ヤマダデンキ、JR東、高島屋も……各社が急速に「銀行サービス」を開始したワケ

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2024年06月05日 08:11  ITmedia ビジネスオンライン

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住信SBIネット銀行執行役員 兼 BaaS事業本部本部長の前田洋海氏

 百貨店の高島屋や航空会社のJAL、プロ野球の北海道日本ハムファイターズなど、金融業界以外の企業が次々と銀行サービスに参入し話題を呼んでいる。さらにこの4月には、JR東日本も「JRE BANK」の名称で銀行サービスを開始すると発表した。


【解説を読む】企業が銀行サービスをするメリットは?


 ただ、これらの企業が自前で銀行免許を取得して銀行業に乗り出すわけではない。彼らが活用しているのが、既存の銀行が持つ金融機能をサービスとして提供するBaaS(Banking as a Service)だ。APIやクラウド技術の進歩を背景に、BaaSを通じて銀行の機能を自社サービスに組み込む動きが加速している。JRE BANKも楽天銀行とJR東日本との協業で実現するものだ。


 このBaaSの分野で先駆的な存在が、住信SBIネット銀行だ。2020年から「NEOBANK」のブランド名でBaaSを展開し、すでに16社と提携。金融の枠を超えた独自のエコシステム構築を進めている。


 なぜ今、銀行以外の企業が金融サービスに注目するのか。そして、彼らを後押しする住信SBIネット銀行の狙いとは。同行でネオバンク事業を統括する住信SBIネット銀行執行役員 兼 BaaS事業本部本部長の前田洋海氏に話を聞いた。


●ヤマダデンキ、JR東も……なぜ「銀行」に参入?


 近年、小売業や交通機関など、金融業界以外の企業が次々と銀行サービスに参入している。こうしたサービスは、企業にとってどのような意義があるのだろうか。


 前田氏は「企業は銀行サービスそのものを新規事業としてやりたいわけではありません。銀行機能を活用して、自社の顧客に新しい価値を提供したいのです」と語る。


 企業にとってNEOBANKは、顧客との接点を強化し、ビジネスを拡大するための戦略的ツールとして機能している。「提携企業の売り上げアップやコスト削減に直結することが、私たちが提供するNEOBANKサービスの特長です」と前田氏は強調する。


 例えば、企業にとってクレジットカードなど決済サービスの手数料は少なくないため負担になる。NEOBANKサービスでは、銀行口座から直接支払うコード決済サービスも提供しており、加盟店側は手数料0円で利用できる。


 例えばヤマダデンキが「ヤマダNEOBANK」の中で提供している「ヤマダPay」がそれに当たる。手数料がかからない分、ヤマダPayで決済したら1%相当のポイントなどを顧客に還元可能なわけだ。


 「自社サービスとして決済まで提供することによって、顧客接点を増やして売り上げにつながる好循環が生まれる。新しい客層が入ってきて、お店に行って使う。これがNEOBANKの提携先さまの一番の狙いなんです」(前田氏)


●銀行サービスで成功している事例


 NEOBANKサービスを導入し、成功を収めている企業の事例は、小売業や交通機関だけでなく、保険会社や証券会社にも広がっている。


 百貨店の高島屋では、以前から行っていた友の会の会員サービスをデジタル化し、「スゴ積み」としてNEOBANKと連携。オンライン上で積立を行い、たまった残高にボーナスを付与、一定期間後に店舗で使えるようにした。この取り組みにより、若年層の取り込みと消費喚起に成功している。


 具体的には「タカシマヤNEOBANK」の口座開設者の平均年齢が、従来の友の会会員よりも20歳以上若くなったという。また、定期積立による1回あたりの購入単価が1.5倍に増加。店舗での購買頻度も向上しているそうだ。


 北海道日本ハムファイターズは、住信SBIネット銀行が提供する「F NEOBANK」をファンに向けて展開。グループ会社が提供する新スタジアム「エスコンフィールドHOKKAIDO」でのキャッシュレス決済との連携や、先行入場特典の提供などに活用している。決済に対してチケットやグッズと交換できる「Fマイル」を還元するなど、ファンエンゲージメントの向上につなげている。


 保険業界では、第一生命保険がNEOBANKサービス「第一生命NEOBANK」を展開。保険契約者向けの付加価値サービスとして、預金や決済などの銀行機能を提供している。


 保険会社の課題の一つに、保険金の支払いが一時的なものにとどまるため、顧客との継続的な接点を作りにくいという点がある。「第一生命ネオバンク」では、保険金受取口座をNEOBANKに設定してもらうことで、保険契約終了後も顧客とのリレーションを維持。将来的な保険ニーズの取り込みにつなげる狙いがあるという。


