『ブルーモーメント』第7話 災害現場に持ち込まれる「個人のセンチメンタリズム」について

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2024年06月06日 19:01  日刊サイゾー

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日刊サイゾー

 主人公の天才気象研究者・ハルカン(山下智久)が、5年前の大洪水で命を落とした婚約者・灯さん(本田翼)の思いを胸に自然災害に立ち向かうドラマ『ブルーモーメント』(フジテレビ系)も第7話。

 今回は、そんな灯さんが亡くなった原因の一部が明らかになりつつ、5年前と同様の降雨災害にハルカン率いる国家プロジェクト「SDM(特別災害対策本部)」が遭遇することになりました。

 振り返りましょう。

■どうしても手に汗握っちゃう

 前回、5年前の灯さんの死について「私が奪った、灯の命を──」などと突然言い出したSDM本部長の上野さん(平岩紙)。その後、場所を移してその経緯を説明しながら「SDMを辞める」などとみんなでセンチメンタルにひたっていたところ、SDMに出動要請が下ります。

 事態としては、海上竜巻が発生して気象庁の気象観測船が沈没の危機にあり、その船を海上保安庁の巡視船まで誘導すること、さらに海上竜巻によって巻き上げられた水蒸気による豪雨が予測されること。これは最近よく耳にする「線状降水帯」を引き起こすとされ、それに伴って大規模な土石流が発生する恐れがあるとのこと。

 5年前に灯さんが亡くなったのと同じような豪雨災害が、ちょうど灯さんの話をしているときに発生するというドラマチックなタイミングで始まった今回の救命スペクタクルだったわけですが、やっぱりどうしても手に汗を握ってしまいますね。シンプルに「がんばれ!」「助かってくれ!」って思っちゃう。

 特に今回は、かつて天才脳外科医だった汐見医師(夏帆)が、悲しい事故で神経をやられて意のままに動かせなくなった右手にメスを握るシーン、倒壊した家屋の中で決死の緊急処置を行うところなんか、実に興奮しました。

 それと、やっぱり橋本じゅんがいいんだよなぁ。今回は初動に同行しなかったSDM警察班の沢渡さんが、人員が足りないところに機動隊を引き連れて現れるあたり、このドラマは橋本じゅんの旨味をよくわかってるよなと思ってニヤニヤしちゃう。

 前回はドローン操作だけで迫力に欠けましたが、やっぱり『ブルーモーメント』の救出シーンは基本的にすごく盛り上がります。お芝居を見る楽しみにあふれている。ハナコ岡部もいいよね。すごくいい。

■感情に流されるなという鉄則

 第1話と第2話で雪崩被害を描いたときに、人命救助の現場では個人の感情に流されるなという話が、すごく説得力を持って語られていたんです。ハルカンを「命を救うことに取りつかれている人」と呼び、その危うさをさんざん説いていた。それは、自らの命を顧みずに現場に突入して二次災害に巻き込まれることを「愚」とする哲学だったんです。

 ところがここにきて、灯さんの死の真相が徐々に明らかになるにつれて、どいつもこいつも現場において個人の感情をむき出しにしてきているんですね。仕事こそちゃんとやるものの、上野さんも運転手兼料理番の丸山さん(仁村紗和)も、「辞める」とか言って微妙な顔をし出している。

 ドラマの冒頭で語られた哲学に対して、縦軸にある「灯さんを失った悲しみ」がノイズになってきているように感じるんです。

 今回のラスト、ハルカンは自らの命を顧みずに土石流の現場に突入し、流れ落ちてくる巨大な岩石に潰されそうになります。そんなハルカンを上野さんが横から突き飛ばし、上野さんはそのまま土石流にのまれてしまう。

 絵に描いたような二次災害ですし、これをやっちゃいけない、こういう事態を引き起こしてしまう個人の感情を克服しようという哲学を謳いあげて始まったドラマなのに、結局そこを乗り越えてなかったということを今さらに描かれてしまう。

 灯さんを死なせてしまった自責の念から、償いとしてハルカンの命を救った上野さんの死は、一般的に見て美談です。でも、災害の現場ではそれを美談として扱ってはいけない、人命を救助する仕事は、絶対に自分が死んではいけないという価値観に、私たちは2カ月前の雪崩災害のエピソードで胸を打たれていますので、なんやねんという気持ちになるわけです。

 東日本大震災のとき、甚大な被害にあった岩手県石巻市で災害医療のリーダーを務めた石井正さんというお医者さんがいました。当時、石井さんは石巻を救ったヒーローとして盛んにマスコミに取り上げられましたが、本人はただ淡々と「たまたまそういう立場にいただけ」「外科医ならみんな同じことをやったはず」と言い続けていたんです。それがすごく印象に残っていて、『ブルーモーメント』が語った哲学ともリンクしていた。

 私個人は『ブルーモーメント』を災害現場におけるスペクタクルを楽しむものとして見ていますし、ハルカンは天才リーダーとされていますので、現場にセンチメンタリズムを持ち込まれると「うるせーな」と思ってしまうんです。悲しいのはわかるけど、よそでやれよと。

 いや、みんな別に仕事はちゃんとしてるんですけどね。ただ仕事してるだけじゃドラマにならないのもわかるし、普段は「ドラマは個人を掘り下げろ」と思ってるんですけど、今作に限ってはどうしてもセンチメンタルが邪魔に感じてしまう。それだけ、救助シーンの緊迫感の演出が優れているということだと思うんですけど。

(文=どらまっ子AKIちゃん)

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