22年間、2200匹の「路上ネコ」を追い続けた写真家、集大成で500万カットから厳選「心を打つ哀愁」「たくましさ」

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2024年06月10日 12:20  まいどなニュース

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屋外でたくましく生きる「路上ネコ」たち

野良猫、地域猫など、屋外でたくましく生きる「路上ネコ」たち222匹が登場する写真集『路上ネコ、22の居場所で222匹』(幻冬舎)が発売され、話題となっています。

上梓したのは大阪の堺市に住む写真家の佐々木まことさん(56)。

佐々木まこと(以下、佐々木)「猫の鳴き声『ニャン』に引っ掛け、2(ニャン)にこだわって分類しました。振り返れば路上ネコの写真を撮りはじめてから22年と2か月。この写真集の校了日が奇しくも2月22日だったんです。偶然ではない気がしますし、ニャンコを撮り続けた自分の集大成になったかと思います」

「週に5日は路上ネコを撮影している」といい、1年のほとんどを屋外で過ごす佐々木さん。これまで撮ったカット数は驚異のおよそ500万枚! 1カ月でおよそ8万カット! 屋外での撮影でカメラを酷使するため、買い換えたカメラのボディは現在18台目。画像を保存しているハードディスクドライブも16テラバイト3台が「ほぼ路上ネコで満タン」だというから驚きです。

佐々木「2001年からデジタルカメラの練習のために路上ネコを撮りはじめました。それまで特に猫が好きだったわけではありません。ただ、人の家の庭で勝手にくつろいだり、車の上をベッドにしたり、屋根の上で昼寝をしたり、公園のベンチを我が物顔で占拠したり、縄張り争いのケンカをしたり、繁殖活動をしたり、魚を盗んだり……。そんな自由奔放に生きる路上ネコたち見ていると、なんだか『自分に似ているなあ』と思えてきましてね。現在も飽きることなく撮影を続けております」

「好きな時間に眠り、好きなようにだらける」。そんな路上ネコたちの暮らしぶりにシンパシーを抱いた佐々木さんは日々彼らの居場所へ通い、年間およそ100匹の動向を追います。「22年間ですから、2,200匹ですかね」。Googleストリートビューに写りこんだ路上ネコを見ただけで「あいつだ」とわかるというから、愛猫家を越えてもはや尾行する探偵、あるいは『週刊ニャン春』のスクープ記者です。

佐々木「何度も通っている場所だと、『こいつとこの子は親子』『あいつとそいつは親戚』『このオスは母親の兄弟』など関係性がわかってきます。叔父猫がちび猫と遊んであげたり、いとこ猫どうしでじゃれあったり。そういう光景をよく見ますよ。観察をするうちに、だんだん頭の中に路上ネコの家系図や相関図ができあがってくるんです」

エリア内の敵対関係も把握し、ときには亡きボス猫の跡継ぎを狙う者どうしの激闘にも出くわすという佐々木さん。これほど膨大な数の路上ネコを撮っているにもかかわらず、意外にも猫専門カメラマンになろうとはせず、自分から進んで作品を販売することもしないのです。

佐々木「たとえ路上ネコの写真で1円の収入すら得ることができなかったとしても、どこにも発表する場所がなかったとしても、今後もきっと撮り続けているでしょうね。よく仲間のカメラマンたちから、『ホームページを作って写真を販売したらどうか』とアドバイスをいただきます。でも、そんな時間があるくらいなら少しでも現場へ行きたいんです。この写真集のお話を電話でいただいたときも、漁港で路上ネコの撮影をしている最中だったんですよ」

「かわいい猫を撮ろうという意識はまったくない」

佐々木さんが撮る路上ネコの写真には大きな特徴があります。それは、いわゆる一般的な「かわいい」猫ではないところ。どの猫も不愛想で、ニヒルでハードボイルドなムードがあり、哀愁が漂うのです。

佐々木「路上ネコをかわいく撮ろうという意識がまったくないんです。それよりも人々のリアルな姿を撮影したストリートスナップに近い。それの猫版というか」

「ストリートスナップの猫版」。確かに佐々木さんが撮る路上ネコたちには、ストリートファッション誌や実話系雑誌に登場するワイルドな人々の表情に通ずるコワモテな雰囲気があります。そして、それは路上ネコたちの暮らしの厳しさを反映したものでもありました。

