「父を絶対に許さない」 子どもの頃に別れた毒親をSNSで見かけた娘。消えない心の傷の連鎖とは<漫画>

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2024年06月08日 16:00  女子SPA!

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愛し合ったはずの夫婦、愛に包まれて生まれたはずの子供。DVやモラハラで、いつしか家族が壊れていく。『99%離婚 離婚した毒父は変われるか』(KADOKAWA)は、家庭内や職場で繰り広げられるハラスメントを綴った意欲作。

◆自覚のない加害者と追いつめられる被害者

作者の中川瑛さんは、妻との関係の危機からご自身の加害性に気づき、ケアを学び変わったひとりです。現在、モラハラ・DV加害者変容に取り組む当事者団体「ガドハGADHA」の代表をしています。

「加害者は往々にして『毒親』でもあるし、その被害者でもあるのです」と冒頭にあるように、DVやモラハラは連鎖していきます。なぜ、被害者であったはずなのに、一転して加害者になってしまうのでしょうか。

◆いつしか心が奪われていく

DVもモラハラ行為も、本来はあってはならないこと=非日常であるべきです。ですが、その非日常が続けば、いつしかそれが日常になってしまうのではないでしょうか。傷ついた心はやがて麻痺(まひ)しますが、押し込められた感情や傷は、決してなくならないのです。

毒親から離れ、社会人となった子供は、心の傷から逃れようとします。子供の頃から親には頼れず、迷惑をかけられながらひとりで生きてきました。職場でもその癖が抜けずに、懸命に努力します。

実際、本書に登場する毒親の被害者、娘・浅間奈月も責任感が強く真面目な女性です。しかし奈月の努力もむなしく、仕事は空回りしていくばかり。精神的にも追いつめられ、結婚間近の彼に当たり散らしてしまう日々。

そう、毒親に植えつけられた感情や傷が、よりによって彼に向けて爆発するのです。

自分は被害者だと自覚していながら、いつのまにか加害者になりかけている、こんな悲しい連鎖があるでしょうか。

◆許せないなら、許さなくていい

DVやモラハラの被害者にとって我慢ならないのが、加害者が許されてしまうことかもしれません。

加害者であるかつての毒親が変わって良い人になったら、今度は「許さない」思いを抱える被害者が「許さない側が悪者」みたいになってしまうのです。このくだりが実にリアルで、読んでいて胸がひりひりと痛みました。

被害者である子ども達は毒親から受けた傷を一生背負っていくのに、「許しましょう」というのは、本当に理不尽です。

本書に登場する奈月の父親も、「毒親」から「仏の鳥羽」といわれるまでに変貌を遂げました。奈月は、両親が離婚して面会交流があった頃の小学校卒業以来一度たりとも会っていない「どこにでもいる初老の普通のおじいさん」になった元毒親を、SNSで偶然見かけます。

憤怒の表情しか記憶にない毒親の父が、友人知人に囲まれて穏やかに笑っている、その写真を眺めながら、「毒親」が「普通のおじいさん」になるまでの人生を慮(おもんばか)るのです。

それでも、奈月は父を許しません。どこか遠くで、お互い知らない場所で、それぞれが幸せになればいい。痛みは、時間がたてば、もしかしたら少しずつ癒えるでしょう。でも、傷は永遠に消えないのです。

だから、被害者は加害者を、許さなくていい。加害者は被害者に、許してほしいなどと懇願してはいけないのです。その意思がすでに、被害者をコントロールすることなのだから。

◆それでも、ひとりじゃない

本書には加害者と被害者、両方の立場から物語が進んでいきます。親というのは子供にとっては絶対的な存在で、どうしたって子供のほうが弱者です。

子供の頃に受けた傷は、想像を絶するほど大きく、悲しいものです。被害者として、傷を持って生きるのは容易ではない、でも頼るべき人もいて、人は孤独ではない。

加害者にもまた、変われるチャンスがある。

本書にある「救い」は、必ず誰かの励みになるはずです。

<文/森美樹>

【森美樹】
小説家、タロット占い師。第12回「R-18文学賞」読者賞受賞。同作を含む『主婦病』(新潮社)、『私の裸』、『母親病』(新潮社)、『神様たち』(光文社)、『わたしのいけない世界』(祥伝社)を上梓。東京タワーにてタロット占い鑑定を行っている。X:@morimikixxx

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