結婚して、子どもを産んで、家を買う「普通」の生活が、手の届かない存在になってしまったのはいつからだろう。しかし、幸せにはカネが必要だというのはただの思い込みかもしれない。週5勤務、長時間労働、退屈な業務……すべてやめても生きていける。
◆山奥のキャンプ場に住み込み、自由な日々を送る
働く頻度:週2〜3日、月の支出:5万円
3年前から週に2〜3回のゆるバイトをしながら暮らすろっさん(28)。
山奥のキャンプ場に住み込み、コテージの清掃をして働く以外は部屋でゲームをしたり、山で遊んだり、趣味の自転車で放浪したりと自由な日々を送っている。
「大学卒業後に就職したインフラ系の会社では3年間働きました。仕事柄、まとまった休みはとれません。サービス残業も休日出勤もザラでしたし、シンプルに週に5日の労働を40年以上も続けることが考えられませんでした」
◆「40年という時間を労働で潰してしまうのは、あまりにもったいない」
ドロップアウトには以前から興味があり、「社畜時代」に関連書籍を読み漁っていた。極力働かずに生きるための知識を蓄えていたという。
大学時代は心理学を専攻していたことも相まって、自分なりの極力働かないための思想を導き出したようだ。
「若い時期は長くない。年をとるたびに人は死に近づいていくんです。死に近づくまでの40年という時間を労働で潰してしまうのは、あまりにもったいないと感じたんです」
◆バイト先のキャンプ場に住み込み
そして’21年、ろっさんは一切の迷いなく仕事を辞めた。
「キャンプ場のバイトは時給1000円で一日7時間。週に3回働くと月8万円ほどになります。これは僕にとっては稼ぎすぎなんです。なぜなら、年収67万円以下だと年金が全額免除になるから。そのうえ、このまま年金全額免除を貫くと、保険料を全額納めた場合の年金額の半分を将来もらうことができます。いかに税金を安くするかが、ニートには重要です」
山奥生活の月の支出は5万円ほど。元来の「ドケチ」な性格のおかげで、この生活でも貯金ができている。
食費に限っては月に7000円ほどだそうだ。主に激安スーパーで食材を購入し、自炊している。狩猟免許も取得し、鹿を狩って自分で処理をして食べたり、虫を捕って素揚げにして食べたりもしているそうだ。
「地元の人が『若いヤツが住み込みで働いているのなら』と、米や野菜を差し入れてくれることもあります。キャンプ場のオーナーさんも僕が週に数回しか働かないことに理解を示してくれています。僕の生活は人からの好意で成り立っている部分もありますね」
◆収入が低いことは‟恥ずかしくない”
休みの日は部屋でゲームやネットサーフィンをしたり、自転車で一日かけて遠出したりして過ごしている。収入が低いことに関して恥ずかしいという感情は本人には一切ないという。
「ぜいたくをしたいという気持ちがないわけではありません。しかし、そんなことよりも労働をせずに自由に暮らしたいという気持ちのほうが圧倒的に強い。働いた分だけ僕の限られた時間が汚されていく感覚があります」
山奥でできることはある程度やり尽くしたため、現在のキャンプ場のバイトは一旦辞めるというろっさん。今後は自転車で日本全国を放浪する生活に切り替える。
その中で腰を落ち着けてもいいと思える場所が見つかれば、再び「ゆるバイト生活」に戻るかもしれないとのことだ。どちらにせよ、「極力働かない生活」はこのまま死ぬまで続けていく所存だという。
取材・文・撮影/藤中一平
―[[もう働かない]生き方]―