F1ウィリアムズ育成に13歳・松井沙麗が大抜擢 「ノリと勢いで何とか残れて」幼少期から厳しい父と二人三脚

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2024年05月31日 07:30  webスポルティーバ

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松井沙麗インタビュー前編(全2回)

 女子大生の野田樹潤(Juju)選手が国内最高峰のスーパーフォーミュラに参戦して大きな注目を集めているが、彼女に続く逸材として期待されているのが、松井沙麗(さら)選手だ。

 現在13歳の松井選手は、イギリスの名門F1チーム・ウィリアムズのドライバーアカデミーに所属することが決まり、今年からヨーロッパで本格的なレース活動を開始している。

 今回、松井選手と彼女の活動を支えてきた父の広史さんにインタビュー。レースを始めた幼少期から現在へ至るキャリアを振り返ってもらった。

【マシンが速ければ速いほど楽しい】

ーー沙麗さんはカートレースをしていたお父さんの影響でレースを始めたそうですが、プロのドライバーになりたいと思ったのはいつぐらいですか?

松井沙麗(以下、沙麗) カートレースを始めてからすぐです。5歳で初めてカートに乗って、翌年にはレースに出ていますので、6歳ぐらいにはプロになろうと思っていました。ちょうどテレビで中継していたインディ(アナポリス)500のレースを見てカッコいいなって。

父・広史(以下、広史) 正直、本気にはしていませんでした。最初は「ああ、そうなんだ。頑張ってね」という感じでした(笑)。でも、カートを続けているうちにだんだん本気になってきましたね。

ーー沙麗さんにとってどんなところがレースの魅力だったのですか?

沙麗 一番はスピードですね。ほかの選手とバトルするのも好きですが、マシンが速ければ速いほど乗っていて楽しいです。小さい頃は、とにかくもっと速いクルマに乗りたいとずっと思っていました。(カテゴリーを)ステップアップしてだんだん速いマシンに乗れるようになってきたので、すごくうれしいです。

 怖いと思ったことはありません。カートは男女混合というか、男性と女性が一緒に戦えるところがほかのスポーツにない魅力だと思います。

【幼少期から親子二人三脚...現実的な父の言葉も】

ーーレースを始めてから、ここまで大きな壁にぶち当たることなく、順調にステップアップしてきましたか?

沙麗 毎年、壁だらけです(笑)。やっぱりステップアップするとレベルが上がりますし、ドライバーの顔ぶれが変わります。選手によって抜くのが上手だったり、スピードが速かったり、それぞれ特徴があって、走り方や戦い方を毎年合わせていくのは大変でした。

 でも、壁にぶつかってもやめたいと思ったことはありません。楽しいから続けていきたいという思いで、ここまできました。

広史 私はけっこう厳しく接しましたが、沙麗本人が「レースをやめたい」と言ったことは一度もないです。自分で怒っておいて言うのもなんですが、よくやめなかったと思います(笑)。自分もレースをしていたので、ついイライラしてしまうんですよね。

 今は反省していますが、「そこで抜け。何をやっているんだ!」って、ピットに帰ってきた時に怒ったり......。

沙麗 お父さんに怒られてやめようかなと心のなかで思ったことは何度もあります(笑)。でもレーサーになる夢の実現のためには、我慢しなければならないと思っていました。逆にお父さんが「もうレースをやめよう」と言ったことは数えきれないぐらいありました。

広史 ありましたね(笑)。小学2〜3年生の頃が一番多かったかな。それ以上になると、本人が頑張ってドライビングを改善してくれたので、技術に関してはほとんど何も言っていません。むしろ私がずっと言っていたのは、「うちでサポートできるのはカートまで」ということです。

 沙麗にこう伝えました。うちはお金持ちじゃないので、プロを目指してカートから先、四輪でレースをしたいのであれば、自分でスポンサーを見つけてね。それができなければプロにはなれない。レーシングドライバーは速ければなれるんじゃないんだよ。活動資金をサポートしてくれるスポンサーを見つけられるだけの人間的な魅力がなければ、レースを続けるのは無理だから。そういう世界だけど本当にやる気ある? と言い続けてきました。

ーー小学生の頃からそう言われてきて、どう思いましたか?

