ドラッグ、大量殺人、そして反戦……ヤバすぎるスペイン・フランス合作のアニメ映画「ユニコーン・ウォーズ」レビュー

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2024年06月02日 19:33  ねとらぼ

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ねとらぼ

映画「ユニコーン・ウォーズ」は絶賛公開中/(C) 2022 Unicorn Wars

 スペイン・フランス合作のアニメ映画「ユニコーン・ウォーズ」が、シアター・イメージフォーラムでの先行公開を経て、 5月31日からT・ジョイPRINCE品川ほか全国順次拡大公開だ。


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 パッと見のビジュアルで“ヤバい”と思ったそこのあなたは大正解。完全に大人向けの内容で、「殺傷・流血の描写がみられる」という理由でPG12指定されており、そのレーティングでもギリギリ(アウトでは?)という表現のオンパレードだった。


 それでいて、米批評サイトRotten Tomatoesでは批評家支持率84%にオーディエンススコア93%と評価はとても高い。企画・制作期間に6年を要し、250人以上のスタッフが制作に携わったというアニメのクオリティーも半端なものではなく、美しい森の光景や、神秘的で時におどろおどろしい音楽を、ぜひ劇場で堪能してほしい。


 なお、かわいい見た目とグロさのギャップがあるアニメということから、「ハッピーツリーフレンズ」を思い出す方もいるかもれないが、本質的な内容はそれとは異なる。何しろ、憎しみと戦争による悲劇の物語に涙する(実際に筆者は泣いた)、「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎」に匹敵する、新たな反戦アニメ映画の傑作だったのだから。その理由を記していこう。


●ドラッグ描写が特に“ヤバい”


 本作の世界観は「テディベアとユニコーンが長きに渡って戦いを繰り広げているディストピア」。公式の触れ込みは「かわいい見た目とは裏腹の、ドラッグ、戦争、大量殺人、究極の反戦アニメ!」である。あとは男性器がばっちりと映されていたりと、ほぼ全ての表現にブレーキがかかっていないのだが、中でもドラッグ描写はアクセルベタ踏みで危険な峠を爆走していた。


 主人公の部隊は、森の中でドラッグとなるムカデ(その見た目がまたかわいいのが凶悪)を見つけ、搾って殺して喰らいハイになり、身体が溶け出すなどの幻覚を見るのは序の口、さらにその翌日にはとてつもない悲劇が起こる。「コカイン・ベア」とはまた別ベクトルで「クスリ、ダメ絶対!」と実感が得られること間違いなしである。


 もちろん残酷描写も突っ走っており、銃殺、爆殺、敵となるユニコーンのツノによる串刺しなどなど、戦争における(あるいはファンタジーとしての)殺人描写がめじろ押し。「うん……PG12指定止まり……?」と、やはりレーティングをもう一度確認したくなることだろう。


 他にも近親愛や同性愛を示唆する場面もあり、いずれも「現実にある描くべきものをしっかり描く」作り手の心意気だと受け取った。


 「かわいい見た目に反して描写は遠慮知らず」というのが、本作のわかりやすい魅力だろう。


●主人公がカス(そして悲しい)


 そうした描写はただ露悪的なだけではなく、やはりメインである憎しみと戦争による悲劇の物語と密接に絡み合っている。そして、主人公が「新兵訓練所で屈辱的な特訓の日々を過ごす青年」であり、そのせいもあって双子の兄にずっとひどい言動をしている、というよりも性格がカスそのものなのも、作品には重要だった。


 何しろこいつ、器がとにかく小さい。仲間には見た目の美しさを見せびらかしているが、毎日化粧で隠していることを見抜かれている。弓矢の腕前が2番手だと言われれば、露骨に機嫌を悪くする。さらには普段から暴力を振るうことにもお構いなし。最悪なのが、兄がおねしょをした(前後の描写からして実際におねしょをしたのは主人公のほうだろう)時のとある対応で、誰もが主人公のことをいい意味で嫌いになるだろう。


 だが、彼の幼少期の出来事からは、「こうなってしまった」理由もつぶさに提示されており、その「戦争ではない悲劇」もまた苛烈なものだった。だからと言って誰かを傷つけていい理由にはならないと、あらためて主人公に怒りも覚えるのだが、同時に切なくもなってしまう。「もう少しだけでも別の考え方ができ、他の選択肢が取れたら、こうはならなかったのに……」と。


 また、主人公は両親が双子の兄へ自分よりも愛情を与えていたと思い込み、嫉妬心を募らせているのだが、客観的には彼もまた両親や兄から愛されていたことは明白だ。そのことに彼が気づいていないことも、また悲しい。


 そんなふうに身勝手で、愚かな憎しみを家族に募らせている主人公は、「聖戦」と称する戦争に参加し、さらに他人を傷つけ、殺すことを「正当化」していく。その先にさらなる悲劇が待ち受けているのは明白なのだが、それでもなお、彼に「人間性」が残されていたことを示す描写もわずかにあり、その人間性をも戦争が塗りつぶしてしまうことに、筆者は涙したのだ。


●現実と地続きの物語


 アルベルト・バスケス監督は本作を制作するにあたり、「地獄の黙示録」や「プラトーン」などの戦争の悲惨さを描いた映画、それから「バンビ」を意識したとも語っている。


 なるほど、確かに序盤の「戻ってこない部隊を探しに行く」流れは戦争映画としてはスタンダードであるし、森の中にいるかわいいキャラクター描写はディズニー作品を連想する(ただしそのかわいいキャラはおおむね血を撒き散らして死ぬ)。とある恐るべき存在の造形や、そもそもの自然に住む者たちとの戦いから「もののけ姫」を連想する方も多いだろう。


 劇中では「聖書」についてもたびたび言及しており、宗教や伝統が救いになる一方で、それが自らを過剰に正当化する要因になり得る危険性も示されている。「ユニコーンの血を飲むと美しい永遠の存在になる」というまゆつばものの話や、書物に記された一方的な価値観の伝統もまた、主人公や軍隊の視野狭窄につながっていた。そうしたセンシティブかつ、実際の人間の歴史に存在する問題に挑んでいるのも、作り手の覚悟の表れだろう。


 そして、真に戦慄したのは、意外だが納得もできる、今までに見たことがない、衝撃的なラストシーンだ。もちろん詳細は避けておくが、この物語が「現実と地続き」なのだと強く思わせる帰着であり、アニメという表現手法を用いた意義を大いに感じるものだった。


 現実でロシアによるウクライナへの侵攻、イスラエルによるガザ地区への侵攻という戦争、いや一方的な虐殺が行われている今、この「ユニコーン・ウォーズ」から憎しみと戦争により起こる悲劇の物語を受け取ってほしい。劇中の物語だけでなく、現実で「こうならないために何ができるか」を、見た人それぞれで考えるきっかけになるだろう。


(ヒナタカ)


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