息子の不登校に苦しむ母親が、支援者から受けた“まさかの仕打ち”…作者を取材<漫画>

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2024年06月09日 09:00  女子SPA!

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 2024年2月29日に出版された著者の最上うみみ(さいじょう・うみみ)さんの新作コミックエッセイ『親子で不登校になりました。』(竹書房)

 本作は、最上さんの息子さんをモデルにした「ねむ君」が小学校3年生で不登校になってからの親子の様子や、最上さん自身がかつて不登校だった経験が、同じ悩みを抱えた人から聞いたエピソードなどを織り交ぜながら描かれています。

 作中では、ねむ君の不登校について相談できる人が見つからず、シングルマザーである母親が段々と疲弊していく様子が描かれます。

 本記事では本作から第3話を紹介。最上さんに、息子さんが登校を再開するまでの経緯や、不登校に悩む親が相談できる人を見つけることの大切さなどについて聞きました。

◆「お母さんが悪い」相談員からの罵倒

――息子さんの不登校について相談できる人や、頼りになる人はいたのでしょうか?

最上:全然いなかったし、当時は家庭の問題について人を頼るという発想がありませんでした。

――不登校になってから、大変だったことはありますか?

最上:私は昼間、職業訓練のため専門学校に通わなければいけなかったので、1人で家に留守番をさせることになってしまいました。

また、子どもに勉強を教えるのが大変でした。先生が今進んでいる授業内容のお知らせとしてプリント類を全部くれていたのですが、習っていない範囲は分からなくなりました。私が教えるしかなかったのですが、教員の資格を持っているわけでもないので、子どもに分かるように伝えるのがいかに難しいか痛感しました。

――頼れる人がいないなかで、母子家庭を対象とした支援施設を訪れたところ、施設の相談員から一方的に叱責されてしまったというエピソードが印象的でした。

最上:相談員の方が、最初は優しい印象で「親子でここに通って、少しずつ気楽になれるといいね」と言ってくれていたのですが、私と2人きりになると態度が豹変したんです。

「お母さんおかしいですよ、職業訓練に通っているなんて子どもがかわいそう」と威圧的に言われてびっくりしました。臨床心理士の資格を持っている人だったのですが、これまでの私たちの事情なども無視して、とにかく「お母さんが悪いわ」と怒鳴られました……。

◆「せめて話を聞いてほしかった」

――支援施設なのに、弱っている人を怒鳴りつけるような相談員がいるというのは驚きです……。

最上:「子どものために何とかしてあげたい」という熱い想いがある人なんだと思います。その想い自体は良いけれど、そのために親を敵視して「あなたが悪い」と責めることで解決しようとしている印象を受けてしまいました。

それでは悩んでいる親子は救われないと思います。私が責められて潰されてしまったら、子どものために何もしてあげられなくなってしまいます。甘やかしてほしいわけではないのですが、せめて私の話を聞いてほしかったと思いました。

――その出来事で最上さんが精神的にさらにつらくなってしまったことで、息子さんの気持ちも不安定になっていったんですね。

最上:一番避けなくてはいけない状態になってしまいました。ちゃんとした資格を持っている人にあそこまで言われるなんて、「私って本当にダメな、やばい女なんだ」と思ってしまったんです。ストレスが溜まっていく一方で、ダメだとわかっているのに子どものイライラに対して言い返してしまったりしてしまっていました。

◆発達検査で分かった、親子の特性

――支援施設で受けた発達検査を受けたところ、息子さんだけではなく最上さん自身も自閉スペクトラム症と診断を受けたそうですが、どのように受け止めましたか?

最上:なるほどな、と思いました。直接怒られていないのに先生を怖がったり、私には「極端だな」と思える部分が、特性からきているんだと納得できました。

自分自身に関しては、昔から人の顔色を伺うのが苦手なところがありました。コミュニケーションが得意ではなく、技術を身につけることでやってきたほうなんです。同じ自閉スペクトラム症でも、私は外交的で、息子は内向的で真逆です。「私ならこうするのに」と思たとしても、息子はそうしたくない。特性の違いがあるんだと思います。

――診断結果を踏まえて、今気をつけていることはありますか?

最上:息子にアドバイスするのをやめました。彼のペースを守って、つまづいたときは選択肢を提示しますけど、本人に選んでもらうようにしています。

息子は私に気を遣うところがあるので、私の意見が影響しやすいんです。そのため、知らない間に彼をコントロールするみたいになってしまい、それが負担になっているのだと気づきました。だから今は絶対にしないようにしています。

◆“身近な人”にまずは頼ることが大切

――最上さんにとって、不登校のことを相談できる相手が見つかったのはどんなタイミングだったのでしょうか。

最上:発達検査の結果を伺ったときのクリニックに勧められて、カウンセリングを受けたんです。カウンセラーさんは、これまでの人と違って私のことを見てくれる感じがしました。「息子さんのことが心配なのはよくわかるけど、まずはお母さん自身が幸せになってほしいな」と言ってくれて、私自身を受け入れてもらえたと思えました。

そのあと、職業訓練を終えて働き始めた職場の同僚が良い人たちで、初めて不登校のことを話せたのも大きかったです。

私は人に頼ることがすごく苦手で、家庭のことは人に相談するべきじゃないと思っていました。今は、それは間違っていたと思うんです。私が相手を信頼する態度を取らなかったから、誰にも助けてもらえなかったのかもしれない。遠くの専門家よりも、身近な人に「実は困っているんだ」と心を開いて、信頼関係を築いて助け合うことが大事なんじゃないかと思うようになりました。

母親からネグレクトされていたという生い立ちのせいでそうなってしまったのですが、それを打ち破るのは自分自身の行動なのかなと思います。

◆気の合う仲間を、諦めないで探してほしい

――息子さんは小学校5年生から「学校に行きたい」と言って登校を再開したそうですが、なぜだったと思いますか?

最上:私自身が安定してきたことで、子どもも「お母さん大丈夫そうだな」と安心できたのかなと思います。不登校の期間を経てお互いに成長した部分があったり、長く学校をお休みして、だいぶ不安が消えてきたのかもしれません。家の中に安心感があるからこそ、「外に出たい」と思えるんだと思います。

大人も同じで、いつでも帰ってこれる場所があると思えるから人生を楽しんだり、失敗してもまた頑張ろうと思える気がします。

――不登校に悩む親御さんに、伝えたいことはありますか?

最上:不登校に罪悪感を持たないでほしいです。不登校の子は多いですし、今は自助グループなどもたくさんあるので、悩んだらまず仲間とつながってほしいと思います。

私の場合はたまたま変な人に当たることが多かったですが、諦めないで探してほしい。絶対に合う人が見つかると思います。家族だけで解決しようとするより、人と悩みを分かち合うことが大事です。お母さんが潰れてしまったら子どもがさらに大変になってしまうので、お母さん自身が自分の気持ちを話せたり、共感できるような仲間を作ってほしいと思います。
<取材・文/都田ミツコ>

【都田ミツコ】
ライター、編集者。1982年生まれ。編集プロダクション勤務を経てフリーランスに。主に子育て、教育、女性のキャリア、などをテーマに企業や専門家、著名人インタビューを行う。「日経xwoman」「女子SPA!」「東洋経済オンライン」などで執筆。

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