あなたの猫チャンが、安全に天国に逝くために…獣医師がまとめた看取りのマニュアル

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2024年06月09日 18:40  まいどなニュース

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カッツはメインクーンミックスで、グレーの長毛猫です。亡くなる21日前…まだまだフサフサモフモフでした

日々の診察で、飼い主さんから猫のお看取りについてのご質問を受けることがあります。いろいろ考えまして、飼い主様向けのターミナルケアのマニュアルを作りました。「あなたの猫チャンが安全に天国に逝く方法」を、獣医師としてのこれまでの経験と論文や教科書(なかなか記載がないのですが)などをもとにまとめました。ここで全文を紹介いたします。

【写真】17歳6カ月で亡くなった愛猫…逝く前の1カ月を追いました

うちで飼っていたメインクーンミックスの雄猫「カッツ」(ドイツ語で猫という意味)は17歳6カ月で天国に逝ったのですが、亡くなる3日前まで普通にごはんを食べて歩き回って過ごし、その後はまるで電池が切れたかのように動かなくなり、3日後に安らかに逝きました。カッツの天国に逝く前の写真もマニュアルの中で紹介しています。

        ◇        ◇

はじめに

猫がもうすぐ天国に逝ってしまう…心配や不安を感じますよね。でも本ニャンは、自分のおかれた運命を呪う事なく淡々と歩んでいきます。そのときのお看取りに正解はありません。

 貴方は飼い主として多くの時間を一緒に過ごしてきたのだから、誰よりもそのニャンのことを知っています。猫チャンを信じて、「その子らしくいられることを尊重」してあげましょう。

 そして、残された時間を一緒に大切に過ごしましょう。食べなくなったら…点滴をしなければ、残された時間は1週間といったところです。点滴をすれば1カ月程度のこともありますが、投与した点滴を自分で処理できなければ胸やお腹に水がたまり、あるいはそれが原因で亡くなることもあります。

これからどうなるの?

・眠っている…というより目を開いていても周囲の物音に反応しない=意識を失っているような時間が多くなってていきます。ただし、最期まで耳は聞こえているといわれていますから、声掛けなど話しかけてください。

・食べたり飲んだりが減る、あるいは全く食べない飲まないこともあります。

・オシッコの色が濃くなる(脱水や黄疸になるため)、肩で息をする、手足先が冷たくなるなどの変化があるかも知れません。

・便秘になる場合、肛門近くまで便が来ているようであれば掻きだしてあげるのもひとつです(かかりつけ獣医師に連絡してください。)

・痩せ細り全身の筋肉が落ち、歩きにくくなります。

*このような変化が無く急に亡くなることもあります。

本ニャンは苦しいの?痛いの?

・飲まず食わずでいると脱水していきますが、脱水している方が痛みや辛さが和らぐといわれています。

・特に腎不全の場合、口の中に何も異常が見当たらなくても口の中を気にする子もいます。

・体内の酸素が不足したり肝臓や腎臓の働きが悪くなると体にとって有毒な物質が排泄されずに蓄積し、それによって粘膜が刺激されたり、いつもと違う行動をしたり痙攣が起きたりすることがありますが、苦しい訳ではありません。

・がんを患う猫の場合、突然強い出血が起こることが有りますが、多くは終末期に突然の出血が起きて間もなく意識を失い、亡くなります。(出血がいつ起こるかを知ることは困難です)

痙攣が起こりました

・体内の酸素が足りなくなったり、肝臓や腎臓の働きが悪くなって体に有毒な物質が排泄されずに蓄積すると、それらが粘膜や皮膚を刺激して痛みや痒み、違和感を引き起こします。また脳神経も刺激され、いつもと違う行動をしたり、痙攣が起きたり筋肉がピクピク動いたりしますが、苦しいわけではありません。

・痙攣が起きたとき、発作でものにぶつかって怪我をしないように、寝ている場所の周りは片づけましょう。

・終末期の痙攣の多くは短時間で治まります。可能であれば抱っこをして治まるまで見守ってあげてください。

お漏らしをしました。もう立てないです

・食欲が落ちてしばらくすると、体重が急に落ちて全身の筋肉が痩せてきます。そうなると、歩きにくくなったり身体を動かしにくくなったりします。顔の筋肉が落ちて目がつり上がってって見えることもあります。

・寝ているままで排泄してしまうこともあります。このとき、オムツをするのであれば、オムツはこまめに替えましょう。昼間に飼い主様がお仕事に行かれる等で、長時間オムツをつけたままにすると、排泄したものが皮膚を刺激して炎症をおこすことがあります。この場合は、サークル内にペットシーツやタオルを敷き詰めてその中に猫チャンを入れておきましょう。

・寝たきりになれば床ずれが出来ないようにエアーマットなどを敷いてあげましょう。

口の中や肉球が真っ白…変なにおいがします

・全身の機能低下で、酸素欠乏や老廃物(体にとって有毒な物)が溜まり、皮膚や粘膜の色が変化することが有ります。また、血の巡りが悪くなる、あるいは低血圧や貧血にもなるために口の中や肉球が白くなります。