 証券業界でも、松井証券が「MATSUI Bank」を開始。証券取引で発生する余剰資金を、NEOBANKの円預金で運用できるサービスを提供している。


 従来、証券会社における顧客の余剰資金は、他行預金などに置くことが一般的だった。しかし、「MATSUI Bank」であれば、自動スイープ機能により、余剰資金を有利な金利で運用しつつ、必要に応じて証券口座に移管することが可能だ。円普通預金金利0.2%と高金利を付けることで、サービス開始から4カ月で口座数3万口座、預金残高300億円を突破した。


 これらの事例に共通するのは、NEOBANKが単なる金融サービスではなく、マーケティング施策の一環として機能している点だ。顧客との接点を強化し、購買体験を向上させることで、ビジネス課題の解決につなげている。


 また、銀行サービスと他のサービスの連携を進めている点も見逃せない。例えば、住信SBIネット銀行が提供する「JAL NEOBANK」は、「JALマイレージバンク」アプリとの連携により、預金残高に応じてマイルがたまるサービスなどを実現。JALの多様なサービスと連携し、シームレスな利用を実現し、相乗効果を生み出している。


●BaaSとは何か?


 では、こうしたサービスはどのような形で実現しているのだろうか。


 一般的に、銀行サービスを提供するためには、銀行免許の取得が必要とされる。しかし、銀行免許の取得には多額の資本金や厳格な審査プロセスが求められるため、参入障壁が高いのが実情だ。


 これに対してBaaSでは、銀行免許を持つ金融機関が、自社の金融機能をAPIなどの形で外部に公開する。そして、このAPIを活用して、他の企業が自社サービスに銀行機能を組み込んでいく。つまり、銀行免許を持たない企業でも、BaaSを活用することで、疑似的な銀行サービスを提供できるようになるのだ。


 顧客から見ると、BaaSのサービスは、あたかもその企業が直接提供する銀行サービスのように見える。例えば、小売業の企業が自社アプリに金融サービス機能を搭載すれば、顧客はそのアプリ上で口座開設や残高照会、決済などを行うことができる。まるで小売業の企業が自前の銀行を持っているかのような体験が可能になるわけだ。


 しかし、その実態は異なる。顧客が口座開設した先は、あくまでもBaaS機能を提供する銀行だ。小売業の企業は、銀行が提供するAPIを通じて、顧客の口座情報にアクセスしているにすぎない。


 こうしたBaaSの構造により、銀行は自前でサービスを展開するのではなく、パートナー企業を通じて間接的に顧客にアプローチする。一方、企業はこの仕組みを利用することにより、金融サービスを自社のビジネスに組み込むことが可能になる。


●銀行サービスを提供 住信SBIネット銀行の狙い


 企業にとって新たなツールとなり得る銀行機能。ではそれを提供する住信SBIネット銀行側の狙いは何か。前田氏は「銀行にファンはいない。でも提携先企業に多くのファンがいる。提携先企業を通じその企業のファンに金融サービスを提供すれば、従来のダイレクトバンキングよりも大きなマーケットが期待できる」と狙いを話す。


 住信SBIネット銀行にとって、提携企業の顧客基盤を活用した口座獲得は重要な戦略だ。単に口座数を増やすだけでなく、企業ファンの銀行口座を押さえることで、金融サービスの主軸顧客を獲得できると考えている。


 住信SBIネット銀行は現在、16社とNEOBANKサービスで提携。2023年4月時点のNEOBANK口座数は130万口座を突破し、前年同期比で2倍以上の伸びを見せている。前田氏は「2024年度内に300万口座の獲得を目指す」と意気込む。


 銀行機能をAPIとして提供する銀行は、GMOあおぞらネット銀行などが有名で、新興のUI銀行やみんなの銀行もAPI接続を特徴としている。一方で、API単体ではなく銀行機能を丸ごと提供する、いわゆるフルバンキングをメインにしているのが楽天銀行や住信SBIネット銀行だ。


 特に住信SBIネット銀行は、単に銀行機能を提供するのではなく、提携先企業との協業を重視している点に特徴がある。「NEOBANKは、提携企業のビジネスに貢献して初めて意味を持つサービス。だからこそ、企業の事業戦略に深く入り込み、共にサービスを作り上げていく共創のアプローチが重要なのです」と前田氏は力説する。


 住信SBIネット銀行は今後、リテール向けのネオバンクサービスに加え、法人向けのサービス拡充も視野に入れている。「銀行機能を必要としているのは個人だけではありません」と前田氏は展望を語る。また、提携企業との連携をさらに深化させ、企業の垣根を越えたエコシステムの構築も目指す。「NEOBANKを介して、企業と企業、企業と顧客をつなぐプラットフォーマーとしての役割を担っていきたい」(前田氏)


 急拡大を続けるBaaS市場。住信SBIネット銀行は「BaaSのトップランナーとして、B2Cを広げながらも、次の領域に行きたい」(前田氏)考えだ。同社の動向は、BaaSの未来を占う上でも注目に値しそうだ。


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