「アナログで描けるのは最大の武器」人気アニメーター・西位輝実のXが話題 投稿の真意を聞く

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2024年05月30日 12:10  リアルサウンド

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■アナログに回帰する動きもある


 今や漫画家の9割はデジタルで作画しているといわれ、アニメの現場でもアニメーターはデジタルを駆使して制作にあたっている。そんななかで、アニメーターの西位輝実のXのポストが反響を呼んでいる。西位はXでこのように語っている。


 「若い人にはデジタル機材は高すぎてコピック回帰してると言う話も聞くけど。いい話だと思う。アナログは絶対やっておいた方がいいよ。地道にアナログで描いたほうが何に描いてもブレない“確実な画力“が上がるので」


そして、こうも述べている。


「今後の世界情勢みてても、何が起こるかわからない。道具や価値観がガラリと変わっても、アナログでも描けることは、最大の武器ですよ」


https://twitter.com/nishiiterumi/status/1784805975901507668?s=12&t=vSAAAgQQry9SU3DJFknXgQ


 まだ一部ではあるものの、漫画やイラストを描くクリエイターの間では、コピックなどのアナログ(手描き)画材に原点回帰する動きがみられる。企業側もこの動きに反応している。少女漫画雑誌「ちゃお」ではプロ仕様のアルコールマーカーが付録になったこともあるし、先日行われた「マンガジャパン」の懇親会でも、コピックやスクリーントーンなどを販売するアイシーが出展し、積極にPRする光景が見られた。


  また、三浦みつるら手描きにこだわるベテラン漫画家が「マンガ☆ハンズ」を結成し、話題になった。同団体では漫画の原画の販売を行うほか、今後は手描きの楽しさや魅力を広めるために様々な企画を手掛ける構想もあるという。デジタルの進化、そして生成AIなどが注目される一方で、アナログの魅力が再発見されつつあるのは間違いない。創作を取り巻く環境が激変する中で、見直され始めているアナログの魅力はどこにあるのだろうか。西位輝実に話を聞いた。


■デジタルの時代に手描きを重視する意味

――西位さんは、講師を務める専門学校でも手描きの大切さを説いているそうですね。デジタルが全盛で、最近では生成AIなども話題に上る時代に、なぜ手描きなのでしょうか。


西位:アナログで絵を描くことは、身体的に得られる情報が多いんですよ。そのため、画力の成長スピードが段違いに良いと、育成に携わる先輩たちからも聞いています。アニメーターに関しては統計データがあるわけではありませんが、一般的な勉強でも、紙に文字を書いた方が記憶への定着力が良いとする研究もあります。そもそも画力の源泉は記憶力と反復練習ですし、この研究がそのまま当てはまるのでは? と感じています。


――なるほど。手描きの方が“ブレない確実な画力”が上がると西位さんはおっしゃいますが、では確実な画力とはどのようなものでしょうか。


西位:紙でもデジタルでも変わらない、道具によって変動しない画力のことですね。アニメでいえば主に線画の話ですが、紙で描ける人はどんな道具を使っても画力が変わることはあまりないですし、デジタルへの適応力は高いと思います。


――確かに、デジタルで上手い人がアナログだと描けない、という事例はよく聞きます。液晶タブレットだと優美な線を描けるのに、紙だとガタガタの線になってしまったりするようですね。西位さんもそうした例を目にしたことはありますか。


西位:線がガタガタくらいならまだ良いのですが、画力自体が下がってしまうのが怖いです。私が担当するアニメ会社の入社試験では、必ず実技は紙で描いてもらうようにしています。デジタルで描かれたポートフォリオを見て、これだけ描けるなら大丈夫……と思って採用したら、紙ではまったくダメ、という人は意外と多いんですよ。両方できる人の方が応用力があるので、安心感があります。


■アナログで培った画力は強い

――西位さんが協力している、アニメーターの団体「一般社団法人日本アニメフィルム文化連盟」(NAFCA)が取り組んでいるアニメータースキル検定でも、試験は手描きなのだそうですね。


西位:これは単純に、学生がアニメを勉強し始める際、デジタル機材を揃えるにはお金がかかりすぎるという理由が一番です。何しろ、液タブやiPadなど、デジタル機材を買いそろえたら十数万円ですからね。


――確かに。昔は紙だと高いからという理由でデジタルから入る人が多かったのですが、私が今使っているiPadですら20万円近くしますし、デジタルの方が高価に感じるようになりました。


西位:紙なら頑張ってバイトすれば、学生でも十分に始められますからね。また、アニメはもともと紙から始まったので、現代でも紙の時代から受け継がれたワークフローが随所に残っています。これを理解し、的確に次のセクションに素材を整理して渡すことは、集団作業の上ではとても大事なことです。


――アニメの制作の仕組みを根本から理解するうえで、一度はアナログに触れておくことは重要なのですね。


西位:育成に携わる先輩たちからも、紙からスタートしたほうが、空(カラ)セルやかぶせ、クミや合成など複雑なセルワークを理解しやすいという意見を受けました。これが、検定の最初の基礎は紙でやろう、という話になった理由です。検定の教科書作りでは、アニメ制作に詳しくない声優さんたちに、学生目線で質問してもらう形で入ってもらっています。デジタルレイヤーでの説明では難しいと言われることも、紙とセル画で説明したらすぐに理解してもらえています。


アナログだからこそ感じられるもの

https://twitter.com/nishiiterumi/status/1784805975901507668?s=12&t=vSAAAgQQry9SU3DJFknXgQ


――西位さんが考える、アナログイラストや手描きの魅力はなんでしょうか。


西位:たぶん、アニメーター、特に作画監督や総作画監督って、もっとも他人の絵を見ることが多い仕事なんですよ。同じ作品なのに、描き手によって全然絵が違うものがあがってきて、それを見るのはとても楽しいんですよね。性格や性質、気質までよくわかるというか。ずっと一緒に仕事している人の絵なら、体調やメンタル、その時のやる気、眠気や集中具合などもわかったりします(笑)。


――まさに、アナログならではの醍醐味ですね。


西位:デジタルだと、なかなかそこまでは読み取れませんからね。絵から人間の性質や性格が見えるのはアナログの魅力だなと思いますね。生成AIの話が議論になっていますが、それとは別に、もっともっと、オタク系クリエイターの中からアナログで描くという人も増えるといいなぁと思っています。私は作品を見るのが純粋に楽しいので(笑)。


――アナログで描けることが武器になる場面は、どのような例が考えられますか。


西位:むしろ、今後そういった機会は増えるでしょうね。いつか生成AIから違法性がなくなって、普通に使えるようになれば、逆に人の描いた一点ものの価値はあがるでしょう。「一点ものを所有する」という価値の上昇に伴って、アナログのオタク系イラストも美術品のような扱いになっていくかもしれませんね。現在はまだその途上ですが、やがてそうなると良いな、と思っています。


 


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  • 漫画・イラスト技法書の著者(漫画家・イラストレーター)も自著で直しの利かないアナログを継続すると上達が早くなると述べてる。
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