「旧車會の雑誌」が新創刊、驚きの販売戦略とは…「俺らの読者は書店になんか行かねえんだよ」

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2024年06月02日 09:31  日刊SPA!

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愛旧ジャパンスタイルブック(VOL.02)
ヤンキー界のレジェンド降臨! 令和の旧車會カルチャーを体現する雑誌が誕生した。
かつて日本中のヤンキーを熱狂の渦に巻き込んだ伝説の雑誌『月刊チャンプロード』の魂を受け継ぎ、新時代の旧車會文化の「今」を切り取る『愛旧ジャパンスタイルブック』。

3月に発売されたこの新たなメディア誕生の裏側には、ヤンキー界の重鎮・岩橋健一郎氏の存在があった。規制と常識に反骨心で立ち向かい、社会の枠からはみ出た者たちの「居場所」を作り続ける岩橋氏。その声のもとに編集長は元チャンプロードのエース記者・宮入正樹氏。さらには元チャンプロード誌の名物編集長・秋本敏行氏(カメラマン)が結集した雑誌は、書店ではなく全国のバイクショップで販売。創刊記念は本当に旧車一台をプレゼントなどなど、すべてが規格外だ。

岩橋氏が語る雑誌作りへの情熱と哲学、そして次世代へ贈るメッセージとは? 独占インタビューから、その真意に迫る!

◆『チャンプロード』はなぜ休刊になったのか

――まずは、今回雑誌を立ち上げた経緯について教えて下さい。

岩橋健一郎(以下、岩橋):じゃあ、まずこれまでの状況を説明しようか。10年くらい前からかな、こうしたバイク系の雑誌に対する風当たりがめちゃくちゃ強くなってきたんだよ。「過激すぎる」とか「よくないことを助長している」とかって言われてさ、書店やコンビニが俺らの雑誌を置いてくれなくなっちゃったんだ。特に表紙に3段シートのバイクとか半キャップかぶった兄ちゃんを載せるのがNGになって、どんどん規制が厳しくなっていったんだよね。

――『チャンプロード』も2016年に休刊してしまいましたが、規制で雑誌が売れなくなったのが大きな原因だったわけでしょうか。

岩橋:それだけじゃないんだけどさ、書店とかだと、万引きの被害もめちゃくちゃ多かったんだよ。うちの雑誌を読む層ってのは、どうしても10代、20代の若い子が中心だから、中にはお金払わずに万引きしていく奴らもわんさかいてさ。で、本屋としては、万引きの損害をカバーするためには、うちの雑誌を1冊置くのに相当数売れないと元が取れないってなるわけよ。面倒くさくなって「もう暴走族雑誌なんか置かねえよ」ってなる店が増えていったんだ。

◆「書店を介さないルート」を作りたかった

――そんな逆境の中で『愛旧ジャパンスタイルブック』を立ち上げたわけですね。やっぱり、気になるのは書店では売っていないということです。万引きが多いから断られたとかですか。

岩橋:違うんだよ。俺らの本当の読者はさ、別に書店になんか行かねえんだよ。だからもう書店を介さないルートを作ろうと思ったわけ。全国の旧車會のショップ……これが50店舗くらいあるんだけど、ここに直接卸したりさ、ネット販売に力を入れたりしてるんだ。広告だって、バイクショップ中心に募集してさ。ショップにも一冊当たりでインセンティブが入る仕組みにしたんだ。そうなると、広告を出しているショップも「本が売れれば売れるほど広告料がチャラになる」わけだ。俺らなりのやり方で、読者と直接つながる道を切り開いたってわけよ。

◆あえて「紙の雑誌にこだわった」理由

――今回の雑誌立ち上げにあたり、わざわざ紙媒体の雑誌形式を選んだ理由を教えてください。電子書籍など、デジタルメディアが主流の現代において、あえて紙の雑誌にこだわった理由は何でしょうか?

