『虎に翼』伊藤沙莉が着る「法服」、明治時代には超高級品…戦後、弁護士が着用しなくなったワケ

1

2024年06月01日 08:40  弁護士ドットコム

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

弁護士ドットコム

記事画像

日本初の女性弁護士、三淵嘉子(みぶち・よしこ)さんをモデルとしたNHK連続テレビ小説『虎に翼』。主人公・猪爪寅子を演じる伊藤沙莉さんのほか、仲野太賀さんや石田ゆり子さん、岡部たかしさんなど、実力俳優陣が存在感を放ち、放送開始から人気を保っている。


【関連記事:■コンビニの日本人店員が「外国人の名札」を着けたら…客の態度に劇的変化】



米津玄師さんの「さよーならまたいつか!」が流れるオープニングは、アニメーションと実写が組み合わさったもので、当時の弁護士が着用していたという「法服」姿の伊藤沙莉さんがかわいらしい。



ドラマが進行するにしたがって、法服にも注目が集まっているが、現在では、裁判官以外は着用していない。牧野剛弁護士によると、「第2次世界大戦中に多くの検事局舎を含む裁判所や弁護士事務所が焼失したことから、事実上、法服の着用ができなく」なったことが理由だという。



牧野弁護士による『月刊弁護士ドットコム』の連載コラム(2018年4月号、現在は季刊)から抜粋し、当時の文化・風俗をお伝えしたい。



●第2次世界大戦によって「焼失」してしまった

司法修習生時代に「修習生バッジの色は何が由来か、知っているか」と言ったことを裁判官や検事に聞かれた経験を持つ方は結構いるのではないでしょうか。「いや、知りません」と言うと、裁判官や検事は、決まって「昔、法曹三者が着ていた法服の色なんだよ」などと得意げに話し始めます。こんなこともあって、弁護士も昔は法服を着ていた、ということは、弁護士であれば多くの方は知っているのかもしれません。



「弁護士」という職業は、明治26(1893)年5月1日の旧旧弁護士法の施行により誕生しました。それに伴い、司法省令第4号で弁護士の職服着帽が定められました。ちなみに当時の司法大臣は芳川顕正。弁護士の法服は地色は黒とされ、胸に白線の唐草模様を刺繍し、帽子は黒の地色に雲紋を黒線で刺繍したものとされました。



法服については、弁護士が白線で刺繍されていたのに対し、判事は紫色、検事が赤色、書紀官は緑色で刺繍されていました。修習生バッジは、青、赤、白の三色が使われ、青は裁判官、赤は検察官、白が弁護士を表すものといわれています。正確には法曹三者を表す色は、紫、赤、白だったというのが興味深くもあります。



さて、この法服ですが、第2次世界大戦中に多くの検事局舎を含む裁判所や弁護士事務所が焼失したことから、事実上、法服の着用ができなくなり、戦後、最高裁がスタートするにあたって、裁判官と書記官だけが、法廷で法服を着るようになったようです(※1)。



実際、法服は弁護士にとってどのようなものだったのでしょうか。



●法服は当時としてはかなり高価なものだった

明治44(1901)年6月10日発行の「法律新聞」(721号)のなかで、弁護士の奥戸善之助は、「法要をして一定の職服を着用せしむる所以のものは、その職務に相当する威厳を保たしむるためである」と言います。法曹としての威厳を保つための重要なものだったことが伺えます。続けて、奥戸弁護士は、このように弁護士の法服の現状を嘆きます。



「しかるに、随分汚損したる職服を用い、あるいは、検事より判事に転任したるものの如き赤き飾りを、インキか何かで塗り、之を着用するものあるを見るが、これらは決して賛同できない。私は地位相当見苦しからぬ職服を着用せられんことを望するものである」



ちなみに、この奥戸弁護士は、司法官から大阪地方裁判所部長を経て、弁護士となった名士。「近畿弁護士評伝」という書物にも奥戸弁護士についての記述があります。法律新聞の記事によれば、この頃、奥戸弁護士は、大阪の真砂町に事務所を新築。その事務所は、靴のまま応接室まで上がれることから当時としては「すこぶるハイカラ」だったらしく、そのような事務所は大阪でも2つしかなかったようです。



当時の広告をみると、洋服店が「法曹制服」を売り出していた様子がわかります。弁護士の法服が制定された当時、法服は8円から22円程度で、11円くらいが弁護士が買う法服の標準的な価格だったのだとか。明治時代の1円を現在の2万円とする考え方によれば、22万円程度の法服が一般的だったということになります(※2)。法服は当時としてはかなり高価なものであったと想像できますが、稼ぎの悪い弁護士は、きれいな法服を着ることができなかったのかもしれません。



(※1)「自由と正義」26号「弁護士制度百年の歩み」(その1)森山虎雄「弁護士制度百年の変遷」32頁
(※2)野村ホールディングス・日本経済新聞社「お金の歴史雑学コラム | man@bowまなぼう」
https://manabow.com/zatsugaku/column06/



※このコラムでは明治・大正時代のことばを適宜現代語に読みやすく変えていますが、必ずしも正確でないことをあらかじめご了承ください。




【取材協力弁護士】
牧野 剛(まきの・ごう)弁護士
早稲田大学第一文学部卒業後、一橋大学大学院修了、株式会社ジェイ・キャスト入社後にインターネットニュースサイト「J・CASTニュース」で記者として活躍。その後、一念発起し弁護士を目指す。早稲田大学法科大学院了後、弁護士登録。
事務所名:牧野総合法律事務所弁護士法人


このニュースに関するつぶやき

  • 法服の色は「何ものにも染まらない黒」しか知らなかったけれど…あんなに細かな刺繍が施されていたものだったんだなぁ…と…ドラマで知りました。
    • イイネ!0
    • コメント 0件

つぶやき一覧へ(1件)

前日のランキングへ

ニュース設定