・体臭や排泄物の臭いにも変化が有ります。

・これらの血圧や体温の低下、呼吸が不規則になるなどは天国に旅立つための自然な体の反応です。

食べられない、水も飲まないので心配です。

・病気(老衰)が進行してくると、その病気とともに全身の機能が低下するため、食事や水分を摂らなくなります(絶食)。摂っても体内で処理できないからです。

・食べるもの(食べられるもの)を食べやすい大きさにして与えてください。

 例:お刺身、ちりめんじゃこ、焼き海苔、茹でささみ、鯖の水煮缶(人間用)、出汁、子猫用ミルク、アイスクリーム、、、

・食べない場合、無理強いは禁物です。食べ物を喉に詰まらせたり気管に入ってしまったりする危険が有ります。

・脱水や絶食は最期に向かう準備のためです。これらが苦痛の原因になることはほぼありません。むしろ苦痛を和らげると言われています。この時、過量の点滴をすれば、それを処理できずに胸に水が溜まったり、腸閉塞や心不全、あるいは肺の血管が切れ、血の泡を吹きだす可能性もあります。つまり、地上にいながら溺れて苦しんで亡くなるのです。

急に元気になって食べだした!

・長く病気を患いもう3週間ほども食べていなかったのに、あるとき突然と元気食欲が出て、あれこれ食べ始めることがあります。これは人間にもあることです。

・周囲の人はひょっとして快方に向かうのでは…と思うのですが、これは中医学的には「仮神」と呼ばれるご臨終の予兆です。ちょうど線香花火が最後に激しく燃えつきて火の玉が落ちる様子に似ています。

呼吸が苦しそうです

・呼吸が苦しい原因は、酸素が肺から取り込めないほど全身が弱ってきているということです。残念ながら、睡眠薬や鎮痛剤を使っても根本的な酸素不足を解決することはできません。酸素ハウスに入れると楽になることはあります。

・亡くなる直前は、「口を大きく開けて深く呼吸をしてその後は10秒程度呼吸がない」という特徴的な呼吸になる場合があります。これは、苦しさの表れではありません。

してあげられることはありますか?

・寝たきりになれば…床ずれが出来ないようにエアーマットなどを敷いてあげましょう。

・ベッドはリビングなどの家族が集まるところに置くのが良いでしょう。

・手足や肉球を優しくマッサージしてあげましょう・

・身体を拭いたりブラッシングしてあげましょう。

・飼い主様はいつものようにふるまって、その音を聞かせ、 においをかがせてあげてください。

・水やだし汁などで湿らせたガーゼを口に含ませたり、口の中の粘りを綿棒で拭きとってあげましょう。

・本ニャンが好きだったこと、気持ちが良かったことをしてあげましょう。

・お灸で全身を温めてあげるのも良いです。

・これまで一緒に過ごしてきてくれた感謝を伝えたり、笑顔でいろいろなことを話して聞かせましょう。

気づくと動いていないようです

・胸に手か耳を当ててみてください。心臓が規則的に動く(拍動)が触れない、聞き取れない場合、残念ながら亡くなっています。

・これまでの全身状態が悪くなっていた場合、その時人工呼吸や心臓マッサージなどで回復できる見込みはほとんどありません。人工呼吸や心臓マッサージがかえって苦痛となることもあります。静かに見守ってあげるのが良いでしょう。

最後に

ヒトや動物は生きるために、食べて飲んではあたりまえです。でも終末期になると、その必要が無くなります。ですから本能的に身体が要求しなくなるのです。

 食べなければ、聞こえは悪いですが「餓死」ということになります。ですが、これは天国へ軟着陸するために身体から余計な荷物を降ろしている行為なのです。そのために食べない・飲まないにもかかわらず、尿はどんどん出てゆき脱水が進み、まるで干物や落ち葉のように身軽になっていきます。そして、全身の臓器の機能が落ちていくので、食べない飲まない以外に呼吸もしにくい、動けない、排泄しにくいといった状態になり、脱水と酸欠も進行していきます。

 飢餓や酸欠になると、動物の脳内ではモルヒネのような物質が分泌され、心地よくなると言われています。また、脱水になると意識レベルが低下してボンヤリ・ウトウトうします。呼吸がしにくいと体内の二酸化炭素が増えますが、この二酸化炭素には麻酔作用があります。ですから死ぬということは、ぼんやりしたまどろみの中で、この世から天国に移動することであり、辛くはありません。

 食べれば元気になると思っておられる方もおられますが、魂の灯が消えようとしているときは、いくら食べても元気になりません。

ところが、この上手に枯れていく終末期に過量な点滴をすると、点滴を処理できずに水分過剰となり溺死状態となってしまう可能性があります。こうなればつらく苦しい状況です。点滴を処理するのは本ニャンです。弱った身体に鞭を打つようなものでしかありません。

ヒトも動物も100%亡くなります。大切なのは、その日をどうやって迎えるのか、その日までどうやって生きるのか、その日までどれだけの人間や動物を愛し愛されてきたのかだと思います。逝き方は生き方です。

        ◇        ◇

今回のマニュアルは初版的な位置づけで、今後皆様からのご質問を受けてどんどん改定していく予定です。

マニュアルは当院(キャットクリニック〜犬も診ます〜)のホームページにも掲載しています。必要な時にダウンロードなさってくださいませ。

◆小宮 みぎわ 獣医師/滋賀県近江八幡市「キャットクリニック 〜犬も診ます〜」代表。2003年より動物病院勤務。治療が困難な病気、慢性の病気などに対して、漢方治療や分子栄養学を取り入れた治療が有効な症例を経験し、これらの治療を積極的に行うため2019年4月に開院。慢性病のひとつである循環器病に関して、学会認定医を取得。

(獣医師・小宮 みぎわ)

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