日本代表のミャンマー戦、シリア戦に望む新布陣 鎌田大地をトップ下に置く3−4−3

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2024年06月05日 17:30  webスポルティーバ

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 日本代表のミャンマー戦、シリア戦は文字どおり消化試合だ。何かを試すには絶好の機会である。にもかかわらず森保一監督は、代わり映えのしないメンバーを選んだ。メンバー発表の会見の席上で、傍らに座る山本昌邦ナショナルチームダイレクターは「9月にはアジア最終予選が控えている」と危機感を煽ったが、8.5に広がったアジア枠で日本の落選をイメージすることはできない。実力と枠の関係でいえば、日本は世界で最も恵まれた国と言っても過言ではない。

 本来、泰然自若と構えるべきこの緩い2試合を、どう有効に使うか。筆者が注目したくなるのは布陣だ。新しい布陣をテストするには絶好の機会だと考える。どんな布陣をテストするのか。それは後に触れることにして、メンバー発表の記者会見における森保発言で、最も引っかかりを覚えたのは以下の台詞だった。

 U−23から抜擢された鈴木唯人の起用法について問われると「4−2−3−1ならトップ下、4−1−4−1ならインサイドハーフ、3−4−3ならシャドー」と答えたのだ。「攻撃的なポジションで」と述べた後、使用する布陣を引き合いに出し、具体的に説明したのだが、そのどこに引っかかったのか。

 3つの布陣の表記である。3番目の3−4−3だけが3列表記だ。シャドーというポジション名を具体的に使うならば、3−4−2−1と言ったほうが断然、わかりやすい。

 そもそも4バックのふたつ(4−2−3−1と4−1−4−1)は4列表記なのに、なぜ3バックは3列表記なのか。4−1−4−1は俗に4−3−3と表記される。そこはご丁寧に4分割にしておきながら、3−4−2−1は3−4−3に短縮する。

 3−4−3と3−4−2−1。

 この似て非なる布陣を一緒くたにするべきでないと突っ込みたくなる。そのどちらが攻撃的か。どちらが5バックになりやすい布陣か。答えはハッキリしている。3−4−3のほうが攻撃的で、3−4−2−1のほうが5バックになりやすい。それぞれの概念は180度異なる。このことは森保監督だって十二分にわかっているはず。なぜわざわざ、混乱を誘うような紛らわしい説明をするのか。

【シャドーがウイング化した日本代表】

 3−4−2−1は相手ボールに転じると2シャドーが外に開き、5−4−1の体制を作る。だが、ただちに完成するわけではない。2シャドーの移動距離はけっして短くないので、5−4−1に移行するまで何秒か時間を費やすことになる。対峙する相手のサイドバック(SB)はその間、自由な状態にある。高い位置を取ることが可能になる。

 相手が、サイドに各2枚を擁すオーソドックスな4バック(4−2−3−1、4−3−3、4−4−2)のチームなら、3−4−2−1は瞬間、サイドで後手を踏む。ウイングバック(3−4−2−1の「4」の両側)は、ひたすら後退を余儀なくされる。

 これが3−4−3だと話は変わる。3トップの内訳は両ウイングとセンターフォワードである。相手ボールに転じるや両ウイングは、対峙する両SBに即、プレッシャーをかけることができる。サイドで数的不利に陥らずに済むので、両ウイングバックも最終ラインに取り込まれにくい。簡単に5バックになりにくいのだ。

 森保ジャパンは当初、バリバリの3−4−2−1を採用していた。サンフレッチェ広島時代に採用していたサッカーを、そのまま日本代表に持ち込んだが、最近は少し変化していて、2シャドーが外で構えるようになっている。ウイング化しているのだ。

 たとえば先のアジアカップのバーレーン戦。日本は4−3−3でスタートした布陣を終盤、5バックに変えているが、三笘薫(左)と南野拓実(右)はそのままサイドに張って構えた。

 直近の北朝鮮戦(3月)もそうだった。終盤、5バックに転じたが、前田大然(左)と浅野拓磨(右)は、シャドーというよりウイング的だった。

 相手のSBにプレッシャーをかけやすい体制を取ることができていた。言い方を変えれば、少なくとも前線は3−4−3を維持しやすい状況だったにもかかわらず、自ら引いて5バックにした。

 バーレーン戦の終盤、5バック時にした際に1トップを張ったのは浅野だった。足の速いスピード系の選手。ポストプレーはうまくない。4−2−3−1で、1トップ下にボールを収める能力の高い選手がいれば、浅野は活きる選手かもしれない。しかし、3−4−3あるいは5−4−1、5−2−3は、1トップの近くに選手がいない。

【「3バック=守備的」を覆す布陣】

 前田大然、上田綺世、小川航基でも、3−4−3の1トップを務めるのは難しい。大迫勇也的な選手がいない限り、満足に機能しないことは明らかだ。

 3−4−3はアルベルト・ザッケローニの定番スタイルだった。もちろんイタリア時代の話で、日本代表監督として3−4−3で戦ったことは結局2試合に終わった。布陣の特徴に適した1トップがいなかったからだ。ウディネーゼの監督時代には、オリバー・ビアホフというドイツ代表の大型CFがいた。その3−4−3は彼あってのものだった。

 過去のこうした経緯から、日本人はすでに3−4−3の特徴について学習済みのはずだ。森保監督がザックジャパンのサッカーを教訓にしていないことが手に取るようにわかる。その時、技術委員長を務めた原博実氏はサッカー協会を去っている。情報の共有ができていないのか。

 もっとも、これまで述べてきた3−4−3は中盤フラット型だ。3−4−3にはもうひとつ、中盤ダイヤモンド型もある。アヤックス、オランダ代表、さらにはヨハン・クライフ、ルイス・ファン・ハール、ジョゼップ・グアルディオラなどが監督を務めていた時代のバルセロナでたびたび使われてきた布陣だ。日本ではイビチャ・オシムが代表監督として1試合、行なっている。大木武監督率いるロアッソ熊本もこの布陣が多い。

 最も5バックになりにくい3バック。1トップ下がいる攻撃的サッカーを代表する3バックとして知られる。「3バック=5バック=守備的」という概念を覆す布陣だが、これもまた「3−4−3」なのだ。

 この中盤ダイヤモンド型3−4−3こそが、筆者がミャンマー戦、シリア戦でテストすることを進言したくなる布陣になる。中盤フラット型の3−4−3より日本の実態に適していると思われるからだ。

 ボールを収めることがうまくないスピード系の1トップでも、1トップ下が近くにいるので、孤立しないで済む。ボールを保持する能力の高い鎌田大地あたりがそこに収まれば、3バックでありながら、4−2−3−1以上に攻撃的なスタイルを保つことができる。

 格上相手に守備的な3バックで臨もうとする森保監督だが、今回の相手は格下だ。守備的になる必然性は低い。試すならその反対の性格を持つ3バックが相応しい。「3バック=5バック=守備的サッカー」との認識が、日本には浸透している。3バックの旗振り役を担ってきた森保監督には、3バックの概念を覆す3−4−3を実践してほしいのだ。

 代表監督がそのグレーゾーンを曖昧にするような言い回しを公の場ですれば、戦術や布陣の理解は浸透しない。「攻撃に策がない」と言われる森保ジャパンだが、その理由は、中盤ダイヤモンド型3−4−3的なチャレンジが乏しいことと大きな関係にある。筆者にはそう思えて仕方がない。

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