沙麗 当時はあまりわからなかったですが、最近はその意味がわかってきました。今、スポンサーさんが1社だけついてくれていますので、これからもっと多くの方にサポートしていただけるように頑張ります。

【初めての飛行機&海外がレース】

ーーウィアムズの育成ドライバーに選ばれるきっかけは、FIA(国際自動車連盟)がフェラーリとともに2020年にスタートさせた女性ドライバーの発掘・育成プログラム「ガールズ・オン・トラック」でした。

広史 ヨーロッパのレースの動向を見ていて、FIAが女性ドライバーを増やそうとする動きがあると感じていました。いつかこんなプログラムに参加できたらいいなあと思っていたら、2022年の3回目の時にJAF(日本自動車連盟)が参加者を募集していました。

 チャンスだと思いましたが、ひとつ引っかかったのは「英語が堪能」という条件があったこと。うちの子は英語がダメだなあと(笑)。でも、カート仲間のお父さんたちに相談したら、「英語の堪能さの基準は人それぞれだから」と言ってくれました。出すだけ出してみたら、通ってしまったんです。

「コングラッチュレーション」という英文のメールが突然届いて、2週間後にフランスのポールリカールで行なわれる「ガールズ・オン・トラック」のプログラムに参加してください、と連絡がきました。そこから慌ててパスポートを取りにいきました(笑)。

ーー実際、「ガールズ・オン・トラック」に参加して、同世代の女性ドライバーと走ってみた感想は?

沙麗 海外のレース経験はまったくなく、飛行機も初めてでした。最初は家族と離れて悲しかったですが、いざヨーロッパに行ったら楽しくて帰りたくなかったです。ヨーロッパのカートレースは見ていなかったので、参加者の実力を知りませんでしたが、みんなのレベルが高くて驚きました。

 正直、ファイナリストの4人に残れるとは考えていませんでしたが、ノリと勢いでいったら何とか残れて。自分でもビックリでした。

広史 私は仕事があったので同行できず、沙麗がお世話になっているカートチームの関係者の方に一緒に行っていただきました。

 その方によると、「ガールズ・オン・トラック」でカートを担当していたイタリアのカートメーカー・カートリパブリック(KR)のスタッフが沙麗を評価してくれたみたいです。「ドライビングでは間違いなく上位に入る。でも、ネックは言葉だね」と言われたそうです。

【最終選考で「これはまずいなあ......」】

ーー「ガールズ・オン・トラック」では8名のジュニアドライバーからファイナリスト4名に選ばれ、今度はフェラーリ・ドライバー・アカデミー(FDA)による最終選考「FDAカート/F4スカウティングキャンプ」に進みました。実力を出しきれましたか?

沙麗 最終選考でイタリアのフェラーリに行って、これはまずいなあと初めて思いました。私は速さでは負けていない自信はあったのですが、最終選考に残った全員のレベルがすごく高かった。

 言葉の問題もあって自分の思いどおりにセッティングができなかったこともあり、このままではダメかも......と思いました。実際、最終選考で落ちてしまいました。

ーー最終選考に合格できませんでしたが、実力が評価され、ウィリアムズの採用につながったんですね。

沙麗 そうですね。ファイナリストのなかで私以外の3人は、フェラーリやアルピーヌ(ルノー)の育成ドライバーになったり、フォーミュラの道に進んだりしています。そして私はウィリアムズから声がかかりました。

ーーウィリアムズからはいつぐらいにコンタクトがあったのですか?

広史 昨年5月ごろに「テストに来ないか」と声がかかり、9月にACIイタリア選手権に出場することになりました。ヨーロッパの初レースとなりましたが、予選を通過して決勝に進みました。決勝の順位は下のほうでしたが、初めてのヨーロッパのレースでも適応できていると評価していただけました。

 その後、12月に(アラブ首長国連邦)アブダビで開催されるレースがあるから来ないかと誘われました。F1アカデミーがサポートするカートレース「チャンピオンズ・オブ・ザ・フューチャー・アカデミー」のOK-N ジュニアクラス2レースに出場して、6位と8位でした。

 シリーズポイントは24人中8位だったのですが、各クラスの女子の上位3人をF1アカデミーがサポートすることになっていて、最上位はメルセデスの育成ドライバーに選ばれたルナ・フルクサ選手(13歳)で、その次が沙麗でした。それでウィリアムズに選ばれたんだと思います。

ーー後編では、沙麗さんの今シーズンの目標や将来の夢を聞いていきます。

6月1日公開:後編<「速さは予想より差はない」F1ウィリアムズ育成の松井沙麗(13歳)が踏み出した世界への挑戦「ヨーロッパのレースのほうが楽しい」>を読む

撮影協力/オートパラダイス御殿場

【プロフィール】
松井 沙麗 まつい・さら 
2010年、東京都生まれ。父親の影響で5歳からカートを始め、6歳でレースデビュー。2024年1月にウィリアムズのドライバー育成プログラム「ウイリアムズ・ドライバー・アカデミー」の一員に抜てきされた。2024年は、ウィリアムズから委託を受けるイタリアのカートリパブリック(KR)のワークスチームからFIAカート世界選手権や「チャンピオンズ・オブ・ザ・フューチャー・アカデミー」などに参戦する。

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