美容師の発信、令和でどう変化? SNS活用必須、“個の力”高まり「技術がなくても売れてしまう時代になった」

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2024年06月05日 11:30  ORICON NEWS

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「カミカリスマ」受賞美容師の桑原大貴さん (C)oricon ME inc.
 “カリスマ美容師”が社会現象となった平成(1990年代後半〜2000年代前半)。実力とセンスを兼ね備えた気鋭の美容師が人々を魅了し、メディアで注目を集め、サロン業界を活性化させていった。木村拓哉主演のドラマ『ビューティフルライフ』により、“カリスマ美容師”がエンタメコンテンツとしても注目。様々なトレンドを生み出し「この髪型が流行る」といえば、皆が模倣する時代があった。一方、近年は美容師の人材不足に注目が集まり、海外に比べて施術の金額が安いことから美容業界の構造にも関わる課題も浮き彫りに。SNSで個人として発信することが前提となるいま、美容師像はどう変化しているのか? ミシュランガイド「カミカリスマ」受賞美容師の桑原大貴さん(@taiki0726)に聞いた。

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■“箱推し”は皆無? 美容師も“個”の時代に…SNSの活用や自己プロデュースの重要性

――桑原さんが美容師を志したきっかけについて教えてください。

【桑原大貴】木村拓哉さんの『ビューティフルライフ』が放送された頃、僕はまだ小学生でサッカーばっかりやっているような少年でした。ただ祖父母、また両親ともに美容師で、僕の髪も両親に切ってもらう家庭でしたのでごく自然な形で専門学校へと進学。卒業し、美容師となりました。ちょうどその頃“カリスマ美容師”ブーム真っ只中であり、僕もメディアに多く露出している“カリスマ美容師”がオーナーを務める美容室で働き始めます。それから現在。美容業界のトレンドは大きく変わりました。

――どのように変わったのでしょう?

【桑原大貴】まず大きく変わったのがSNSの発展により、お客様が“有名美容室”という箱から美容師“個人”を選ぶ時代になったことです。僕が入った当時は、“有名美容室”にファンがつき、そこで働くことだけでも人気美容師となれました。ですが今の時代は、SNSなどでの展開の仕方次第で、美容師になって1〜2年で月100万を稼ぐことも可能に。以前は年功序列が強かったので、考えられなかったことです。

――“個”の時代へ、そしてSNSでの発信も必須となった。

【桑原大貴】そうです。ただ逆に30代になっても社会人の初任給ぐらいしか稼げない美容師も大勢います。これは僕がオーナーを務める美容室『C-crew』でもそうなのですが、やはり業界の構造的に美容師は労働時間やその大変さの割に給料が安い。僕自身もこの構造を変えようと少しずつ給料を上げていますが、そこにはやはり限界があり、僕も従業員たちにSNSなどを駆使し、自身の得意分野を押し出すことを推奨しています。また美容自体のトレンドも変化しているので、それに基づいた指導も行います。

――どのように変化したのでしょう。

【桑原大貴】2000年代から2010年代までは、髪型を決める価値基準となっていたのは『ヘアカタログ』でした。“髪型”そのものに注目が集まっていた時代です。あの頃をご存知の方ならわかると思いますが、ヘアカタログは基本、バストショットです。つまり“人気の髪型”があった。ですが現在はその人がどのようなファッションを好むか、どのようなスタイルの人なのか、それらを含め、トータルコーディネートの一部として“髪型”がある時代になりました。

 ですから僕もアシスタントの子たちがウィッグなどを使用して練習する時に「今日はこういうスタイルで」とイメージ写真を持ってきたとしたら、「この写真はジャンルで言ったら何に見える?」と尋ねるところから始まります。クラシックか、エレガントか、モードか、ヒッピーか、グランジか。この巻き方は何年代か、どの時代、ジャンルの雰囲気やどんなファッションで形作られているかというところまでイメージさせるよう伝えます。

■流行りだけに注目すると差別化が困難に…流行は廃れるので失業する恐れも

――お客様の髪型も“個”の時代に入ったのですね。確かに過去には安室奈美恵さんや浜崎あゆみさん、男性でいえば一時期、木村拓哉さん風の髪型の男性が大量にいらっしゃったなど“アイコン”に寄っていたような気がします。

【桑原大貴】その意味でいえば、最近はその“アイコン”がテレビで見る芸能人ではなくなっているかもしれません。今は、YouTuberのようなインフルエンサーさんみたいに…と言われる方が多いですね。あとはK-POPをはじめとした韓国トレンドがきているので韓国風ヘア。これらもトータルコーデでカット・スタイリングしますので、例えばお客様がフリフリのかわいらしい服を着てらっしゃるのにバレイヤージュの髪型をオーダーされた際、言われた通りにカットするのではなく、すり合わせを行います。“髪型”が一番に来るのではなく、あくまで“トータル”で見た場合を強く意識します。

――ブームを生み出すのがテレビだけではなくなった。これはSNSの発展や多様化の歴史、テレビの世帯視聴率の低下及びテレビ業界のコア視聴率重視の流れと共にあるように思えますね。これらの結果、日本では国民全体を巻き込むような大きなブームが起こりづらい時代になったと言われます。美容業界でも大きなブームというのはなくなったのでしょうか。やはり多様化により“個”が重視されているのでしょうか。

