ホームセンターの生き残りをかけたPB戦略 大手メーカーが支配する市場参入のカギは細分化

0

2024年05月29日 10:18  ORICON NEWS

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

ORICON NEWS

カインズのオリジナル商品「プロ仕様洗剤シリーズ」
 かつては高齢層がメインだったホームセンターは、近年のDIYやキャンプブームにより、若者世代にも客層が伸びた。時代とともに顧客層が変化するなか、カインズでは「鏡のうろこ取り」「冷蔵庫の自動製氷機クリーナー」など細分化したオリジナル商品「プロ仕様洗剤シリーズ」がSNSで話題になりヒットし、新たな顧客を掴んだ。熾烈な競争にさらされる小売業界の中、オリジナル商品開発に注力するホームセンターの事情と課題を探る。

【写真】エプロン姿がかわいすぎる!キッチンで料理する新垣結衣

◆キャンプやDIY女子ブームをけん引も停滞 近年はPB商品開発で起死回生するホームセンターが続々

 住宅・日用雑貨を中心に取り揃えた量販店であるホームセンターは、10〜20年前は中高年層が顧客のメインだった。近年は、コロナ禍のキャンプブームやSNS映えの流れに乗った“DIY女子”などのトレンドにより、顧客層の幅が若い世代にも広がった。しかし最近では、一時期に比べてそうしたブームも落ち着いてきている。疾風怒濤の時代に注目を集めているのが、ホームセンターそれぞれが独自に開発するオリジナル商品だ。

 細分化した「プロ仕様洗剤シリーズ」をヒットさせたカインズでは、同社のオリジナル商品開発の黎明期だった2007年に企画から販売まで一貫して手がける体制を整え、オリジナル商品の開発を本格的にスタートした。その背景をカインズ・広報部の星野彩華さんは、「ライフスタイルが多様化する中、お客様1人ひとりの自分らしいくらしをサポートしていきたいという考え方があります」と振り返る。

 2007年からスタートしたオリジナル商品群は、2023年末までの全体的な売上高の推移で、大きく上昇しているという。星野さんは「商品の使いやすさやからデザイン性まで、生活者の目線に立ち、求められる使用体験に着実に応えてきたことがお客様からご評価をいただいています」と10年先を見据える商品開発の成果に自信をのぞかせる。

 この2年ほどは世相的に若い世代の来店が増える傾向にある一方、それは劇的に大きな変化ではなく、顧客層は絞らずオール世代をターゲットにしている。そこで掲げるのは「年齢層の分け隔てなく支持される、お客様のニーズに寄り添った商品開発」(星野さん)とした。

◆ニッチな分野に勝機を見出し、大手メーカーの牙城に迫る コスパ・タイパに応える細分化された商品に高まるニーズ

 カインズのオリジナル商品は「使いやすく」をテーマに、顧客や店舗スタッフの声を反映し、生活者の不便さを改善していくことを軸に商品開発を行ってきた。

 そんななかで生まれたヒットが、2019年発売の「プロ仕様洗剤シリーズ」だ。「鏡のうろこ取り」「トイレの尿石取り」「ヤニ汚れ落とし」「キッチンのコゲおとし」「冷蔵庫の自動製氷機クリーナー」など目的ごとに細分化し高機能化した商品群が生活者のニーズに刺さり、ヒットシリーズとなった。当初は11アイテムでスタートしたが、使用する場所やシーンごとの商品開発を加速し、現在までに51アイテムに増えている。

 洗剤といえば、圧倒的な知名度のナショナルブランド(NB)を有する大手メーカーの牙城。そんな市場へオリジナル商品で参入した経緯を、カインズの中村敦さんは「いわゆるブルーオーシャン(空白地帯)と呼ばれるようなニッチな商品カテゴリを狙いました」と語る。

「襟や袖の汚れ落とし、シミ取りといった細かいニーズに応える洗剤は、過去に私が知りうる限りでは家庭用に使いやすく開発された商品がありませんでした。これを作ることができれば、カインズとしてお客様のくらしの役に立てると思い開発に踏み切りました」(中村さん)

 前例がなく、売れるかわからないニッチな分野に踏み込む商品の開発には、社内の説得に時間がかかったという。最終的には新しいことにチャレンジする社風が追い風となり、商品化が進む。それがヒット商品となり、シリーズ化が実現した。

 コスメや美容なども含め、コストやタイムパフォーマンスの観点から、「これ1本で」というオールインワンが日本人には好まれる傾向がある。そうしたなか「細分化される洗剤」がヒットした要因はどこにあるのか。中村さんは「昔と比べると時代の変化がある」という。

