デッドボールでガッツポーズをする選手【山本萩子の6−4−3を待ちわびて】第116回

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2024年05月31日 10:00  週プレNEWS

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「魂のプレー」について語った山本キャスター

5月24日の中日−ヤクルト戦。2−2の同点で迎えた延長10回表に、私の中で大きな事件が起こりました。

先頭の長岡秀樹選手がヒットで出塁し、武岡龍世選手送りバントで1アウト2塁。続く村上宗隆選手が申告敬遠され、1アウト1,2塁として、ヤクルトの次の打者は8回から守備固めとして入っていた岩田幸宏選手でした。

その1球目をファウルしたあとの2球目が胸元にいき、岩田選手は必死に避けたものの胸を擦ったというデッドボールの判定。次の瞬間、岩田選手は自軍のベンチに向かってガッツポーズをしたのです。

これまで長い間野球を見てきましたが、デッドボール後にガッツポーズを見たのは初めてでとても驚きました。高校野球では時折見られる光景かもしれませんが、その仕草がとても新鮮に映ったんです。私と同じように感じた方も多かったようで、SNSでも話題になっていました。

その後、試合は2アウト満塁になり、西川遥輝選手が四球を選び押し出しで勝ち越します。最終的なスコアは5−2となりましたが、岩田選手がデッドボールで次に"つないだ"ことが勝利につながりました。この日の主役ではなかったかもしれませんが、大きな働きだったと思います。

先日もこの連載で登場した岩田選手(この連載の準レギュラーの座を確保しつつあります)は、代走で牽制死のあと涙を流しました。その時、育成から這い上がった岩田選手が1プレーにかける重みをあらためて感じました。言葉よりも重たい涙でしたね。

岩田選手の1打席は、おそらく重みが違うのでしょう。もちろんどの選手も、打席が軽いなんてことは思ったことはないはず。しかし、まだ打席に立つ回数が少ない岩田選手がバッターボックスに入る時の気合いは、並々ならぬものがあると推測できます。

岩田選手のプレーを見るたび、涙が出そうになります。岩田選手のプレーから感じるのは、「後悔したくない」という思いです。1打席でも、守備機会でも、絶対に後悔しないプレーをする。自分にそう課しているように見えます。だから、岩田選手を応援したくなるのかもしれません。

過去にも記憶に残る魂のプレーがいくつかあったので、それを紹介させていただきたいと思います。

2012年7月7日のソフトバンク−日本ハム戦では、ソフトバンクの明石選手が19球粘って四球で出塁しました。これは当時のプロ野球記録で、その姿に執念を感じたものです。その翌年の8月24日に行なわれたDeNA−巨人戦では、DeNAの鶴岡一成選手が、同じく19球粘っています。この時は山口鉄也投手に軍配が上がって三振。その山口投手の最後のボールも、魂のこもった一球でした。

選手だけでなく、監督も魂のこもったアピールをすることも。

ヤンキースのアーロン・ブーン監督の退場劇は、もはや風物詩になっています。判定に不満があると、すぐにベンチから飛び出すのですが、その瞬間に観客は大盛り上がり。

監督が退場になるとチームがバラバラになることもありますし、制裁金だってあります。それでも、選手を守りたい、チームを鼓舞したいという思いがそこには透けて見えるのです。「俺がいかなきゃ誰がいく」。そんな親分肌と言えばいいのか、それを見た選手はきっと勇気をもらうことでしょう。

どんな選手、監督、コーチも、1試合にかける思いは変わらないはずです。それでも、闘志が前面に出る人を応援したくなるのが人情というもの。これからも試合とファンを盛り上げてくれるプレーや采配を期待したいと思います。

先週末、残念ながら岩田選手は選手登録を抹消されてしまいました。しかし、ここからまた這い上がってくるでしょうし、多くのヤクルトファンがそれを期待しています。いつか一軍で多くの試合に出られる選手になった時、その先に岩田選手が引退したあとでも、2024年の春に気迫のプレーでファンの心に火をつけてくれた記憶が消えることはありまえん。

プロの選手になってくれてありがとう。私たちのために戦ってくれたありがとう。岩田選手を見るたび、そう思うのです。そしていつの日か、「岩田といういい選手がいたね」と振り返ることでしょう。

みなさんの記憶に残る魂のプレーも、ぜひ教えてくださいね。それではまた来週。

構成/キンマサタカ 撮影/栗山秀作

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