「LUMIX S9」のストックフォト問題は何がいけなかったのか?

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2024年06月02日 07:31  ITmedia NEWS

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「LUMIX S9」

 なんとも予想外の展開だった。


【その他の画像】


 話題になった「LUMIX S9」である。S9が発表されたとき、ホットシューがなくてクリップオンストロボを付けられないことやEVFがないこと、メカシャッターレスで電子シャッターのみであることに、いくらかツッコミが入るだろうなぁ、という気はしていた。SNS上でのツッコミが予想以上に多くて驚いたのだが、それはわたしのおすすめタイムラインにカメラ・写真関係のポストが多めに流れてくることによるエコーチェンバー的なものだろうなと静観してた。


 でも、そのあとに発覚した製品サイトに使われていたイメージ写真問題は話が別だ。かなり大きな問題として扱われ、一般メディアのニュースにも取り上げられたほどだ。


●一体、何が起きて何がいけなかったの?


 すでにLUMIX S9のページは(おそらくは他機種のページも)修正が進んでおり、指摘された写真は同社のカメラ(S9ではなかったりするけれども)で撮ったものに差し替えられて注釈がつきつつあるから、今から観に行っても当初どうだったかは分からない。ここでざっくりと振り返ってみる。


 LUMIX S9の日本での発表が23日。


 私がSNSで知る限り、LUMIX S9のWebページにあった写真にツッコミが入ったり、「ストックフォトだ」という指摘があったのが5月26〜27日。ストックフォトというのは、写真や動画、イラストなどの素材を、広く使えるように販売(使用許諾)するサービス。つまり、LUMIX S9の機能・性能を紹介するページで使われてる写真にS9で撮影した写真ではなく、それどころか他のLUMIXで撮られた写真でもなく、購入してきたものが使われていたのだ。


 最初に指摘されたのが、AF性能の解説で使われた「走ってくる犬にちゃんとピントが合ってる写真」。それがLUMIX S9で撮影したものではなく、ストックフォトサービスの「shutterstock」にあることが確認されたのである。


 28日には、パナソニックのWebサイトに「LUMIX S9の商品WEBサイトの画像について」という文書が掲載された。


 その前からSNSで話題になっていたこともあり、多くの人の目に止まったのだろう。しまいには一般誌のニュースにまでなり、5月31日に予定されていた「LUMIX S9 ライブ配信」も前日(30日)になって開催中止がアナウンスされた、というのがここまでの経緯だ。


 さらにいろんな人のチェックが入り、LUMIX S9に限らず、他のページでもストックフォトとおぼしき写真が使われていることが発覚している。


 確かに、もはやWebサイトやメディアはストックフォトなくして成り立たない。特にメディアは多く使ってる。コラム的な記事だと、イメージカット的に必ず入ってきて、写真のキャプションに「写真はイメージです」と書いてあったりする。


 ストックフォトのサービスは、フォトグラファーが写真を提供し、ユーザーはオンラインで写真を探し、使いたいものがあったらそれを購入する。そしてフォトグラファーには、売れるたびに利用代金の何割かが支払われる仕組みだ。


 現在は、国際的なものから国内のものまで様々なストックフォトサービスがあり、風景や様々なシチュエーションのみならず、有名人の写真まである。例えば、スティーブ・ジョブズの記事に彼の写真を使いたい、でもその著者やメディアは彼の写真を持ってないとする。でもストックフォトサービスへ行けば、多くの写真があり、指定された料金を払えばその写真を使えるのだ。


 とても便利なサービスだけど、今回の問題はその「ストックフォト」の使い方にある。


 カメラやレンズを紹介するページで使われる写真は、一般に「作例」……つまりその製品を使って撮影したものと捉えるのが普通だ。


 カメラやレンズを紹介するページなのだから、観た人がそう思うのは当然で、どんとでかく写真が載せられているにもかかわらず、「実はその写真、そのカメラで撮ったものじゃないんだ」といわれると「え、じゃあなぜそこにおいたん?」となる。なるよね。カメラの紹介ページなんだから、そのカメラで撮った写真をでかく置いてくれよ、となるよね。


 それをやっちゃったのである。しかも、その気になって調べればすぐ分かっちゃうようなストックフォトで。


 確かに、その写真には「LUMIX S9で撮影しました」とは一言も書いてないし、各ページの末尾には他の注釈と一緒に「画像・イラストは、効果を説明するためのイメージです」と書かれていたが、それは免責にはならんだろ、と思う。


 なぜそういうことになったのか、わたしは関係者ではないのでまったく分からないが、少なくとも、Webページを作る時点でLUMIX S9の試作機はあったはず。その気になってフォトグラファーに依頼すれば、その機能・性能を表現してくれる写真を用意してくれたと思う。どういう理由があったのか、それをしなかったわけである。なんともったいない。


 今まで気づかれなかったのは、そういうのに気づくほど写真を撮り慣れてる人は「走ってくる犬にちゃんとピントが合ってる写真」があっても「画像はイメージです」くらいの感じでスルーしてたからかなと思ったりしてる。少なくとも私はそうでした。


 ちなみに5月30日現在、「走ってくる犬にちゃんとピントが合ってる写真」など真っ先に指摘された写真は取り下げられたり、別の写真に差し替えられたりし、多くの写真に「この写真はLUMIX S9で撮影したものではありません」「写真はLUMIX S1で撮影したものです」などの注釈が入っている。


 他の製品ページにも作例と間違えそうな位置にストックフォトが使われていたとおぼしき個所があったことから、現在、全ページでチェックや修正が行われている状況かと思う。


 なので、いちいち具体的に取り上げたりはしないけど、なるべく早く、全体を見直し、作例と思われそうな位置のストックフォトはそのカメラ・レンズで撮った作例に差し替え、見た人にきちんと伝わるよう簡単な撮影データも併記し、信用できるサイトにしてもらいたいと思う。


 当たり前だけど、カメラやレンズに興味をWebサイトを見る人はそれに興味を持っている人で、どんな機能があり、どんな人に向いていて、どんな写真を撮れるのかを見たいわけで、多くの人は解説文より、そこについている写真でそのカメラについてのイメージを作っていくし、そのカメラやレンズを買えばそういう写真を撮れるのだな、あるいはそういう写真を撮るための機能なのだなと思うし、そう思わせる必要があるのだから。


 LUMIX S9のみならず、最近のLUMIXシリーズは魅力的だし(特に写りの安定感がいい)、レンズも魅力的な小型軽量シリーズがいい感じなので、ぜひそれが伝わるようなサイトになってほしいと思っております。


●作例って難しいよねってのは分かる


 余談だけど、こういうサイトの作例って難しい。


 写真家が力を発揮しちゃうと「確かにそのカメラとレンズで撮ったのだろうけど、それを買ったユーザーが普通に撮れるかというと、まず無理じゃね?」っていう高度な写真になっちゃうし、かといって凡庸な作例だと「これが撮れるなら欲しい」って感じにならないし。そのカメラやレンズの特徴を生かしつつ、ほどよく魅力的なものじゃないといけないから。


 その製品の特徴を見せる作例のページと、それを使った写真家による作品のページを分けて見せるのがいいんだろうね。


 ちなみにカメラをレビューする側としても、写真としての面白さより、「作例」としてその製品の性能や特徴が分かるようなものを載せるよう心がけております。そこのところ、よしなに。


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