たばこ依存は病気…根性や会社命令ではやめられない、禁煙治療の現在地と課題「薬で治療ができるという認知が広がってない」

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2024年05月31日 12:01  ORICON NEWS

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禁煙治療、どんなものか知ってる?
 昨今、たばこを取り巻く状況は大きく変化。街から喫煙所がなくなり、企業などでも禁煙を推奨するところが増えた。吸わない人にとっては喜ばしいこと…と思いきや、吸う場所を失った喫煙者が集中して喫煙所に押し寄せたり、路上喫煙をしてしまうなどの問題も起こるように。マナーの悪い喫煙者のおかげで吸う人はますます肩身が狭くなっているだろうが、その影響か、禁煙外来に受診する人も増えているという。オンライン診療の禁煙外来を担当する医師(クリニックフォア)に、実情を聞いた。

【画像】成功率高っ! 禁煙治療に「画期的な薬」、ニコチンパッチとの違いは?

■保険が適用される禁煙治療、「ニコチン依存が『病気』であるということ」

 喫煙は個人の自由ではあるかもしれないが、気をつけなければならないのが周囲の人への影響だ。こうしたことから国も喫煙の害についての啓蒙を進め、2006年には禁煙治療に保険が適用されるようになった。「保険が適用されるということは、つまりニコチン依存が『病気』であるということです。それをしっかり意識していただく必要があります」と、禁煙外来の担当医師は警鐘を鳴らす。

 「すごく強い言い方をしてしまうと、薬物中毒、薬物依存症と言えます。ご存知の通り、たばこにはニコチンが含まれており、脳に快楽を与えるドーパミンというホルモンの分泌を促します。これを精神的、あるいは肉体的に常に必要としてしまうというのが、いわゆる“たばこがやめられない状態”。禁煙外来では、薬を使ってその症状を抑えていきます」

 ドーパミンがどのような幸福感を与えるか。例えば人は、美味しいものを食べているとき、何かを達成したとき、人から褒められたとき、恋をしているとき、好きな音楽を聴いているときなどに、このホルモンが分泌される。

 簡単に言えば、たばこは心を安定させる作用を持つ。しかしこれに依存してしまうと、長時間吸わなければ離脱症状が起き、それを抑えるためにまた吸ってしまう…という悪循環に陥る。実際、厚生労働省(e-ヘルスネット)には、ニコチンは「化学物質としては毒物として指定されている。たばこの葉に含まれ、強い依存性がある」と記載。この症状に陥った人が「たばこをやめたい」と訪れるのが、禁煙外来だ。

 最近では、「私たちのグループ全体で見ても、禁煙外来を受診する人の数は以前より増えた印象があります。年齢も20〜30代の方から60代まで幅広いです」とのこと。きっかけはやはり、「吸う場所がない」「会社に禁煙しろと言われた」といった社会的な“肩身の狭さ”のような、外的要因からなのだろうか。

 「というよりも、ライフステージやライフイベントを機に、禁煙を志す方が大多数です。結婚したのをきっかけに、またはお子さんができたことをきっかけに…という方が多いですね。社会や企業の禁煙志向は強まっていますが、そうした外的要因はそこまで強くありません。それより、プライベートな理由で、強い意思を持って診察を受ける方がほとんどです」

 つまり、外的要因くらいではたばこをやめようと思わないということ。そして、それだけ強く依存しているものであるがゆえ、自分や家族に関わる「強い意思」があっても禁煙はなかなか難しい。それを助けるのが禁煙外来であるわけだが、実際はどのような治療を行うのだろうか。

 「以前は通院がメインでしたが、数年前からオンライン診療が普及してきました。これにより、通院だと敷居が高い、面倒くさいと挫折する人が多かったところ、自宅で気軽に診療できるように。ただし、オンラインによる禁煙治療には保険が適用されません。保険を適用するためには、月に1回の通院が必須となっており、患者さんによっては通院の手間と費用を天秤にかけて、自由診療でもオンライン診療を選択するケースも見られます」。

■ニコチンパッチだけじゃない、禁煙成功率65%超の「画期的な薬」とは?

