木村拓哉、篠原涼子「往年の視聴率俳優」に強まる逆風。“変わらないキャラ作り”には既視感も

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2024年05月30日 16:21  日刊SPA!

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『Believe』番組公式HPより
 木村拓哉(51)主演の『Believe-君にかける橋』(テレビ朝日・木曜午後9時〜)と、篠原涼子(50)、バカリズム(48)が主演する『イップス』(フジテレビ・金曜午後9時〜)への風当たりが強い。どうしてなのか。理由を深掘りしたい(視聴率はビデオリサーチ調べ、関東地区)。
◆個人視聴率では2位以上をキープ

 まず、『Believe』から。4月にスタートしたプライム帯(午後7時〜同11時)の春ドラマは16本あるが、その中でこの作品の個人視聴率は第1回が6.8%で1位、第2回が5.9%で1位、第3回が5.8%で2位、第4回も5.7%で2位、第5回も5.7%で2位。1度も2位以下になったことがない。それでも批判を浴びる。

 ちょうど1年前に木村がフジテレビで主演した『風間公親−教場0−』もそうだった。個人視聴率が常時3位以内に入り、コアも高く、10代の視聴率(T層)に至っては全回平均がトップとなったものの、かなり非難された。10年ほど前までは「視聴率男」の異名を取っていたから、2位、3位では許されないようだ。

『Believe』の場合、第3回以降の世帯視聴率が2桁を割っており、これも冷評の理由の1つになっているが、世帯視聴率に反応するのはテレビ界の外側にいる人だけなのだ。池上彰氏は2年も前にこう書いている。

「いま各テレビ局は、世帯視聴率は問題にしていないんです」(2022年6月3日付、東洋経済オンライン)。

 2020年4月からテレビ界と広告界の標準指標は個人視聴率になった。今のテレビ界は世帯視聴率を無視している。NHKと民放の業務報告書、株主向け情報でも世帯視聴率は論点から完全に外れている。

 世帯視聴率から個人視聴率への移行はテレビ界の勝手な都合ではない。1962年に計測が始まった世帯視聴率は時代に付いていけなくなった。致命的欠陥が生じている。高齢者好みの番組ほど数字が高くなってしまうのだ。

 理由は世界に類を見ない急速な少子高齢化。トレンディドラマがブームだった1990年の時点で65歳以上の人がいる高齢者世帯は全体の26.9%に過ぎなかったが、2021年には高齢者世帯率が49.7%にまで上昇した(内閣府調べ)。

 世帯視聴率は数の多い高齢者世帯に向く番組が圧倒的に有利なのだ。だからラブストーリーや学園ドラマの数字は低く、オーソドックスな刑事ドラマや日本テレビ『笑点』(日曜午後5時30分) などは高くなる。偏りが大きすぎるのだ。

◆コア視聴率が高くないのは当然の話

 一方、標準指標となって4年になる個人視聴率は幼児から高齢者まで全世代の視聴者を調査対象とする。だから「ALL」とも呼ばれる。『Believe』はALLが常に2位以内に入っているわけだ。

 個人視聴率は特定の世代に絞った数字も出せる。その1つが、13歳から49歳までに限定した「コア視聴率」である。この数字はCM単価、売上高に大きく左右する。CMを出す意欲の強いスポンサーの上位には、コア層を主なターゲットとする業種が並んでいるからだ。ゲーム・通信業などである。

『Believe』はこのコアがそう高くない。第5回は2.0%で5位。ただし、木村ばかりを責められない。そもそも木村の岩盤支持層が本人と同世代の50代以上の女性(F3層)なのは分かり切っていることなのだ。20代のころにフジ『ロングバケーション』(1996年)などを観ていた世代だ。逆に、10代から30代が木村の熱烈なファンだったら、そのほうが驚きである。

 木村のテレ朝での前作『未来への10カウント』(2022年)も岩盤支持層であるF3層の個人視聴率は高く、10%を軽く超えていた。驚異的な数字であり、全連続ドラマの中で断トツだった。一方で女性の20歳から34歳(F1層)の個人視聴率は極端なまでに低く、2%前後。男性の20歳から34歳(M1層)に至っては1%を割ってしまうこともあった。

『Believe』でもこの傾向は変わらない。第5回の場合、F3層の個人視聴率は突出しているが、F1層の視聴率は1.7%とかなり低い。これでは対象年齢が13歳から49歳のコア視聴率も高くならない。