岩橋:俺らがあえて紙の雑誌にこだわったのは、読者との「リアルな繋がり」を大切にしたいからなんだよ。今はスマホひとつでどこでも情報が手に入る時代だけど、バイク乗りの世界ってのは、どこかアナログなところがあるんだよな。例えば、人を部屋に招いた時にこの雑誌が置いてあるとか、あれってデジタルじゃ絶対に味わえない、紙の雑誌ならではの醍醐味だろ? 雑誌を手に取って、ページをめくる。そのリアルな感触やインパクトは、デジタルじゃ絶対に再現できねえんだ。もちろん、雑誌そのものはAmazonでも売ってるんだけど、これはジャンルでの売上トップにして存在感を示そうと思ったからなんだ。

――まさに、バイク乗りが求めていた雑誌なわけですね。

岩橋:もちろん。それに、ショップも喜んでる。ほら、塗装やパーツを提案する時とかに、こうした雑誌があると商売しやすいわけだ。この塗装をしてみないか?という感じにね。うちの広告主は基本的にバイクショップだから、広告を見た読者がそのままショップに足を運ぶ。そこでリアルな繋がりが生まれるってわけ。そういう「人と人との繋がり」を大切にしてるからこそ、俺らは紙の雑誌にこだわってるんだ。ネット販売にも力を入れてるけどな。でもそれはあくまでも、紙の雑誌を補完する役割であって。俺らのスタンスは「リアルファースト」なんだよ。紙の雑誌という「モノ」を通して、読者とガッチリ繋がっていく。それが俺らのスタイルであり、信念なんだ。

◆「型」にはまらず、自分たちのやり方を貫く

――雑誌作りでも「規制」や「常識」に挑戦しているそうですが、具体的にはどんなことをしているんですか?

岩橋:もちろんだよ。他の雑誌みたいに「型」にはめられたくないんだよ。なるべく文章を減らして、いかにバイクをかっこよくみせるか、自分らのやり方を貫いてるんだ。それが他誌には真似できない、俺らの強烈な個性になってるわけよ。

――そんな雑誌作りを支える体制があるわけですね。

岩橋:そう、最初に立ち上げを決めて編集長に電話した時には「はい」か「イエス」のどっちかで答えろから始まったんだ。会議だってZoomなんか使わないし、予定を決めてやったりなんかしない。思いついたら集合して、そのまま納得するまで朝になってもやってる。一度赤入れしてデザイナーに投げても、やっぱり変えようとかやりたい放題だ。担当してくれたデザイナーも有り難いよ。正月も元旦だけ休んで付き合ってくれたし。これも、いいものをつくろうという意志でまとまってるからだよな。創刊号で「GSX400E KATANA」を1台プレゼントしたけど、これも宮入編集長が、読者のためにって喜んで自腹を切ってくれたんだぜ。こないだのイベントで当選者が決まったけど、若いヤツが当選したんで本当に嬉しかったよ。

◆一流カメラマンと組み、「他誌には真似できないクオリティ」に

――その雑誌なんですが、全ページカラーなのは当然ですし、かつての『チャンプロード』みたいな、ダサさも排除してますね。

岩橋:写真がめちゃくちゃ大事だからな。うちの読者はさ、雑誌の文章なんかほとんど読まねえんだ。ページをパラパラめくって、カッコいいバイクの写真を見るだけで満足しちゃうんだよ。だから俺らは文字は最小限に抑えて、誌面の大半を写真で埋め尽くしてるわけ。その代わり写真のクオリティにはめちゃくちゃこだわってるんだ。例えば誌面に統一感を出すために、全ページの背景を真っ黒にしたりさ。細部まで計算し尽くしているんだよ。

――とにかく、写真が美しく。まったくこのジャンルに興味ない人でも「カッコイイ」と感じる出来になってますね。

岩橋:この写真『チャンプロード』の時に仕事してたカメラマンが担当してくれたんだ。ところが、連絡してみたら今や一流のカメラマンになって企業の案件とか、誰でも知っている大スターの写真も多く手がけているというじゃないか。なので、名前は出せないけど、めちゃくちゃいい仕事をしてくれたよ。そういう一流の人たちと組んで、他誌には真似できないクオリティを追求してるわけよ。

◆「はみ出し者たち」に生きる希望を与える居場所に

――雑誌作りを通して、社会にどんなメッセージを伝えたいですか?