 禁煙補助薬には、おもに「ニコチネルTTS」と「バレニクリン(チャンピックス海外後発品)」の2種類がある。「ニコチネルTTS」は貼付薬で、いわゆるニコチンパッチなどと呼ばれるもの。「バレニクリン」は内服薬となる。以下が、それぞれのメカニズムや治療法だが、医師は「『バレニクリン』という画期的な薬をぜひ知ってほしい」と語る。

●「ニコチネルTTS」
 ニコチンパッチを1日1回貼ることで、たばこを吸わずにニコチンを摂取し、喫煙時より低いニコチン濃度を長時間維持し、離脱症状を和らげる。治療スケジュールに沿って、徐々にニコチン含有量を減らしていくことで、禁煙達成を目指す薬。いわば、たばこをニコチンパッチに置き換える治療であるため、治療中に喫煙するとニコチンのとりすぎになる。
■貼付薬
■禁煙成功率:約53%
■副作用:不眠、接触性皮膚炎(心配するほどではない)。
■治療期間:12週間
■金額:対面診療の場合/12週で2万円程度(保険適用、3割自己負担の場合)
オンライン診療の場合/8週で5〜6万円程度(自由診療)

●「バレニクリン」(チャンピックス海外後発品)
 脳内のニコチン受容体に作用することで、「快楽」と「離脱症状」のネガティブなサイクルを抑え、禁煙達成を目指す薬。たとえ治療中にたばこを吸ってもドーパミンが分泌されにくくなるため、吸う快楽が減る。
■内服薬
■禁煙成功率:約65.4%
■副作用:吐き気(飲み続けるうちに慣れることが多い)。
■治療期間:12〜24週間
■金額:オンライン診療のみ/12週で約4〜5万円程度(自由診療)

 「『ニコチネルTTS』は対面診療で、規定の要件を満たした場合に保険が適用されますが、ニコチンの摂取をたばこ→パッチに置換するだけではやや力不足。それが禁煙成功率の低さにも表れています。一方で『バレニクリン』は、ニコチンではない成分で、ニコチン摂取時と同じ脳の状態を擬似的に再現することができる。つまり、『たばこを吸っていなかった状態に体を戻せる』ということです。65%を超える禁煙成功率の高さからもわかるように、画期的な薬と言えますね。ニコチン受容体に働きかけ、ドーパミンの分泌を調節してくれるので離脱症状が出にくく、もしたばこを吸っても、あまり気持ちよくない、吸わなくてもいいという気持ちにさせてくれます」

 受容体に働きかけるという意味では、いわゆる抗うつ薬のSSRIなどと同じような仕組みだ。ちなみにアルコール依存症を治す嫌酒薬は仕組みが違い、体がアルコールを分解できなくして、いわゆる“下戸”の状態にさせるというものだ。

※なお、「バレニクリン」は「チャンピックス」という薬の一般名に当たる。ファイザー社が開発した「チャンピックス」は製造ラインに基準値を超える発がん性物質が確認され2022年に出荷停止になってしまったため、クリニックフォアでは発がん性物質を含まない海外後発品を自由診療での処方に限定して取り扱っている。

 このような禁煙補助薬の仕組みを知ると、やはり禁煙も医学の力を借りるべきであることがよくわかる。同医師も「根性でやめようとしても成功度は低い」と話す。

 「ただ、これらで100%禁煙が成功するとは限りません。たばこ依存には、精神依存と身体依存があります。身体依存は薬で抑えられますが、日常生活で喫煙がルーティンになっている精神依存の場合は、散歩したり氷をなめたりなど喫煙行動の置き換えをしなければなりません。また飲酒は欲望を開放する作用があるため、たばこを吸いたくなってしまうことがあるので注意が必要。大切なのは、手が届く場所にたばことライターを置かないことです。とはいえ、それでも精神依存というのは染み付いているもの。禁煙に失敗して受診を繰り返す人は本当に多いのです。そんな方には、医師が生活や行動を聞き出して、自己分析のお手伝いをしながら習慣を修正していきます」

 まさにカウンセリングのようだ。日常生活に根付き、普通に購入できるからこそ、たばこが依存症の一種であることは気づきにくい。ただ、そこから抜け出すためにはこれだけのステップが必要なことを考えると、なかなかに厄介。禁煙外来で治療することができ、補助してくれる薬がある…まずはその知識を得ることが大切だ。

 「禁煙治療において現在の課題は、まだ薬で治療ができるという認知があまり広がってないこと。また、『チャンピックス』の発がん性物質検知の情報により、SNSやネット怪しいイメージがついてしまったことがとても残念です。海外後発品の『バレニクリン』も同様に懐疑的に見られがちですが、きちんと第三者機関による安全性を確認したうえで処方しています。そもそもたばこの発がん性の高さは言うまでもありませんので、禁煙を達成できる手段があることは医学的な面からも大変意義深いことです。禁煙治療ができる、それを助ける薬に問題はないことなど、認知を広めていきたいです」

<医師プロフィール>
日本内科学会認定 内科専門医。市中病院、国立循環器病研究センターで内科疾患をはじめ心臓・血管病の高度急性期医療に従事。現在は幅広い内科的知識を活かし、質の高いプライマリーケアの実践や医療情報の提供を行っている。

(文:衣輪晋一)

このニュースに関するつぶやき

  • たっ◯ぁんみたいな極端に毛嫌う人も病気だよな(笑)
    • イイネ!24
    • コメント 5件

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