「今まで見たことがないエンターテインメントがここにあると思う」『THIS MAN』木ノ本嶺浩【インタビュー】

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2024年06月05日 08:10  エンタメOVO

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木ノ本嶺浩(ヘアメーク:池田眞美子/スタイリスト:吉田ナオキ)(C)エンタメOVO

 とある田舎町で連続変死事件が発生した。被害者は全員、眉のつながった奇妙な風貌の男を夢の中で見ていたという。夢に出てくる男は「あの男」と呼ばれ、人々を恐怖に陥れる。被害が拡大していく中、夫や娘と幸せに暮らしていた八坂華(出口亜梨沙)の身にも危険が迫る。世界的に話題を集めたインターネットミームに、日本独自の解釈と社会風刺を加えて映画化したパニックスリラー『THIS MAN』が、6月7日から全国公開される。公開を前に、華の夫の義男を演じた木ノ本嶺浩に話を聞いた。




−この映画は、都市伝説やネットミームを映画化したものですが、最初に脚本を読んだ印象はいかがでしたか。

 今まで見たことがないホラーというよりも、すごく人間ドラマを大切にしているという印象を持ちました。怖い出来事ももちろんありますが、それ以外にも家族の物語、刑事のバディの物語、翻弄(ほんろう)される市井の人々の話などが丁寧に描かれていると思いました。

−では、実際に演じてみていかがでしたか。

 僕は、ひたすら映画の中の家族のことを考えていました。奥さんや子どもの身に起きるつらい出来事を描くからこそ、日常を丁寧に描くことでそのつらさも引き立つと思ったのです。この家族とどれだけ一緒にいられるのかと険しい顔をして思い悩むよりも、家族の前ではそれは隠すよなとか、そんなことを考えていました。義男は華に対して、彼女を思うが故に、どう接したらいいのか分からないのですが、自分も同じ心境でずっといた感じです。あとは、順撮りができないところでの感情の動きには気を付けました。

−この映画はもちろん全体的にはホラーですが、THIS MANの顔や濃い眉毛はどこかコミカルです。そのギャップについてはどう思いますか。

 都市伝説というものが、現実に起きたら実はこうなのかもしれないみたいな感じですかね。例えば、ピエロが怖いと感じるのもそれに近いと思うんです。ピエロって本当は楽しくて悲しい道化の象徴だったのに、映画などで殺人者のイメージがついてしまったことによって、街中で見るピエロでさえ、コミカルだけど怖いみたいな現象が起きている。THIS MANも、間近で見るとめちゃくちゃ怖いんです。演じられているのがすごくユーモラスな方なので、そのおかしさはありますが、義男の身としては得体の知れない怖さがありました。

 コロナ禍でもそうだったと思いますが、人は得体の知れないものと相対した時に、何を信じたらいいのか分からない状態になりますよね。コロナ禍の時も実際に有効なのか分からないものもあったと思うのですが、この映画では呪術という概念のようなものに頼る。その意味では、「それってどうなの?」という問題提起ができているのかなと思います。

−華役の出口亜梨沙さんの印象は?

 クランクインする前に何度か本読みを重ねる機会があって、休憩中に「この夫婦ってどんな感じなんだろうね。この2人の幸せって何だろうね」とか、いろいろと突っ込んだ話ができたので、そういう意味では、僕がイメージしていた華と、明るくて割とはっきりと物を言う出口さんがすごくフィットしました。なので、出口さんと会話をしながら、自然とその延長線上に夫婦像が見えたのでやりやすかったです。カットの声が掛かっても、ずっとシーンの延長で話していたりもしました。疑似家族ではないですけど、家族として楽しく過ごせたかなと思います。

−天野友二朗監督の演出はいかがでしたか。

 このシーンはこう撮りたいという明確なイメージを持っていらっしゃるし、そのシーンの意図を丁寧に説明してくださいましたので、僕らとしては、ある種感情の設計図になるようなところがありました。「こうしてください」とか「ここはこんな表情で」みたいな演出を現場で受けるのではなく、「ここはつらいですね」みたいなところを読み合わせた上で撮影ができました。めちゃくちゃ欲しいカットが撮れたら、すごくニコニコしながら、「いや、よかったですね」と。自宅での家族のシーンはすごくカット数が多くて、シーン数も多いのに、どんどんと早いテンポで一気に撮っていました。乗ってくると、監督が“あの男”を見たんじゃないかと思うぐらいに熱が入って、その熱にほだされて、現場の士気もどんどんと上がっていくみたいな感じでした。

−順撮りではなかったとのことですが、役としてのメリハリの付け方というか、幸せだった時との切り替えを演じるのは大変でしたか。

 大変な部分はありましたが、起きる出来事に対して素直に反応していくようにしました。目の前でつらそうにしている奥さんがいる、目の前で子どもが泣いていることに素直に反応していく。順撮りではない分、手探り感というのは確かにありましたけど、とにかく起きる出来事に素直に反応しようと思いました。また、役について半年間じっくりと考えていられるというのはとても充実した期間でした。ふとした時に脚本を読み返して、家族についてはこうなのかなと考えていけたので、僕の中ではすごく寄り添い続けられた役でした。いつもこんなふうに真摯(しんし)に作品と向き合い続けたいと思いました。年齢的にも奥さんがいて子どもがいてという役ができたことは、ある意味、転機になりました。

−完成作を見て、撮影時と印象は変わりましたか。

 見たことがない作品だと思いました。 映像や音楽の使い方も和ではなく、ある種アジア的なノリもあるんですけど、でもやっぱりこれは日本だよなという印象もありました。また、映像のカラーリングでいえば、監督がこだわった色合いがこんなにも際立つんだという驚きがありました。伊豆大島のロケーションでは、自然への畏怖みたいなものを感じました。それがあるからこそ、人々は見えないものに巻き込まれていくみたいなテーマが見えました。

−これから映画を見る読者に向けて、一言お願いします。

 恐怖を感じたいという人には、もちろん楽しんでいただけると思います。ただ、それだけではないドラマもありますし、恐らく今まで見たことがないエンターテインメントがここにあると思うので、いろんな楽しみ方ができると思います。考え過ぎずにも見られるし、考え込むこともできるという作品になっています。そこを楽しんでいただければと思います。

(取材・文・写真/田中雄二)


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