Alexandr Blinov - stock.adobe.com 中小企業コンサルタントの不破聡と申します。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、「有名企業の知られざる一面」を掘り下げてお伝えしていきます。
各自動車メーカーが凄まじい好決算を連発しました。2024年3月期のトヨタの営業利益は前期の2倍となる5兆3529億円。ホンダは1.7倍の1兆3819億円でした。各社ともに2桁増収、2桁営業増益となっています。
ただし、2025年3月期は各社ともにトーンダウンする見込みです。今期は真価が試されるタイミングとなるでしょう。
◆好決算に沸くも、円安バブルが弾けると…
トヨタは営業利益が初めて5兆円を超えました。これは日本企業初の快挙。世間はコストプッシュ型のインフレで不景気に似た暗い空気が漂っていますが、自動車メーカーはバブルとも言える好決算に沸いているのです。
ホンダは営業利益が初の1兆円を超えました。日産はコロナ禍で2期連続の営業赤字に陥っていましたが、V字回復を成し遂げて営業利益率は4%台まで回復しています。
スズキは営業利益が1.3倍、マツダとSUBARUが1.8倍近い営業増益となりました。
しかし、これがバブルとも言うべき儚いものであることも事実。増益要因として、円安が深く関係しているためです。
2024年3月期のトヨタの営業利益は、2兆6279億円の増額。そのうちのおよそ3割に相当する6850億円が円安による押し上げ効果なのです。ホンダも営業利益は6012億円の増加となっていますが、およそ3割の1511億円が為替の影響です。
日米の金利差を背景とした急速な円安進行により、海外収入の比率が高い自動車メーカーは大いに恩恵を受けることができました。
◆各社が控えめに見込むなか、マツダだけ2ケタ増収予想
2024年は円安が過度に進行することはなく、落ち着きを取り戻しています。従って、今期(2025年3月期))は為替による大幅な増益には期待ができません。
トヨタは営業利益を前期の2割減となる4兆3000億円と予想。ホンダは2.7%の営業増益を予想していますが、0.6%の減収見込みを出しました。
一方、力強く伸びる見込みなのがマツダ。営業利益は7.7%の増加。各社売上高が停滞するなかで、10.8%の増収を予想しています。
◆6大自動車メーカーで、唯一減収予想のホンダ
そんななか、ホンダがやや苦戦する見込みを発表しています。
今期は為替が2010億円の営業利益下押し要因になるとみています。それでも営業増益となるのは、売価の引き上げ効果に期待してのもの。5020億円程度のプラスになると予想をしています。
ポイントは6大自動車メーカーのなかで、唯一減収予想を出していること。四輪事業のアジア圏における販売台数の大幅な減少を見込んでいるのです。
◆「EVシフト」で中国での苦戦が目立つ
ホンダの自動車販売における主力エリアは北米とアジア。北米は引き続き好調で、2025年3月期の販売台数は前期のプラス4万7000台の167万5000台。苦戦しているのがアジア。今期は152万5000台となり、12万6000台もの減少を予想しているのです。
特に手を焼いているのが中国。EVでの出遅れです。
中国における日本の自動車メーカーの強さは、買い替え需要の受け皿というポジションにありました。品質や安全性の高さ、アフターサービスの手厚さなど、日本企業が得意とするきめ細やかな商品・サービスが顧客を引き付けていたのです。それが消費者のなかで信頼のブランドとして刻み込まれていました。
しかし、中国で中間層のEVシフトが起こると、自動車に対する意識が一変しました。EV購入においては、旧来の自動車のブランド名にとらわれることはあまりなく、フル充電での走行距離や充電時間、価格といったコストパフォーマンスが決定要因となったのです。
ホンダに限らず国産メーカーの多くは、EVのコストパフォーマンスにおいてBYDといった中国メーカーに勝てる隙はほとんどありません。自社でバッテリーを作っているためにコストや技術力で優位性があり、現地の文化を知り尽くしているうえ、海外のメーカーが長年かけて構築した自動車のブランド力がほとんど脅威にならないためです。
中国で苦戦しているのは日産も同じ。ただ、日産は北米が好調で7.2%の増収を予想しています。日産のように過度な中国依存からの脱却を図らなければ、ホンダの苦戦は続くかもしれません。
◆高単価のSUVがアメリカで人気となったマツダ
6大自動車メーカーのなかで、唯一2桁増収見込み。営業利益も7.7%増と、最も増益率が高い予想を出しているのが、マツダです。2021年3月期には売上高が3兆円を下回り、売上規模が近いスズキに大きく水をあけられていました。
しかし、2025年3月期は売上高を5兆3500億円と予想しており、回復が鮮明になっています。
好調なのが北米。2024年3月期の販売台数は51万4000台で、前期から10万7000台も積み上げました。3割近い増加です。今期は更に8万6000台プラスして、2割の増加を見込んでいます。
ラージ商品と呼ばれるSUVタイプの「MAZDA CX-50」「MAZDA CX-60」「MAZDA CX-70」「MAZDA CX-80」が好調。「MAZDA CX-50」はハイブリッドモデルを投入したことで新たな需要を獲得しました。
マツダはアメリカの販売拠点のリニューアルも行っており、2024年3月末時点で300店舗以上の転換を行っています。2024年3月期の新型店舗の1店舗当たりの平均販売台数は、前期比12.2%増の826台となりました。2025年3月期は900台以上を見込んでいます。
円安効果が切れた今期は、自動車メーカーの実力が問われる局面となりました。
<TEXT/不破聡>
【不破聡】
フリーライター。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、経済や金融に関連する記事を執筆中。得意領域は外食、ホテル、映画・ゲームなどエンターテインメント業界