「Webでランドセルを買った顧客」に保険を案内――じわじわ広がる、組み込み型保険の実態

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2024年06月05日 08:11  ITmedia ビジネスオンライン

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リードインクス代表取締役社長の柏岡潤氏

 インターネットの普及から、はや30年。言わずもがなさまざまなシーンでデジタル化が進み、人々の行動を変えている。しかし、業界によってその進度はまちまちだ。


【画像】リードインクス代表取締役社長の柏岡潤氏


 デジタル化に苦心する業界の一つに、保険業界がある。セキュリティの重要性や固定化された商習慣から、デジタル化に慎重な傾向だ。


 結果として、生命保険では営業職員123万人が対面で営業、損害保険でも保険募集の従事者が185万人と、人海戦術の側面がぬぐえない(それぞれ生命保険協会「2023年版生命保険の動向」、損害保険協会「2022年度損害保険代理店統計」より)。オンライン保険やWeb相談の普及も進んではいるものの、現在も対面での営業、紙書類での申し込みが主流だ。


 そんな中、今後成長が見込まれる領域に「組み込み型保険」(エンベデッド・インシュアランス)がある。オンライン上で商品やサービスの注文と同時に契約できる保険で、欧米や中国を中心に開発が進み、日本にもその波が訪れつつある。


 ソフトバンクグループ傘下で組み込み型保険のシステムを提供するリードインクス代表取締役社長の柏岡潤氏は「『保険は人から買わなきゃいけない』という先入観を払しょくしたい」と語る。


●「ランドセルを買った顧客」に保険提案、どんな可能性がある?


 組み込み型保険のメリットの一つは、すでにある顧客接点を活用できることだと柏岡社長は説明する。


 「例えば、ランドセルを買ったお客さんがいたとします。小学校に入学するお子さんがいると考えると、他の商品も併せて売れる可能性がありますよね。店頭であれば、保険にも興味があるか聞くことでクロスセルができますが、オンラインだとそれが難しい。そういったシーンで、オンライン上でも『学資保険のニーズはありますか』と案内できるというのがエンベデッド・インシュアランスの強みです。


 この考えは昔からあるもので、旅行代理店で旅行を買う方に旅行保険を提案する、カーディーラーで車を買う方に自動車保険を提案する――という提案方法と同じく、商品を買うときに発生するリスクに対し、保険をセットで販売するという方法です」


 こうした仕組みが求められる背景には、消費者の行動の変化がある。若い世代であればあるほど「対面で保険を売りに来られるのがイヤだ」と感じる人は多い。また、オフィスの休憩室などに入れてもらい、販売する手法も年々難しくなっている。高い買い物でも、店頭ではなくWebで契約することが増えた。


 一方、Web上の顧客接点は増えている。しかし、そこから最大限にマネタイズできていると言える企業は多くないだろう。保険の組み込みによって、新たなクロスセルの可能性が見込めるかもしれない。


●リスクが想起されるタイミングに案内


 ユーザー側のメリットは、加入が簡便であることだ。上述のランドセル購入から学資保険に加入する事例であれば、ランドセルを買った際に入力した情報を引き継いで簡単にオンライン上で加入できる。プラットフォーマーの活用方法によるが、購買時に付与したポイントを保険に充てられる事例もある。


 リードインクスが提供するシステムは、グループ企業であるLINEヤフーのサービスに多く組み込まれている。中でも、中古品に対する保険が人気な商品の一つだという。


 「Yahoo!ショッピングやYahoo!オークションでの需要は大きいです。中古商品を買うときに、壊れてしまう危険がありますので保険に加入してリスクを回避するケースが多くあります」


 他にもYahoo!天気からは、熱中症保険の「熱中症お見舞い金」に加入できる。


 柏岡社長は「気温が高い日に天気予報を見て、遠く離れた親御さんや、部活の合宿に行っているお子さんを心配され、その場で加入するということがあります。当初は(天気予報を見る)本人が加入することを想定していましたが、販売後こうしてご家族の方に加入していただくケースが多いことが分かりました。熱中症というリスクが想起されるタイミングに対し、保険の案内がうまくマッチしていると考えています」と話す。


●「自社の事業×保険」で何かができる?


 保険商品を提供する会社にとっては、販売ルートが拡大するだけでなく市場の反響を得やすいこともメリットだと柏岡社長は話す。


 「保険販売を代理店がやるのが日本のスタイルです。そのため、保険会社は商品の反響をダイレクトに得られないという一面があります。また、市場のスピードに合わせた商品開発が難しい、コストに見合わない。そういった点がエンベデッド・インシュアランスの普及で変わってくるのではないでしょうか」


 今後の課題は、保険を提供するプラットフォーマーとなる企業を増やすことだ。


 顧客接点がオンライン化することで「クロスセルができず、コストがかかる割にもうからない」「データはあるが有効活用法が分からない」と悩む企業に対し、保険を組み合わせることを提案したいと柏岡社長は語る。


 「エンベデッド・インシュアランスは、顧客とのWeb接点が広がっていけばおのずと広まっていくと思います。どの法人も『お店に来てください』というコミュニケーションから『アプリで情報を届けます』『Webで案内します』というものに変わってきています。その過程で効果的な保険を展開できるようになると思います。


 ただ『自社の事業×保険』で何かができると考えている事業者はまだ少ないので、さまざまな顧客接点を持つ企業と一緒に伴走して成功事例を作っていくことが先決だと考えています」


 さまざまな事業者が、LTVの向上を掲げ“顧客の囲い込み”を重視し始めている。エンベデッド・インシュアランスの活用はその一翼を担うのだろうか。


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