【桑原大貴】“個”が重視されているとか多様化というのはそうでしょうが、現在は韓流以外でいえば、2000年代のY2Kファッションが再度、訪れているように思えます。いわゆるギャルファッションですね。がっつりレイヤーを入れたり、ハイトーンにしたり。時代は間違いなく巡っており、そういった上での傾向のようなものは今もあります。ただ別に全員がギャルでもないし、SNSなど皆、見てるものが違いますから、僕自身は流行りに沿ってやっている感はないです。僕自身はどちらかといえば、自分がやりたいスタイルを貫いている。それにフィットするお客様がいらっしゃいます。

――先述されたように桑原さんがSNSで自身のスタイルを発信すると、そのスタイルに共感された方がいらっしゃるわけですね。そういったこともあり、美容師の“個”のセンスが重視され、“アイコン”や“流行り”だけに左右されないことが必要になる。

【桑原大貴】現在は美容室のInstagramなどをフォローするより、美容師のアカウントをフォローする方が実際に多いですからね。また韓国が流行っているからそこに特化するとレッドオーシャンになり、差別化をはかるのは難しくなりますので、逆に僕はそこへ行かないように、自身のスタイルを打ち出しています。色々な戦略がありますが、それはもちろん現在や過去の流行りを勉強した上での話になります。ただ流行りがあるということは、いつか廃れる。流行りに特化して失業しないためにも引き出しを多く持っておくべきだと思います。

■「売れたら勝ち」“個”の人気の弊害…技術がなくても成立してしまっている

――人気の“髪型”よりもトータルでのファッション。有名美容室よりも“個”。また“アイコン”がテレビからSNSへ、という変化が起きていることはわかりました。では現在、美容師業界が抱える課題はありますか?

【桑原大貴】給料や福利厚生などの問題は引き続きあるでしょう。そして何よりも――語弊はあるかもしれませんが――SNSなどでの発信、または“個”の打ち出しに早くから成功した場合、技術がなくても売れてしまう時代になったことでしょうか。技術がないとリピートがなくなるのではないかと思われるでしょうが、それもその通りで、でも売れてしまうと、それでも新規が続々と来る。売上は高いまま。僕も初期からInstagramの発信を続けていて、フォローくださる方も多くいますので、自戒の意味を込めてあえて言いますが、“売れたら勝ち”といった現象も起こるようになりました。技術を高めることがおざなりになっている。でも、SNSでの発信も怠ってはいけない。今の若手の子たちは、たいへんな思いをしていると思いますよ。

――今の時代ならではの教え方もある?

【桑原大貴】もう「技術は俺の背中を見て覚えろ!」という時代でもないので(笑)、アシスタントの子が作りたい世界観は尊重して、どうしたらそこにたどり着けるか導く。徹底的にやり切ったら見えてくる世界があるけど、そこに気づけない子もいます。それがどういうことなのか僕自身が示していくことで、伝えられることがあると思っています。

――桑原さんは外国の方がされているような透明感のあるブリーチスタイルを得意とされています。日本人の髪質はブリーチに向いていない部分もあると思いますが、今はどのように技術が変化していますか?

【桑原大貴】おっしゃる通り、アジア人は基本的に髪の毛のキューティクルの層が薄く、なかでも日本人は髪の毛が弱いと言われています。その結果、例えばうちに髪の毛がボロボロになった状態で「助けて…」といらっしゃるお客様もいます。それをたいてい解決できるほど、薬剤の知識はひとしきり勉強しました。どうすれば傷まないか、配合のパターンも研究し、新たなトレンドとなる技術も取り入れています。たとえば、毛髪化学界の天才化学者エリック・プレスリー氏のボンディング剤、今年日本に初上陸した結合補修トリートメント『epres(R)(エプレ)』など、髪のダメージを気にせずにブリーチできる、美容師の作品性を革命的に広げる技術も進化しているんです。

――いまだにブリーチ=髪が傷むという認識がありました(笑)。

【桑原大貴】ですよね(笑)。その固定概念がなかなか払拭されないですが、知識と技術を伴った美容師のもとで行えば、さらにヘアスタイルの幅は広げられます。お客様も髪の毛が痛むことを懸念せず、ハイトーンであるとか自身の目指すファッション、スタイルに自由気ままに羽ばたいていける。お客様も美容師も、さまざまな髪型に挑戦ができる。そういう時代が来れば良いなと思っています。

――桑原さん自身の美容師としての将来の展望はありますか?

【桑原大貴】僕は40歳になったらハサミを置いて教育者になりたい。そして後進を育てる。ずっと僕たちがいたら下が育ちませんし。現在も、人気と技術が比例しないこともある美容業界の底上げのためにセミナーを開き続けています。個人的な野望を言うと、その前に海外に進出したい夢もあります。アメリカでは日本人の美容師の技術が高く評価され、その分、値段も高く取れるということもある。僕も海外で活躍しつつ、また美容業界の底上げで、多くの美容業界が抱える課題を少しずつ解決できればと思っています。

(取材・文/衣輪晋一 撮影/岡田一也)

PROFILE/桑原大貴
都内2店舗を経て2021年4月にC・crew渋谷に副代表として参入。バレイヤージュなどのブリーチカラーを得意とし、“外国人ヘアのスペシャリスト”として日本人の髪質に合わせたハイトーンカラーをSNSで発信し一躍注目を集める。「KAMI CHARISMA AWARD 2023」1つ星受賞、「KAMI CHARISMA AWARD 2024」1つ色受賞

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