「コロナ禍で生活行動の範囲が狭まった中、家の中でも場所ごとに集中的に掃除をする方が増え、そういった掃除道具が多く売れるのと同時に、場所ごとの汚れの落とし方に悩むお客様が多くなりました。背景にくらしの変化があります。軽いものからしつこい汚れまで、場所ごとにも違います。強力なひとつの洗剤で時間をかける掃除は決して楽ではありません。本来は場所別、シーン別に細分化していくべきだと考えています。それぞれに特化した洗浄力を備えて不便を解消したのが、多くの方に使っていただけている理由のひとつだと思っています」(中村さん)

◆商品細分化やSNSでバズるデメリットも…奇抜さを無くした生活空間になじむパッケージで人気も

 一方、細分化しすぎたことで逆に売れなかった商品もある。

「襟袖洗剤でも、ピンポイントで塗るスティック、広範囲にかけるスプレーなどタイプを開発しましたが、ニーズがわかれてしまいました。このようなケースにおいては細分化しすぎるよりも、用途を絞ってまとめることも課題としてあります。売れなかった商品は原因究明から改良を進め、ブラッシュアップを計画しています」(中村さん)

 同シリーズの最大の強みは、プロ仕様の機能を家庭向けの手頃な価格で提供していることだろう。生活者にとって、使用用途によって確実に汚れを落とす専門的な洗剤のハードルを下げた功績は大きい。そんな機能性に加え、『2022 グッドデザイン賞』を受賞するなどパッケージデザインにもこだわった。

「一般的な洗剤は目立たせるパッケージが主流ですが、このシリーズはどなたでも気軽に手に取りやすく、生活空間になじむ白を基調にしたシンプルなデザインにしています。その結果、SNSでも話題になったことで10代の学生さんなど若い方にも認知され、幅広い年齢層の方に使っていただけるシリーズになりました」(中村さん)

 SNS映えの影響力を感じる一方、バズることで商品の生産、店舗への供給が追いつかず、世の中の盛り上がりに反して会社としてのデメリットも感じているという。そうした中、中村さんが商品開発に活かすのは、顧客や店舗メンバーのリアルな声だ。

◆“モノを並べて売る”ビジネスモデルが通用しない時代 “モノ”から“コト”売りにシフト

 カインズの生き残りをかけた戦略の1つがオリジナル商品になるが、同時に2018年から強化するDX化によるデジタル購入体験の拡大にも注力している。オンラインショップや、売り場検索機能を備えたアプリのほか、専用のロッカーを設置したネットと連動する取り置きサービスは、コロナ禍以降、店舗に入らず買い物が完結する利便性から利用者が増えているという。デジタルシフトによって顧客の利便性をより拡張している。

 “ただモノを並べて売る”ビジネスモデルが通用しなくなった時代において、カインズが未来を見据えて注力していることを聞くと、星野さんはこう答える。

「2023年に『くらしDIY』をブランドコンセプトに掲げました。くらしは創意工夫でもっと楽しくなるというメッセージを込めています。時代とともに価値観も多様化し、一人ひとりの考え方が変わっていくにつれて商品の売れ行きもどんどん変化していきます。そんな中でも、我々の知識や経験をもとにお客様をサポートし、アイデアを届けていくことで、カインズなら「やりたいことが見つかる」と思っていただけるような存在になりたいと思っています」(星野さん)

 そのなかには、現状のカインズが抱える課題もある。

「いまは弊社がホームセンター業態を立ち上げた40年前と全く異なり、モノを置くだけで売れる時代ではなくなっています。お客様の生活の中には、見えていない困りごとや解決したいことなどへの潜在的な意識があり、それは商品だけでなく、行動にも共通している課題です。我々はそれをお客様の背景から意識したうえで、より楽しく便利で豊かな生活になるように、スピード感を持って解決していくことを使命に掲げています」(星野さん)

 意図的にモノを減らす「ミニマリスト」が注目される一方、好きなものの装飾で部屋を埋め尽くす「推し活」も一般的になり、ライフスタイルの多様化が時代の流れとしてある。そうしたなかで、ホームセンターの新たな役割もあるようだ。

「カインズはお客様のくらしを支えるまちのライフラインの役割を担うとともに、お客様のくらしをより楽しく、自分らしくすることを重視した時に、必要なことを提案したいと考えています。その第一歩が『くらしDIY』です。いまは実現に向け改革中ですが、部署を横に横断した商品開発体制を整えています。カインズはホームセンターという枠にとらわれない挑戦を続けていきます」(星野さん)

(文/武井保之)
    ニュース設定