「ワシの楽しみを取り上げるのか!」免許返納を認めない79歳父親が自家用車を手放した“まさかのワケ”

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2024年05月29日 09:01  日刊SPA!

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※画像はイメージです
 昨今のニュースで頻繁に見かける「ペダル踏み間違いによる死亡・重傷事故」。公益財団法人「交通事故総合分析センター」によると、2018年から2020年にかけて、65歳以上の発生件数が、それ以下の年齢層に比べて約5倍にものぼっています。
 この問題を解決するには、高齢者による免許の自主返納が最善の策かもしれません。今回は、そんな「免許返納」に関する親子のエピソードをお伝えします。

◆毎月の実家帰省ルーティーン

 都内に住む伊勢崎さん(仮名・49歳)には、地方に独りで住む父親の健介さん(仮名・79歳)がいます。代々農家を続けていて、今でも元気に畑仕事をする健介さんですが、5年前に妻(伊勢崎さんの母親)を亡くしてからは少し元気がありません。

「実家まで、中央道で2時間ほどです。子供たちも連れて帰り、野山で存分に遊んで一泊した後で再び戻る、というように定期的に帰省しています。しかし、母が亡くなってからは、つい心配になって、月に2回帰省することもあります」

 実家近くの清流では、今でもたくさんの魚が釣れるそうで、伊勢崎さんは、若い頃にできなかった親孝行に励んでいるそうです。

◆その日父親は留守だった

 ある日のこと、特に事前連絡を入れずに実家へ戻ると、健介さんの車がなく、どこかへ出かけているようでした。

「帰省したとき、普段はほとんど家にいるはずの父親が、その日は留守だったのです。戸締りはちゃんとされていましたが、ふとガレージを見ると、父の車もありませんでした。買い物にでも行っているのだろうと思い、家の中に上がって待っていました。そうこうしているうちに、エンジンの音が聞こえたので外へ出てみました。すると、前部がボコボコになった父の車が目に飛び込んできました」

 健介さんの話によると、スーパーの帰り道で買い忘れに気づいてUターンしたところ、側壁の岩にぶつかったとのことです。

「あー、気にすんな。人間はひいておらんから!」と、何食わぬ顔で答えた健介さんでしたが、伊勢崎さんの脳裏には「免許返納」の4文字が浮かび上がったといいます。

◆帰省の目的は免許返納の催促へ

 健介さんの単独事故以来、伊勢崎さんは気が気ではなくなり、タイミングを見計らっては、免許の返納を促したといいます。

「単独事故ならともかく、他人に危害などを加えたら大問題ですよ。それからというもの、嫌われることを覚悟で、免許の返納を口酸っぱく言ってきたのですが、本人は聞く耳を持たないどころか『おまえはワシの楽しみを取り上げるのか!』と、逆ギレされる始末でした」

 確かに、路線バスなどない田舎なので、自家用車がないと不便のようですが、それでも伊勢崎さんの不安は募る一方だったといいます。

「タクシーを利用するようにも言ったのですが、それも却下され、妻にも相談して、東京で同居することも考えました。でも、昔から頑固な父親は一向に首を縦に振ろうとはしませんでした」

◆「ワシ、免許返納するわ」

 そんなある日、健介さんから「ワシな、来週免許の返納に行ってくるわ。これでオマエも安心だろ」と電話があったそうです。

「あれだけ固辞していた免許の返納だったので、一瞬冗談かと思いましたが、本当でした。とりあえず、依然として半信半疑だったので、その週末帰省しました。そしたら、ガレージに真っ赤な見たこともない車が停まっていたんです。状況が理解できなかった私は、そのまま家の中に入りましたが、なんと父親より一回りは若そうな女性が座っていて、私にあいさつをしてくれました。その光景を見て、なんとなく免許返納の背景が分かった気がしました」

 どうやら、健介さんは、その女性と少し前に趣味で始めた絵画教室で出会ったらしく、健介さんの自宅によく遊びに来ているそうです。

「父親は、『その女性に免許の返納を促された』と言っていました。息子の言うことには少しも耳を貸さなかったのに、困ったものです。でも、母親が亡くなってから元気がなかった父親のことを思うと、その女性には感謝しかありませんね。私の帰省も減るかもしれませんし、とにかく良かったです」

 その後、伊勢崎さんの読み通り、健介さんの「様子見帰省」は激減し、今では3カ月に一度になったのだとか。

<TEXT/ベルクちゃん>

【ベルクちゃん】
愛犬ベルクちゃんと暮らすアラサー派遣社員兼業ライターです。趣味は絵を描くことと、愛犬と行く温泉旅行。将来の夢はペットホテル経営

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