメット』でイケメンに対するカウンター的な演技によって、“栄光のキャリア”を更新していることが感慨深くはないか?

<文/加賀谷健>

【加賀谷健】
音楽プロダクションで企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆している。ジャンルを問わない雑食性を活かして「BANGER!!!」他寄稿中。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu
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