「台湾の人から見ても、門脇は意外と現地の人に見えるらしいです」『オールド・フォックス 11歳の選択』門脇麦、シャオ・ヤーチュエン監督【インタビュー】

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2024年06月06日 08:10  エンタメOVO

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(左から)シャオ・ヤーチュエン監督、門脇麦 (C)エンタメOVO

 台湾ニューシネマの系譜を継ぐシャオ・ヤーチュエン監督が、1989年のバブル期の台湾を舞台に、正反対な2人の大人の間で揺れ動く少年の成長を描いた『オールド・フォックス 11歳の選択』が、6月14日から全国公開される。ヤーチュエン監督と、少年の父の幼なじみの人妻役で台湾映画に初出演を果たした門脇麦に話を聞いた。




−まず監督に、時代背景を1989年にした理由から伺いたいのですが。パブルの時代を意識したのでしょうか。今回、台湾にも日本のようにバブルの時代があったことを知って驚きました。

 あの時代を選んだのは、あまりにも激しく貧富の差が生まれた時代だからです。88年から89年にかけて、台湾では株価が大きく変動しました。不動産が4倍になったのが印象的でした。だから、最初に子どもの話を撮ろうと思った時に、その子がどういうふうに価値観を得ていったのかを描くには、89年が最適だと思ったんです。

−では、今回門脇さんを起用した理由は?

 直接の動機は、この役に合う人を探していた時に、台湾だけでなくもっと候補者を広げてみようと思ったことです。日本人の起用もありなのではないかという話が出た時には、これは日本人の話ではないので大丈夫かなと思いました。門脇さんのことは、以前から配信ドラマなどで拝見していたので、打診してみようという話になりました。そういう流れでお願いしたら、来てくださったんです。

−門脇さんはオファーがあった時はどんな感じでしたか。

台湾の作品は昔からすごく好きだったので、断る理由はないなと思いました。

−実際に、好きだった台湾の映画に出てみて、どんな印象でしたか。

 1日かけて2シーンくらいをじっくり撮影することもあり、時間にゆとりがありました。日本だと10〜12シーンを撮ったりすることもあるので。台湾の現場でも、もちろん妥協しているところもあるとは思いますけど、いい現場だなと思いました。それが圧倒的に日本と違うところでしたね。あと、何回「謝謝(シエシエ)」と言ったことかと。私がほぼ「シエシエ」しかしゃべれないこともあるんですけど、それぐらい皆さんが本当に親切で、「シエシエばかり言ってすみません」ばかり言っていました。

−監督の演出はいかがでしたか。

 日本だと、段取りをした後にモニターの所へ行かれる監督が多いのですが、ヤーチュエン監督は、基本的にずっと現場にいらっしゃって、特にスタート前に、言葉が通じないということもあるので、「じゃあ行くよ」と言ってから、私たちの目をすごく見てくださって、そこから始めてくださるんです。監督のお人柄もあると思うんですけど、“人と仕事をしている”という実感や温もりがある最高の現場でした。

−監督に伺います。この映画は、対照的な2人の大人がいて、その2人の間で少年が揺れ動く様子が描かれますが、この設定はどんなところから思いついたのでしょうか。

 それは多分、自分が社会を観察する中から出てきた自然な気持ちだったと思います。異なる価値観を持った大人がいる、その中で子どもに映画を見せる時に、社会にはこういう大人もいるし、こういう価値観もあるけれど、それを選択していくのは君なんだよという発想から出たものだと思います。

−子役のバイ・ルンインくんが見事でしたが、実際に演出してみていかがでしたか。

 この作品の中で、彼の功績はすごく大きいです。最初に脚本を書いた時に、一番のプレッシャーだったのは、主役の11歳の男の子が見つかるのかということでした。もし失敗したら、映画が駄目になるということをすごく思いました。結果的には、彼が説得力のある演技をしてくれたので、とても助かりました。

−『1秒先の彼女』(20)にも出ていたお父さん役のリウ・グァンティンさん。彼がいい人過ぎて、「大丈夫なのか」と思うところもありましたが、彼の演技や存在感についてはどう思いましたか。

 今回彼が演じてくれた役柄は、台湾の人々を代表するようなものでした。正直に言うと、僕の母親も、最初に他人のことを考えてから行動するような人だったんです。そんな典型的な役をやってもらいました。後で気付いたのは、こういう話をすると、グァンティンさんも、彼以外の出演者も、音楽担当の人も、女優さんたちも、みんなが「自分のお父さんみたいだ」とか、「僕のお母さんみたいだ」と言うんです。だから、多分台湾には、この役のような人が何万人といるんじゃないかと思いました。グァンティンさんは、役をちゃんと消化できる人です。僕の妻などは「もともとああいう感じの人なのね」と言うから、「違うよ」と。地でやっているように見えるけど、実は演技としてあのように作っているんです。今回ラッキーだったのは、いい出演者たちと巡り会えたことです。これは本当に助かりました。みんなが、地のままではなくちゃんと役として演じてくださったので。

−門脇さんは彼との共演のシーンが多かったですが、実際に共演してみていかがでしたか。

 言葉が通じなくて、オフでの会話が少なかったので、私も映画の役のままの人だと思っていました。ただ、私は彼が怖い役を演じた作品も見ているんですけど、この映画ではいいお父さんにしか見えなかったです。とても優しくて。現場でかっこいいスタッフの人がいるなと思ったら、グァンティンさんでした(笑)。

−門脇さんは中国語のせりふが大変だったと思います。あとはメークにも特徴がありましたね。

 メークにすごく助けられました。メークやファッションには時代性もありますし、日本のともまた違うので、それを身につけることによって、あっという間にその世界に連れて行ってもらえるという感じがしました。中国語に関しては、丸覚えで暗記した状態で現場に行って、監督からも「うまく話そうと思わなくてもいいから」と言われました。特に発音が難しいのですが、そういうことは一度忘れて、とにかく自分の感情からぶれないように集中力を研ぎ澄ませて、言葉はうまくしゃべろうと思わなくてもいいということを頼りに演じました。だから、演技をしている時は「この発音が難しい」とは思っていなくて、もしかしたら間違っていることを言っているかもしれないぐらいの感じでした。意識するとすぐにバレるんです監督に。自分でもすぐ分かりますしね。

−では、完成版を見た印象と日本の観客に向けて一言お願いします。

 今回、撮影で台湾に数日行かせていただいて、こうしてお話をする中で、自分なりに思うのは、台湾ではその時代や土地や、国自体が経験してきたことが、今生きている人たちとも深くつながっている気がするんです。台湾映画を見ていると、物事や人を見るまなざしがとても深くて、寛容で。私が台湾映画を好きな理由はそこだったんだと分かりました。そんな台湾の良さを感じてほしいですね。あとは、「台湾の人から見ても、門脇は意外と現地の人に見えるらしい」と書いておいてください(笑)。監督からも違和感がないというお墨付きを頂きました。

(取材・文・写真/田中雄二)


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