LINE経営巡る日韓のギャップ【平井久志×リアルワールド】

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2024年06月08日 10:40  OVO [オーヴォ]

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 通信アプリ「LINE(ライン)」の経営権を巡り、韓国が熱い。韓国メディアは連日報じているが、この問題では日韓の間に大きなギャップがあるように思える。発端は昨年11月、LINE利用者の年代や性別、LINEスタンプの購入履歴、取引先の従業員名など約52万件の個人情報漏えいが判明したことだった。

 これを受けて、日本の総務省は3月5日にアプリを運営するLINEヤフーに行政指導をした。システムの運用業務を委託している韓国のIT大手、ネイバーが主要株主としてLINEヤフーを支配する資本関係を含め、グループ全体で経営体制を抜本的に見直すよう求めた。総務省は4月16日に再び行政指導をしたが、短期間のうちに2度も行うのは異例だった。その後、ソフトバンクがネイバーからLINEヤフーの中間持ち株会社の株式を買い取る交渉を進めていることが明らかになり、韓国で大きな問題となった。

 ネイバーとソフトバンクは中間持ち株会社に50%ずつ出資しており、ソフトバンクがネイバー保有の株を1株でも買えば、ネイバーは経営権を失う。韓国では「セキュリティー問題」が「ネイバー追い出し」になったと受け止められている。

 韓国では、総務省の「資本関係を含め経営体制を抜本的に見直すように」という行政指導は、ネイバーの中間持ち株会社の株式をヤフー側に渡すよう求めるもので、ネイバーが13年をかけてつくり上げてきたLINEを韓国から奪うものだという反発が生まれたのだ。

 韓国では、ネイバーは国を代表するIT企業だ。面白いことに韓国ではメッセンジャーアプリは「カカオトーク」が圧倒的で、「LINE」は極めて少数派だ。一方、検索サイトは圧倒的に「ネイバー」が優勢だ。米大手「グーグル」が韓国で攻勢をかけたが、「ネイバー」の牙城を崩すことはできなかったほどだ。筆者も韓国に関する検索はネイバーを使っており、検索語をニュースやブログ、動画など各ジャンルごとに分類チェックすることができてとても便利だ。

 日本では約52万件もの個人情報が漏えいしたことに関心が強く、さらに、日本で9600万人もの人が使っているアプリの経営主体や技術が韓国であることに不安や違和感を抱いている人がいるようだ。

 だが、韓国ではLINEはネイバーが長年にわたり日本で努力してつくり上げてきた企業モデルであり、情報漏えいを理由にネイバーを追い出すのは不当だという主張だ。ハンギョレ新聞は「『LINE』をつくったネイバーを追い出す…恩をあだで返す日本」と日本を批判した。米国のIT企業なら、日本政府はこうした対応を取れるのかという反発も出た。

 こうした背景には、日本のデジタル化の遅れがあるという指摘もある。政府や地方自治体が独自のポータルサイトを構築せず、LINEという民間企業のプラットフォームを使っているから、韓国企業であることに不安を抱くというわけだ。

 日本政府は2019年7月に半導体材料の韓国向け輸出を規制したが、これに対し韓国では「ノー・ジャパン」の日本製品不買運動が起きた。過去の歴史問題ではなく、輸出規制が「サムスン電子」をはじめとする半導体製造企業をターゲットにしたものだったからこそ、この不買運動はかなり長期間にわたって続いた。ネイバーが韓国を代表するIT企業なだけに、LINE問題の行方は、改善しつつある日韓関係を再び冷え込ませる可能性がある。

【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No. 23からの転載】








平井久司(ひらい・ひさし)/共同通信客員論説委員。2002年、瀋陽事件報道で新聞協会賞、朝鮮問題報道でボーン・上田賞を受賞。著書に「ソウル打令 反日と嫌韓の谷間で」(徳間文庫)、「北朝鮮の指導体制と後継 金正日から金正恩へ」(岩波現代文庫)など。

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  • 個人情報を抜くためのアプリなら当然制限されてしかるべきだよね?
    • イイネ!8
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