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だが年齢を重ね、ひとりになって体力にも自信がもてなくなると、つい子どもを頼ってしまうのは仕方のないこと。
子世代も経済的に厳しい時代、親との同居に踏み切るケースもあるが、スタートからお互いの認識が違っていることも多いようだ。
60歳間際、ひとりになって病気をして……
夫に先立たれてひとりになると、どうしても気弱になってしまう。そこで病気などしようものなら、このまま孤独のうちに死んでいくのかと絶望的にもなるだろう。「夫が60歳の定年になったとたん病気になり、1年も経たずに亡くなったんです。当時、私は58歳。夫亡き後、急に体調を崩して内臓の病気で1カ月の入院、手術をしてようやく帰宅しましたが、がらんとした部屋でひとり自宅療養は本当に寂しかった」
“あまり好きではない”嫁からの「甘い言葉」
ケイコさん(62歳)は、それがきっかけで息子から同居を提案されたという。夫がいない、自分の体調も不安定、パートも辞めざるを得なくなった。不安と孤独の中、息子の提案はありがたかった。
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嫁がその孫を連れてきて、『私、もうひとり子どもがほしいんです。お義母さんのことも本当の母親だと思っています。みんなで家族になりましょう』と言ってくれて。
心身が弱っていたから、そういう言葉につい頼ってしまった」
ごく普通の一軒家で二世帯住宅ではなかったため、ケイコさんは不便が多くなるのではと危惧した。だが嫁は「譲り合えば大丈夫ですよ、家族なんだから」と甘い言葉を発した。
ケイコさん自身、夫婦ふたりきりからひとりになったのに、今度は4人家族になるのがうれしかったから、息子の妻を信じ切っていたという。
息子の“生々しい”言い方に怯んだ私
ケイコさんの自宅は、4LDKだ。階下は水回りとリビング、夫が書斎代わりに使っていた小さな部屋がある。その小さな部屋がケイコさんにあてがわれた。2階はすべて息子一家が使うという。
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じゃあ、いいわよ、物置でと言うと、嫁が『お義母さん、そこは寝るだけにしてリビングを好きなように使ってくださいよ』って。
いや、もともとあんたたちが居候するわけでしょと言いたかったけど角が立つし。そうこうしているうちに、息子が『家の名義がまだお父さんになっている。変更したほうがいい』と言いだして。
結局、息子の名義になりました。夫の退職金の一部でようやくローンが完済した家なのに、あっけなく息子の名義になってしまった」
60代で孫育てを強いられ、嫁からまさかの言葉
乗っ取られた感じがした。息子の意図ではなく、嫁の意図だとケイコさんは思った。その後、今度は女の子が生まれた。嫁は育休もろくにとらずに仕事に復帰、平然と残業までしてくるようになった。「3歳とゼロ歳児を抱えて、家事に育児にと大変な日々でした。どうして60歳になる私がこんな目にあわなければいけないのか……。
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無理がたたり、ケイコさんは昨年、体調を崩して入院した。さらに股関節の手術に踏み切った。
「ずっと痛かったから医師と相談して手術しました。決まってから息子たちには言ったんですが、ふたりとも青ざめてましたね。『家政婦と子守が入院しちゃうから大変だけど、頑張ってね。あなたたちが親なんだから』と嫌味を言ってやりました」
手術に向かうとき、ケイコさんはひとりぼっちだった。息子夫婦はそれぞれ仕事が休めないというのだ。別にいいけどと言ったが、ひとりで手術室に向かいながら、これならひとり暮らしでも同じだわと思ったそうだ。
「手術が終わってしばらくたってから息子夫婦が来たみたい。まだ麻酔が効いていたから頭がぼうっとしていたんですが、会話は聞こえました。
嫁が『寂しいだろうと思って同居してあげたのにね。それに入院なんかして、使えないわね、あなたのお母さん』と言ったんですよ。息子は『そう言うなよ』となだめていましたが、私はあの言葉は忘れない。
私が同居させてやったから経済的に楽になったはずなのに、恩も感じていないなんて」
子世代は「同居してあげた」と思い、親は「同居させてやった」と考えている。お互いに相手に恩を着せている状態では、うまくいくはずもない。そのあたりは話し合って解決できる問題ではないのかもしれないが。
この春から孫たちが保育園に入園し、ようやくケイコさんも時間的に少し余裕ができた。だが、まだ友人と時間を気にせず会ったり旅行したりすることはできずにいる。家族と暮らすというのは、自由を奪われるということなのか。
自分の時間がほしい、自由がほしい。ケイコさんは日々そう思いながら、ストレスを抱えているという。
亀山 早苗プロフィール
明治大学文学部卒業。男女の人間模様を中心に20年以上にわたって取材を重ね、女性の生き方についての問題提起を続けている。恋愛や結婚・離婚、性の問題、貧困、ひきこもりなど幅広く執筆。趣味はくまモンの追っかけ、落語、歌舞伎など古典芸能鑑賞。(文:亀山 早苗(フリーライター))