【社労士に聞いた】タニタが推進する社員の個人事業主化 企業や労働者のメリット・デメリットは?

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2024年06月02日 19:20  まいどなニュース

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社員雇用から業務委託契約に切り替える「社員の個人事業主化」のメリット・デメリットとは ※画像はイメージです(Dzianis Vasilyeu/stock.adobe.com)

タニタといえば、体重計や体組成計といった健康計測機器の大手メーカーとして広く認知されています。昨今では「日本活性化プロジェクト」という斬新な組織改革をおこなった企業としても有名です。2017年に開始されたこの組織改革は、希望する社員を雇用契約から業務委託契約に切り替え、個人事業主化するというものでした。

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「日本活性化プロジェクト」は開始直後から大きな注目を集め、今では電通など他の大企業でも同様の制度が導入されています。このように社員を個人事業主化する組織改革は、企業や個人にとってどんなメリット・デメリットがあるのでしょうか。社会保険労務士法人こころ社労士事務所の香川昌彦さんに聞きました。

ーーまずは雇用契約と業務委託契約の違いについて教えてください

この2つの契約の違いは、主従関係の有無にあります。雇用契約の場合は、使用者の指揮命令の元で働く労働者となり、何時から何時まで、どこでどんな仕事をするのかが契約によって決定されます。この指示に従う対価として、労働者は賃金を受け取ります。

一方、業務委託契約の場合は雇用契約とは異なり主従関係がなく、おこなった仕事の成果や制作したものを企業に納品することで対価を受け取ります。

ーー雇用契約から業務委託契約への変更は簡単にできるのですか

簡単ではありません。雇用契約から業務委託契約に変更する場合、社員は一度会社を退職する必要があります。タニタの場合のように、希望する社員であれば自ら退職を選択して、業務委託契約を結び直すのはさほど難しくありませんが、企業の都合で退職させる場合には、解雇扱いとなるためそのまま離職につながる恐れもあるでしょう。

ーー社員の個人事業主化は、企業にとってどんなメリットが考えられますか

社員から個人事業主になれば、人にかかる費用を固定費から変動費に変更できます。社員であれば繫忙期や閑散期に関係なく、固定の賃金を支払う必要がありますが、個人事業主であれば、閑散期には依頼する仕事も減るため、対価を支払う必要がなくなります。

また労務管理の対象から外れるため、勤務時間や有給休暇の管理、社会保険と健康保険の支払いも不要となります。源泉徴収、住民税の支払、年末調整といった事務処理の負荷を減らすことも可能です。

ーー逆にデメリットはありますか

会社に業務に関する知識やノウハウが蓄積されないことがデメリットとして考えられます。社員であれば社内で知識やノウハウを管理・継承できます。しかし社員が個人事業主に置き換わってしまうと、自分で知識などを抱え込み、会社側に提供しなくなるかもしれません。

またその知識に価値があれば、ライバル企業と契約してしまいノウハウが流出することもあり得るでしょう。

ーーでは労働者側のメリットにはどのようなものがありますか

一番のメリットは、時間の自由が手に入ることだと考えられます。会社員の場合は業務が完了していても定時までは会社にいなければいけません。しかし個人事業主であれば依頼を完了させていれば、その時点で帰宅することが可能です。また、出社しての業務が依頼内容に入っていなければ、仕事をする場所は自宅や旅行先でも問題ありません。

空いた時間を使って、別の会社から業務依頼を受けて収入アップや、勉強してスキルアップすることもできます。

こうした時間の使い方をすることで、会社に縛られない自分だけの独自のキャリアを築き上げることができるのもメリットのひとつといえるでしょう。

ーー大きなメリットはあるように思いますが、デメリットはないのですか

もっとも大きなデメリットは、成果が評価されなければ、企業側から契約を切られてしまう可能性があることです。社員であれば簡単に解雇されず安定した収入が期待できます。しかし個人事業主であれば、「今回の納品を最後として契約解除」なんてこともあり得るのです。

また、万が一事故や病気になったとしても、傷病手当金が貰えないですし労災もおりません。自分で保険に入るなどのリスク管理が必要です。さらに、企業に勤めていた時に得られた福利厚生や住宅ローンの優遇金利などのメリットも失ってしまいます。

ーーどのような人が個人事業主になるのが向いていると思いますか

一言でいうと、自分が社長であるという自覚が持てる人です。個人事業主になれば、営業から経理など、全ての業務を自分で考えなければなりません。もともと勤めていた会社から業務委託で仕事が得られるかもしれませんが、それもいつまで続くか保障されているわけではないです。

会社に頼らずに、自らの力で切り開いていく気概が必要でしょう。

ーー今後、このような取り組みは広がると思いますか

個人的には難しいのではないかと思っています。というのも、個人事業主になってもやっていこうと考えるような人は、もともと優れた能力を持っているケースが多いです。企業にとって能力の高い人は手放したくないはずなので、リスクを背負ってまで個人事業主化を推進する企業は少ないでしょう。

ただし、個人事業主化まではいかなくても、副業を解禁して従業員の自由度を上げるような動きを見せる会社は今後も増えていくことが予想されます。

◆香川昌彦(かがわまさひこ)/社会保険労務士 人脈ゼロから事業を成長させ200社以上の経営を支え、「社労士オタク」と称されるほど就業規則に熱中。ラーメン愛好家としても知られ、「#ラーメン社労士」での投稿が人気。個性を活かし幸せに働く職場環境づくりに貢献している。

(まいどなニュース特約・長澤 芳子)

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  • 個人事業主✕ 激安下請け◯ 労働者側のメリット?ゼロだろ?デメリットのみ。下請け料金?同じ稼ぎには仕事量増え+リスクと事務管理時間だろ?
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