高橋ヨシキが映画『あんのこと』と『HOW TO BLOW UP』をレビュー!

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2024年06月07日 17:10  週プレNEWS

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高橋ヨシキが映画『あんのこと』と『HOW TO BLOW UP』をレビュー!

日本有数の映画ガイド・高橋ヨシキが新作映画をレビューする『高橋ヨシキのニュー・シネマ・インフェルノ』! 貧困のただなかを生きる、ある女性の実話をベースにした物語と若き環境活動家たちの石油工場爆破作戦を描いた問題作!

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【写真】『HOW TO BLOW UP』のレビューにも注目!

『あんのこと』

評点:★3.5点(5点満点)

負のスパイラルは社会の機能不全だ

どうしようもない貧困が生み出す負のスパイラル、その悲惨を前に人の「善意」はいかにも頼りないものに見える。

というのも、その「負のスパイラル」は本質的に社会のシステムが機能不全を起こしていることが理由だからだ。

「総体としての社会」の非情さは個人レベルの「善意」をいとも簡単に押し潰す。

義務教育も受けておらず、暴力と麻薬と売春しか知らずに育った本作の主人公は、周囲のわずかなヘルプによって、生活を立て直して「社会」に居場所を作ろうと懸命に努力する。

だが彼女の立ち位置はいかにも心もとない。大文字の「社会」との繋がりがあまりにも細いからだが、それが他人事に思えないのは、我々の住む「社会」が個人の運命などより「総体としての社会」を取り繕うことばかりに汲々としているからだ。

ところで本作には主人公が覚醒剤を使用する場面があるが、それによってもたらされる効果がまるでアヘンかヘロインによるもののように描かれている(あるいは覚醒剤が切れたことによる離脱症状のようにも見える)のは理解に苦しむ。仮にバッドでダウナーにしかならない「覚醒」剤があったとして、そんなものに「逃避」するのは理屈に合わない。

STORY:21歳の香川杏は、ホステスの母親と足の悪い祖母と3人暮らしをしている。売春と麻薬に溺れた生活を送る杏は、ある出会いをきかっけに更生の道を歩みだす。しかし、コロナ禍をきっかけに孤独と不安に直面する。

監督:入江 悠
出演:河合優実、佐藤二朗、稲垣吾郎、河井青葉ほか
上映時間:113分

全国公開中

『HOW TO BLOW UP』

評点:★3.5点(5点満点)

みずみずしい青春群像ハイスト映画

一種の変形「ハイストもの」映画として、タイトな作りで楽しめる。

「ハイストもの」というのは「犯罪(普通は泥棒)の計画を立て、準備をして決行、その結果どうなるか」を描くジャンルのことだ。本作では8人の若者が石油会社のパイプラインを破壊する「計画を立てて、準備をして決行する」。

彼らにはそれぞれ異なる動機や事情があり、それがフラッシュバックの形で挟み込まれるのだが、そこにも実は叙述のギミックがあって物語は意外な展開を見せる。

パイプラインを破壊するのは環境を破壊し続ける大企業や政府に対するプロテストであり、同時に化石燃料の供給を停滞させるためのサボタージュでもあるわけだが、そのあたりのロジックには実はあまり説得力がない。

FBIは内部文書で本作が「(エコ・)テロリズムを助長する恐れがある」と書いたそうだが、そこに重点を置いた映画ではないので杞憂といっていい。

「ハイストもの」のフォーマットを借りてみずみずしい青春群像劇に仕立て上げたところが本作の魅力であり、若者たち一人ひとりのユニークな魅力がそれを支えている。往年のアングラ・ウェブサイトを模した日本版公式ホームページも気が利いていて面白い。

STORY:若き環境活動家たちが米テキサス州の石油精製工場を爆破する作戦を企てる。その決意は友人や恋人たちを巻き込み予期せぬ混乱を招く。「テロ行為を助長する」とFBIが警告を出すなど、アメリカで賛否両論を巻き起こした問題作。

監督:ダニエル・ゴールドハーバー
出演:アリエラ・ベアラー、サッシャ・レイン、ルーカス・ゲイジほか 
上映時間:104分

6月14日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町ほかにて全国順次公開予定

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