 20代から30代前半の女性にとって木村はひと回り以上年上で、身近に感じにくい。いつの時代も若い視聴者の関心事は若い俳優たちだ。木村の所属していたSMAPの解散からも7年が過ぎた。

 フジ『教場0』が10代にも受けたのは新垣結衣(35)や北村匠海(26) 、赤楚衛二(30)、白石麻衣(31)ら若手俳優が新人刑事に扮し、木村は指導官役として一歩引いていたからにほかならない。作風もハードボイルド・ミステリーで刺激的だった。

◆F3層には絶大な支持を受けるも

 片や『Believe』は木村が前面に出ており、キムタク劇場と言ってもいい。木村が扮する無実の脱獄囚・狩山陸が、がんで余命1年の妻・冷子(天海祐希)のため、自分が罪を問われた橋の崩落事故の真相を突き止めようとする。木村はほぼ出ずっぱりだ。ストーリーもどちらかというとオーソドックスである。

 岩盤支持層である50歳以上の女性にはたまらないだろうが、10代を含むコア層を惹き付けるのは難しい。木村以外の出演陣も天海や上川隆也(59) 、北大路欣也(81) 、田中哲司(58)ら渋い面々が揃っているのだから。

 この体制を敷いた制作陣だって、高いコア視聴率を獲得するのは難しいことがあらかじめ分かっていたはず。アウトロー刑事役で若い世代に人気の竹内涼真(31)、弁護士役で斎藤工(42)を配し、コア層にも色気を見せているが、全体的にはF3向けであり、その通りの結果となっているのが実情だろう。

 だから、コア視聴率については木村を責められない。ただし、作品のクオリティを高めるために、木村に出来たことがあったのではないか。作品に合わせた役づくりである。

◆男性受刑者役なのに、髪は切らない

『教場0』の風間公親は白髪、義眼で、表情と口調は硬く、老成した人物であることが伝わってきた。一方で狩山陸は服役中もどこか爽やか。脱獄後も焦燥感や苦悩はほとんど感じられない。

 少なくとも服役中は短髪にしたほうが良かったのではないか。法務省の訓令では、男性受刑者の髪は原則として2ミリか1.6センチに刈り上げることと定められている。1つのことが迫真性を欠くと、全体の現実味が損なわれてしまう。また、服役による辛苦も感じにくかった。

 往年の木村の役柄を知る岩盤支持層は、服役中だってカッコ良く、何事もスマートにこなす狩山のほうが良いのかも知れない。しかし、男性視聴者や若い世代には物足りないのではないか。

 木村とよく比較される故・田村正和さんはデビュー以来、2枚目役に徹していたが、53歳だった1987年に転機となる作品と出会う。プロデューサーに熱心に口説かれて出演したTBSのコメディ『パパはニュースキャスター』(1987年)である。

 田村さんは変人だが、愛すべき2枚目半に扮した。これにより役柄の幅が飛躍的に広がり、同『カミさんの悪口』(1993年)、フジ『古畑任三郎シリーズ』(1994年〜2006年)などのヒット作を次々と放ち、新たな黄金期を迎える。木村もそろそろカッコ良さと決別してもいいのではないか。

◆篠原涼子“30代小悪魔風”という既視感

 一方、篠原涼子のフジ『イップス』は視聴率面で大苦戦。5月24日放送の第7回は個人視聴率2.6%で12位、コア視聴率は1.2%で13位だった。

『古畑任三郎』と同じく、最初から殺人犯が分かっている倒叙ミステリーだが、脚本は『古畑任三郎』の域に達していない。まず犯人が驚くほど簡単に人を殺してしまう。トリックも練られているとは言いがたい。

 それより大きいのが、篠原の役柄に既視感が強いこと。演じているのは小説が書けなくなったミステリー作家・黒羽ミコで、バカリズム扮する刑事・森野徹と共に事件を解決するのだが、ミコの人物像は小悪魔的かつ自己中心的。能力は高いが、非常識。篠原が長年、得意としてきた役柄の1つである。服装も30代風だ。

 周囲の俳優は変化を遂げているにもかかわらず、篠原だけ変わらないのは観ていて辛い。やはり、そろそろ過去を捨ててみるべきなのではないか。<文/高堀冬彦>

【高堀冬彦】
放送コラムニスト/ジャーナリスト 1964年生まれ。スポーツニッポン新聞の文化部専門委員(放送記者クラブ)、「サンデー毎日」編集次長などを経て2019年に独立。放送批評誌「GALAC」前編集委員
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