「気づいたらフォロワー10万人超え」人気作家・燃え殻さんが明かした異色の経歴

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2024年06月01日 13:10  週刊女性PRIME

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燃え殻さん 取材協力/出窓BayWindow

 取材場所の新宿ゴールデン街にあるバーにやって来た作家・燃え殻さん(50)。慣れた様子でマスターに薄めのハイボールを注文すると、こう切り出した。

「僕、週に2〜3回は人と飲みに行くようにしていて。バンドマンとか、全然違う人生を歩んできた人の話を聞いていると、書きたいことが浮かぶんですよね」

 著作が次々に映像化され、スケジュールはいつもパンパンだが、人と飲みに行く予定は欠かさない。交友関係が広く、遅咲きで、異色の経歴の持ち主でもある。

テレビの美術制作から43歳で作家デビュー

 作家デビューは2017年、43歳のとき。前職はテレビの美術制作の会社で、20年以上勤めたキャリアを持つ。そのころに始めたツイッター(現在はX)が、人生を変えた。

「バラエティー番組の画面の下に出るテロップとか、クイズの解答を書くフリップを作る会社で働いていました。当時のクライアントがツイッターを使っていて、交流のために僕も始めたのがきっかけです。仕事が本当に嫌で、世間体は気にせず、思ったことをぼやいていて(笑)。でも、どれも本心でしたね」

 当時、こんな投稿でフォロワーから共感を集めていた。

《好きなラーメン屋がネットで酷評されてて足が遠ざかった。観たいと思ってた映画を評論家が★1つで「時間の無駄」と書いていて観れなかった経験がある。先日久々に食べたラーメンは旨く、DVDで観た映画は面白かった。基準を外に託すと、誰かに聞かないと幸せかどうかすらわからない化け物になってしまう》

 誰もが思い当たる胸の内を絶妙に掬い上げたつぶやきで、やがて「インフルエンサー」という肩書で呼ばれるようになっていた。

気がついたら、フォロワーが10万人を超えていて……。

 テレビの美術制作って、テレビ局に演者さんが来る前に仕事が終わる商売なんです。親戚に“テレビの仕事で芸能人に会った?”とか聞かれていたけど、僕らが芸能人に会うときは、仕事が間に合っていない、怒られるとき(笑)。なのに、ツイッターを始めたら、芸人さんや有名人から“面白いね”とSNSで声をかけてもらえるようになって

 著名人との交流が広がる中、好きだった作家ともつながる。「君は小説を書け、書かなきゃ絶交だ

 そう強くすすめられ、自身の恋愛をモデルにした小説『ボクたちはみんな大人になれなかった』を執筆。読み手が忘れてしまっていた刹那的な感情を呼び覚ます物語は“エモい”と評され、世代を超えて人々の心をつかんだ。

 小説は発売1か月で7万部超えの大ヒットを記録。ネットフリックス映画で日本初の配信と同時に劇場公開も話題になった。

伊藤沙莉、東出昌大、森山未來との撮影秘話

 同小説の登場人物はみな、実在するモデルがいる。それゆえ、俳優たちは燃え殻さんを質問攻めにした。

ヒロイン・かおり役の伊藤沙莉さんには“彼女の口癖はなんでしたか?”“鼻歌は何を歌ってました?”とか。  

 あと、全然知らない番号から電話がきて出たら、まだ会ったことがない東出昌大くんで。“(同僚役の)関口ってどんなやつだったんですか? 口調ってこんな感じですか?”と聞かれたりして

 燃え殻さんがモデルである主役を演じた森山未來の役作りにも驚かされた。

最初の顔合わせで食事に行ったとき、途中から森山さんの箸を持つ手が左に変わったんです。……僕、左利きなんですけど、それを見てすっと、いつの間にか。すごいなあと思いましたね

 プロフェッショナルな俳優たちの仕事ぶりに感化されながら、会社員と作家の二足の草鞋で数年活動を続けた。

決定的じゃない食事と決定的じゃない人たち

 現在は専業作家となり、連載4本に小説やコラム、ドラマ脚本、ラジオのレギュラー番組など活躍の幅を広げている。そんな多忙を極める今、週刊女性の連載を引き受けた理由をこう話す。

「僕が好きな作家・中島らもさんが月に17本連載を持っていたのを思い出して。月に4本の連載って少ないな……と思い始めたころに、いくつか新しい連載の依頼をいただいて。その中で“食を切り口に連想する人や思い出”という企画がしっくりきたんです」

 どのようにしっくりきたんでしょうか?

「僕、普段からロクなもの食ってないんですよ。だから、美食エッセイみたいなものは書けない。でも、編集の方に“書いてほしいのは人間で、食は真ん中になくていい”と言われて。

 もともと、匂いだとか、映画や音楽をきっかけに過去のある思い出にフラッシュバックしていくエッセイを書くことが、たぶん好きなんですよね。それと同じで、意識的に“食”をトリガーにして、人との思い出とか今考えていることを引きずり出すのは初めてだし、面白そうだなぁと。何となく、自分のスタイルに合ってる気がしたんです」 

 実際に数本のエッセイを書いてみるうちに、より書きたいことが明確になったという。

お酒や食べ物を介在して思い出すことって、実は多いなあと。何かを食ったとき、何かの酒を飲んだときに思い出すぐらいの間柄の人って、いっぱいいるじゃないですか。

 強烈に覚えてる、とかじゃなくて。でも、そういう人たちが人生のほとんどなんじゃないか、と実は思ってて。

 決定的じゃない食事と、決定的じゃない人たちを書きたいのかもしれない

 早朝の牛丼屋で出会った同士のこと。ジャンボモナカをかじりながら友人が打ち明けた限界。自称・中華街マスターを名乗る先輩の幸福論。風俗嬢のお弁当に翻弄される後輩。嫌いなのに憎めない焼き肉店勤めの肉食男子。周囲には内緒にしていた関係の女性と最後に食べたシーフードドリア──。

 とある料理やお酒をキーワードに人間ドラマを描く新連載エッセイ『シーフードドリアを食べ終わるころには』が次号より、スタートする。

祖母が営んでいた一杯飲み屋が原点

 今回の取材場所となったバーの登場回もあるという。

「ゴールデン街の店って入りにくいけど、マスターがある雨の日にきっかけをくれて。

 僕、飲み屋を舞台にした話をよく書いちゃうんです。子どものころ、祖母が、静岡県の沼津で一杯飲み屋をやっていて。国鉄のおじさんたちが夕方から飲みに来るような。そういう場所が昔から近くにあったから、そこで物語が生まれることを知ってるんです

 料理や酒をともに囲んだ人のこと、くすっと笑える日々のやるせない出来事など、過去の断片を拾い集めた記憶の数々を届けたいと意気込む。

読んで何かを食べたくなるエッセイとか、一流の食事ではなく、何気ないメシ、何気ない人のことを、物語性を持って書けることが、重要な気がしています

燃え殻(もえがら)●作家。1973年横浜市生まれ。都内のテレビ美術制作会社で企画デザインを担当。2017年、ウェブサイト「cakes」での連載をまとめた『

ボクたちはみんな大人になれなかった

』で小説家デビュー。同作はネットフリックスで映画化され、以降も『

あなたに聴かせたい歌があるんだ

』『

すべて忘れてしまうから

』がドラマ化。

取材・文/兵庫慎司

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