岩橋:俺は作品にメッセージを込めるのは嫌いなんだ。こないだ『ゴジラ-1.0』を観たんだけど、ずーっとなんか監督のメッセージがちらついて、早送りで観たよ。ただ、確かにメッセージはある。それは……ボケ防止だよ。昔を懐かしんでるだけじゃ全然ダメなんだよ。今も現役で暴れ回ってるつもりでいねえと、すぐボケちまうからな。だからこそ今回、俺はもう一度雑誌作りの最前線に立とうと決めたわけよ。

――かつての『チャンプロード』の読者も既に初老、あるいは高齢者と呼ばれる世代にさしかかってますよね。

岩橋:そうなんだ。俺らの読者の中にはさ、歳を取って行き場のないオヤジもたくさんいるんだよ。住む場所もない、金もない、頼る人もいない。そういう人たちの中には、わざと罪を犯して刑務所に入ろうとする人もいるくらい追い詰められてんだよ。俺は、俺らの雑誌が、そういう社会の枠からはみ出た者たちの最後の「居場所」になれたらいいなって思ってるわけよ。規制とか常識とかに負けない、反骨精神を持った雑誌を作り続けることで、彼らに生きる希望を与えられたら、それが俺の勝ちだよな。

◆“若い衆たち”にも読んでもらいたい

――最後に今後の意気込みをお願いします!

岩橋:とにかくこれまで培ってきたノウハウを無駄にはできねえからな。次の世代にバトンを渡すためにも、俺らはもう一花咲かせないとな。「ボケてなんかいられねえ」「まだまだ現役でガンガン行くぜ」っていう気概は、誰にも負けねえつもりだよ。俺らにはこの『愛旧ジャパンスタイルブック』にしかない個性と魂があるからよ。それを胸に、最後まで自分らのスタイルを貫いて、読者と一緒に生き抜いていくつもりだからな! そうなったら、俺らの勝ちだろ? ま、若い衆にはついてこれるか分かんねえけどよ、ハハハ!

――本日は貴重なお話をありがとうございました! これからの『愛旧ジャパンスタイルブック』の活躍を楽しみにしています!

岩橋:こちらこそインタビューしてくれて、ありがとうよ。俺らの想いが少しでも伝わったなら嬉しいね。そうそう、もし機会があったらうちのイベントの取材にも来てくれよな。カッコいいバイク乗りのオヤジたちをたっぷり見せてやるからよ。あとは、若い衆たちにもぜひうちの雑誌を読んでほしいね。「古き良きバイク乗りの生き様」ってのを知ってもらえたら、きっと刺激になると思うんだ。これからもイケイケでやっていくつもりだから、応援してくれよな! よろしくどうぞ!

<取材・文/昼間たかし>

【岩橋健一郎】
青少年不良文化評論家。1966年12月24日生まれ。少年時代を暴走族として過ごし、引退後は当時の経験を活かし、『月刊チャンプロード』(笠倉出版社)を創刊立ち上げ。20年間以上暴走族を追い続けているジャーナリストとして英国BBCに取材を受けるという経験も。現在も各種メディアで不良少年の声を代弁する、いわば、「ヤンキー界の重鎮」的存在。

【昼間たかし】
ルポライター。1975年岡山県に生まれる。県立金川高等学校を卒業後、上京。立正大学文学部史学科卒業。東京大学情報学環教育部修了。ルポライターとして様々な媒体に寄稿。著書に『コミックばかり読まないで』『これでいいのか岡山』

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