「乗って快適、走って楽しい。こんなセダンはなかなかお目に掛かれない」/ホンダ・アコード試乗

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2024年06月06日 16:00  AUTOSPORT web

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ホンダ・アコード
 モータースポーツや自動車のテクノロジー分野に精通するジャーナリスト、世良耕太が『ホンダ・アコード』に試乗する。1976年に初代が登場してから、グローバルモデルとして成長してきたアコード。2024年3月に発売された11代目はHondaの最新技術を結集させた最上のセダンに仕上がっている。新型アコードの実力を深掘りしていこう。

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 ホンダは2024年5月16日に四輪電動化を中心とした取り組みについてアップデートした内容を発表した。2040年までにグローバルでのEV(電気自動車)/FCEV(燃料電池車)の販売比率を100%とする目標に変わりはなく、そこに至るまでの取り組みや考え方について、三部敏宏社長から具体的な説明があった。

 2040年にICE(エンジン)が完全になくなる戦略について変更はない。そこに向けて、エンジンはフェードアウトしていく。余命が宣告されたようなものだが、あと16年は生き残り、主にHEV(ハイブリッド)用として高効率化を進めていくことになる。

「燃費改善および上質・爽快な走りを両立」するため、2026年にはハイブリッドシステムのe:HEV(イーエイチイーブイ)とプラットフォームを刷新するとの発表もあった。

 2024年3月8日に発売された11代目となる新型アコードには、『スポーツe:HEV』と名づけられた最新のハイブリッドシステムが搭載されている。

 シビックやZR-Vに設定されるe:HEVと基本コンセプトは同じで、エンジンに走行用と発電用のふたつのモーターを組み合わせた2モーター・ハイブリッドシステムである。

 シビック/ZR-Vのスポーツe:HEVとアコードのスポーツe:HEVの相違は、ドライブユニットだ。アコードは従来とは構造が異なる新骨格のドライブユニットを搭載している。

 シビック/ZR-Vは走行用モーターと発電用モーターを同軸に配置しているが、アコードのe:HEVは走行用モーターと発電用モーターを別軸(平行軸)に配置している。

 モーター平行軸配置の新しいドライブユニットを開発したのは、アコードだけでなく、CR-V(e:HEV仕様は国内未導入)を含めて広く商品展開を考えてのことだ。

 CR-Vは、トーイング(牽引)に対応するため大きな駆動力が必要とされる。また、欧州などでは高い車速でクルーズするため国内仕様より高い最高速に対応する必要がある。

 モーター同軸配置のドライブユニットは、エンジンと走行用モーターがひとつのギヤを共用しているため、それぞれにとって最適なギヤ比を設定することができず、間をとったギヤ比に設定するほか選択肢がない。

 例えば、高速走行時のエンジン回転数を低くしたいと思っても、走行用モーター側のギヤ比に不都合が生じるため思い通りにできなかった。

 モーターを平行軸配置にしたのは、エンジンと走行用モーターでそれぞれ最適なギヤ比を設定するためだ。平行軸配置にすると前後方向の寸法制約が厳しくなるため小径とし、軸方向に寸法を稼いで性能を担保している。

 走行用モーターの最高出力は135kW(先代比+14kW)、最大トルクは335Nm(先代比+20Nm)だ。最高速度は180km/hから200km/hに向上している(国内仕様は自主規制で180km/hに設定)。

 2.0リッター直列4気筒自然吸気エンジンは、燃料噴射を先代のポート噴射から直噴に変更したのが大きな違い。幾何学的圧縮比は13.9。アトキンソンサイクル(ミラーサイクル=高膨張比サイクル)の適用などと相まって最大熱効率は41%に達する。

 極めて高効率なエンジンだが、走行中、エンジンの存在を意識することはほとんどない。防音が徹底していることもあり、エンジン音はほとんどのシーンで耳に届かないか、届いてもかすかに聞こえる程度だ。車内の静粛性は極めて高い。

 今回の試乗では後席での移動(市街地および高速道路)も体験したが、後席も静かで快適だし、静かなので前席乗員との会話にストレスを感じない。

 アクセルペダルを強く踏み込む領域では、エンジン回転はステップATのような段を刻みながら上昇していく(このとき、エンジンの力でタイヤを回しているのではなく、発電用モーターを駆動してバッテリーで足りない分の出力をアシストしている)。高揚感を演出するためだ。

 SPORTモードでは、エンジンが発する素の音に、室内のスピーカーを通じて効果音が付加される。VTECの高回転サウンドを研究し、そこから気持ちいいと感じる成分を拾い上げて音づくりをしたそう。気分を盛り立てるサウンドなのは確かだが、あくまで控え目でエンジンは黒子に徹している印象だ。

