人気ラーメン店に「毎日5秒だけ営業電話」。ラーメン通販サイトが新規開拓で味わった“苦労と執念”

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2024年06月10日 09:01  日刊SPA!

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宅麺.comで取り扱う「無鉄砲 とんこつラーメン」
日本全国に数多く点在するラーメン店。有名店や人気店となれば、行列が絶えない。最近では、インバウンド客も増えており、より一層ラーメン人気に拍車がかかっている状況と言えるだろう。
だが、コロナ禍で多くのラーメン店が苦戦を強いられてきたのは周知のとおり。そんななか、大きく売り上げを伸ばした国内最大級のラーメン通販サイトが「宅麺.com」だ。店に足を運ばなくても、実際に店舗で出されているラーメンの味を自宅で堪能できることから、ラーメンフリークを中心に支持されている。宅麺.comはコロナ禍をきっかけに会員数が3倍に増えるなど、着実にラーメン通販の市場を切り拓いてきた。

グルメエックス株式会社 共同創業者の野間口兼一さんに、宅麺.comが全国の人気ラーメン店から信頼され、競合サービスが撤退するなかでも生き残ってこられた理由について話を聞いた。

◆有名ラーメン店で売られていた「お土産ラーメン」が原体験に

2010年にサービスを開始した「宅麺.com」だが、その頃は今のようなフードデリバリーが主流ではなかった。

並んでまで食べたい“旨いラーメン”にありつくためには、店舗まで足を運ぶのが一般的だったわけだ。

このような状況下で、なぜラーメン通販ビジネスを始めたのか。野間口さんは「中高の同級生で共同創業者の井上 琢磨の原体験が由来になっている」と話す。

「その当時、有名なラーメンの行列店では『お土産ラーメン』という商品が販売されていました。それを井上が買って帰り、家族に食べさせたところ、妻や母がものすごく喜んでくれたみたいで。

それが、『メディアで取り上げられる人気店のラーメンを食べたいけど、食べれない人たちがいる』ことに気づくきっかけになりました。そうした方たちに向けて、美味しいラーメンを自宅でも食べられるようにしたいという思いから、サービスを立ち上げることになったんです」(野間口さん、以下同)

野間口さん自身も、カフェやそば屋、町中華といった飲食店を3店舗経営していた経験があり、事業の拡大を考える上では「ネットと掛け合わせたサービスを何かできないか」と模索していたという。

このような背景からお互いが意気投合し、「宅麺.com」を共同創業する流れにつながったのである。

◆塩をまかれ、怒鳴られながらも営業活動を続けた

しかし、立ち上げ当初はサービスサイトもなければ、ラーメン店とのコネもない状態だったため、“どぶ板営業”して一から開拓していく必要があった。

その時代は、ラーメンを凍らせること自体がタブー視されており、営業先の店主に「ラーメンを凍らせて販売させてください」と伝えても、ほとんどが門前払いされるという辛い状況だったそうだ。

「最初は塩をまかれたり怒鳴られたりと、まともに向き合ってもらえませんでした。それでも諦めずにコツコツと営業をしていくうちに僕たちの熱意が伝わってきて、宅麺.comに参画してくれるラーメン店が少しずつ増えていきました」

一番最初にOKが出たラーメン店は武蔵境に店舗を構える「麺や純氣」(現在は契約終了)。

スープや麺、具材を冷凍させる方法は何も確立されていなかった状況でも、最適な冷凍の仕方を試行錯誤していきながら、店主とともに仕様を決めていったという。

そして転換点になったのは、新宿のつけ麺で有名な「風雲児」やとんこつラーメンの「一風堂」が宅麺.comで商品を販売し始めたタイミングだった。

「一風堂が宅麺.comで買えるようになったことが、ラーメン業界で結構話題になり、『一風堂がやるくらいなら安心できる』と、他のラーメン店も後追いするように宅麺.comのパートナー店舗に加盟するようになりました」

◆送料を適正価格に見直したことで収益性が改善

その一方、先を見据えて人材の採用を強化していたが、サービスの成長に追いつかなくなってしまい、人員縮小を余儀なくされた時期も経験したという。

「このままやっていても儲からない」

事業のコスト構造自体を抜本的に変えないと、いつまで経っても黒字化は見えてこないことに気づいたのだ。

そこで「冷凍倉庫の内製化」と「従量制送料への切り替え」を行い、収益性の改善に取り組んだ。

「最初は冷凍倉庫を借りてきて、スキーウェアを着用しながらピッキング作業を行い、発送作業までを全て自分たちでまかなっていました。マイナス20℃という極寒の中での肉体労働は相当キツかったですね。

倉庫内ではラーメンの商品ごとに番号を振って管理しているんですが、『どこに何がある』というのを記憶しなくてはいけなかったのも大変でした。ただ、この経験があったからこそ、委託倉庫のパートナーと組んで物流を仕組み化する際はスムーズに行うことができました」