 スポーツe:HEVはシーンに応じ、走行モードを自動的に切り換える。発進〜低速時はバッテリーで蓄えた電力のみで走行用モーターを駆動するEVモードだ。このシーンだけ切り取ればEVとまったく同じ走りということになる。

 バッテリー残量が底をついたり、ドライバーの加速要求が大きくなったりした状況ではエンジンが始動。発電した電力で走行用モーターを駆動して走る。このシーンだけ切り取ればシリーズハイブリッドだ。エンジンは発電用モーターを回すだけである。

 60km/hあたりから上の車速域で定常走行している状況では、クラッチをつないでエンジン直結モードで走る。そのほうが、シリーズハイブリッドで走るよりも効率が高い(燃費がいい)からだ。

 要するにスポーツe:HEVはEV、シリーズハイブリッド、エンジン直結の3種類の走行モードを状況に応じて切り替えながら走る。

 高応答なモーターで走行するシーンが多いのもあるし、エンジンの存在が希薄なのもあるしで、アコードはただただスムースで気持ちのいいクルマという印象。

 エンジンの始動にともなう音の変化は気分を損なうほどではないし(ほとんど気づかないだろう)、エンジン直結にするとき、解除するときのショックは皆無で、音だけでなく体感上も存在は希薄だ。いい音を聴かせてほしい、強い加速時だけ遠慮がちに響くのみである。

 エンジンの存在感が希薄なのに一向に退屈しないのは、走る・曲がる・止まるのクルマの基本動作の点で、ドライバーの思いどおりにクルマが反応するからだろう。走りの面でストレスを感じることはまずないだろう。欲しいときに、欲しいだけの力がアクセル操作に即応して返ってくる。

 曲がることに関しては、このクルマの得意科目だ。澄まし顔でスイスイ曲がる。ステアリングは感触がユルくて頼りなかったり、回し始めや途中で引っかかりがあったりすることもなく、スムースに、適度な反力をともなって回る。そして、イメージどおりに曲がっていく。

 スイスイ曲がるカラクリのひとつは、新技術のモーションマネジメントシステムにありそうだ。ホンダは従来からアジャイルハンドリングアシストという技術を実用化している。ドライバーの操舵や車速からクルマの動きを予測し、必要に応じて旋回内輪に軽くブレーキをかけるなどしてコーナリングを支援する技術だ。アクティブヨーコントロールの一種である。

 モーションマネジメントシステムはこれに加え、走行用モーターとブレーキを統合制御し、適度に減速させることで前輪にかかる荷重を増大させ、前輪のグリップ力を高めて旋回性能を向上させる。コーナー進入時、ステアリングを切り込むタイミングでアクセルを抜くと前荷重になって前輪に荷重が乗るため、前荷重にしないときよりよく曲がるようになる。

 経験したことある人多数だと思うが、これと同じことをアコードは、各種センサーからの情報から「ドライバーはいま曲がろうとしている」と判断してなってくれるのだ。ブレーキ制御にしても走行用モーター制御にしても、制御の介入を気づかせるような不自然さはない。だから、間違いなく制御に助けられているのだろうけれども、ドライバーはただ単に、気持ち良くスイスイ曲がると感じるのみである。

 このスイスイ曲がる気持ち良さは市街地で道路をトレースするだけでも味わえるが、山あいのワインディングロードでは、より強く味わえる。このとき、減速セレクターの進化によって減速側の車速コントロールの楽しさが加わり、コーナーをクリアしていくのが一層楽しくなる。

 ステアリングホイールの裏にあるパドルを操作することでアクセルオフ時の減速度を選択する減速セレクター(左側がマイナス、右側はプラス)、先代アコードは4段だったが、新型では6段に進化している。段数が増えただけではなく最大減速度も増えており、0.11Gだった最大減速Gは0.2Gになっている。

 便利なのは、NORMALモード時に左側のパドルを一度引くと一気に3段の減速度が発生すること。足りなければ左のパドルを引いて減速度を強くしていけばいい。NORMALモード時はアクセルオンによって選択した減速度はキャンセルされるが、長引きすると減速段が固定される。

 SPORTモード時は自動的に減速段が固定される(アクセルオンで解除されない)。4段より上の段数ではアクセルペダルのオンオフのみで加減速コントロールがよりしやすくなる。使い勝手のいい減速セレクターの効果もあいまって新型アコード、大人しく走るだけでなくスポーティな走りもかなりの得意科目だ。

 姿勢が崩れにくく、疲れにくいシートもいい(後席も含めて)。さらに、減衰力を可変制御するアダプティブ・ダンパー・システムの働きもあって、上質な乗り心地と旋回中の安定した姿勢を両立している。新型アコード、大人しく乗ってもよし、スポーティに走ってもよし。シーンを問わず快適で(後席も)、操って楽しい。こんなクルマ、なかなかお目に掛かれるものではない。

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