また、一定の金額以上の購入からは送料無料にするのではなく、商品を買えば買うほど送料が高くなる従量課金へ変更した理由については、次のように説明する。

「その当時はおそらく、宅麺.com以外に従量制送料を取り入れるECサイトはほとんどありませんでした。ですが、冷凍品の配送コストは高く、既存のままでは収益性が見込めないので、思い切って従量制にしたところ、少しずつ収益性が改善され、毎年15%ずつほど売り上げが伸長するようになりました」

また、野間口さんは「販売数を増やそうと安売りせずに、『行列店のラーメンを自宅で調理して食べられる』という価値に見合った適正価格の設定にこだわった」と語る。

時代とともに販売価格を見直し、段階的に値上げを実施したことで、クレーマーが減った代わりに客質が高まったそうだ。

こうした企業努力が功を奏し、立ち上げから5年で黒字化に成功した。

◆コロナ禍は“ジェットコースター”のような怒涛の日々だった

コロナ禍に入ってからは、巣篭もり消費の増加によって、宅麺.comのニーズも急激に高まった。

コロナ禍以降、会員数は3倍に増え、急成長を遂げたわけだが、「正直何が起きているかわからないような混沌とした状態が続いていた」と野間口さんは振り返る。

「2020年に起きたコロナウイルスによる巣篭もり消費の爆発的な需要は、あまり具体的には想像できませんでした。本当にいつの間にか1日の売り上げが一気に伸びていって。緊急事態宣言下では、飲食店が営業できなかったこともあり、ラーメンを食べたいお客様や宅麺.comで商品を販売したいラーメン店が殺到する状況でした。

さらに、テレビやメディアへの露出もかなり増えたことで認知度も上がるなど、1万食の在庫を入れても1時間も経たずに完売するくらいの勢いがずっと続きましたね」

野間口さんは「毎日、朝から晩までジェットコースターに乗っているような感覚だった」と表現する。

まさに巣篭もり消費のビッグウェーブがどれだけすごかったのかを物語っていると言えるのではないだろうか。

◆足掛け10年以上かけて口説くことも。営業の“執念”は今でも変わらない

現在、宅麺.comは全国に300店舗以上の有名ラーメン店がパートナー店舗として加盟しており、今でも新規開拓を継続しているそうだ。

首都圏を中心に、美味しいラーメンがあると知れば、地方でも駆けつける。このスタイルは15年間変わっていない。

野間口さんも大のラーメン好きで、毎日ラーメンを食べているとか。

「営業のために、目星をつけたラーメン店に足を運び、食べた後に名刺を渡すこともありますし、既存のパートナー店舗の店主と関係性をキープするためにお店へ顔を出す場合もあります。知名度や話題性のあるラーメン店はひと通り行くように心がけていますね」

1回で商談が決まることは稀で、基本的には何度も通って信頼関係を構築していく長期戦が主となっている。

「大阪の豚骨ラーメンで有名な『無鉄砲』というお店に営業した際、『忙しいから5秒だけ話を聞く』と言われたので、毎日5秒だけ電話して自己紹介や用件などを伝えることを繰り返し、最終的には3分間話せるようになったんです。その行動を店主が面白がってくれて、無事に契約となったのは今でもエピソードになっていますね」

また、「ここは絶対に宅麺.comで扱いたい」というお店の場合は、10年スパンで口説いていくこともあるそう。

「北海道の某ラーメン店は、最初に営業をかけてから13年間通い続けて、契約に結びついたこともあります。最後は断る理由が1つもなくなって、承諾いただけたのですが、やはり諦めないことが大事だと感じています。

ラーメン店としては世界で初めてミシュラン一つ星を獲得した代々木上原の『蔦(つた)』は、それこそ10年越しで販売までこぎつけました。『自分の技術がやっと野間口さんの熱意に追いついた』という言い方を店主がしてくれたのは、とても感慨深かったなと思っています」

今後は個人店を中心としたラーメン店とのネットワーク拡大に加えて、大手企業と提携することでさらなる販路拡大を目指していくという。

「宅麺を文化にする」ことを掲げ、ラーメン業界を盛り上げていく。宅麺.comの飛躍に期待したい。

<取材・文・撮影/古田島大介>

【古田島大介】
1986年生まれ。立教大卒。ビジネス、旅行、イベント、カルチャーなど興味関心の湧く分野を中心に執筆活動を行う。社会のA面B面、メジャーからアンダーまで足を運び、現場で知ることを大切にしている

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  • 【最初は塩をまかれたり怒鳴られたり】が事実なら、よほど失礼な申し入れの仕方をしていたのでは?自覚があるか不明ですが、相手を悪くする物言いが不快です。
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