佐々木「過酷な場面に遭遇する場合もあります。カラスが2羽でペアを組み、1羽が親のしっぽにかじりつくなどちょっかいを出して注意力を奪っている間に、もう1羽が子猫をくわえてさらっていく。一瞬の出来事なので追い払うこともできないんです」

他の動物からの攻撃や自動車による事故など、屋外は危険に満ち溢れています。

佐々木「とはいえ、路上ネコはかわいそうなだけの存在ではないと思うんです。たとえば猫は夜行性でしてね。夜の公園へ行くと、追いかけっこをしたり木に登ったり、もう大運動会です。『お前も一緒に遊べ』とばかりにすり寄ってきます。そんな時間は、彼らなりに楽しいんだろうなと感じるんですよ」

夜になると路上ネコたちの動きが激しくなるため撮影は困難。佐々木さんはシャッターを切ることをあきらめ、公園で彼らとともに過ごすのだそうです。

漁港は路上ネコの楽天地

佐々木さんの新刊『路上ネコ、22の居場所で222匹』は、構成もとても斬新です。「飲み屋街・風俗街」「工事現場・工場」「温泉街」「バイク・自転車」など、猫の「居場所」を22か所に分類し、それゆえ彼らの「縄張り」が可視化できる仕組みになっています。特に巻頭に設けられた「漁港・漁船」の章は、映画『ゴッドファーザー』のようなファミリーの絆を感じるのです。

佐々木「漁港は物置や倉庫が多いため、路上ネコが一族で棲みやすいんですよ。そして漁港の敵は網を喰いちぎってしまうネズミ。そのためネズミを退治してくれる路上ネコと漁師さんは共存関係にあるケースが多いんです。キャットフードをあげて港全体で育てている場所もあります。ただ、エサを与えられているにもかかわらず、魚を盗んで食べちゃう。舌が肥えていて、『あいつら、高級魚しか食いやがらない』という声も聴きました」

陽が昇ると岸壁や物揚場(ものあげば)へやってきて、餌をもらったり、釣り人からおこぼれをもらったり(ときに奪ったり)、日向ぼっこをして過ごす漁港の路上ネコたち。そして眠くなるとかわいがってくれる漁師の船へと移動し、昼寝をする。食住にこと欠かず、誰にも追い払われない漁港は路上ネコたちの楽天地。そして佐々木さんにとっても大切な居場所であり、居住している堺市、大阪南部をはじめ、一年をかけて北海道や九州まで漁港の撮影に出向きます。

佐々木「漁師さんたちから顔を憶えられていて、よく缶コーヒーなどをごちそうになります」

漁師さんにとって佐々木さんもまた路上ネコ一族の一員だと認識されているのかもしれません。

実は「猫にナメられている」

それにしても、なぜ路上ネコたちの自然な表情を撮影できるのでしょう。近寄るだけでも難しいのですが。

佐々木「そういう質問を受けるたびに、『まずは望遠レンズで撮って、何日か同じ場所へ通いながら、少しずつ距離を縮めている』と答えています。しかし、誰でもそうやると撮れるわけではないのです。僕はどうも路上ネコたちから下に見られてというか、『うっとうしいけれど害がないヤツ』と思われているようで、そのおかげで彼らのコミュニティに顔パスで入れるんですよ」

路上ネコから下に見られている?

佐々木「はい。だから僕は“猫が寄ってきすぎて撮れない”場合の方が多いんです。勝手に背中に乗っかってきたり、レンズに頭突きをしてきたり、スニーカーやカメラバッグで爪とぎされたり。完全にナメられていますね(苦笑)。でも、寒い季節はひざ掛けがわりになってくれるので助かりますね」

「こんな猫が路上で生きていたんだ」と知ってほしい

22年にわたり、路上ネコたちのストリートスナップを撮り続けてきた佐々木さん。この新刊には、ある想いが込められているそうです。

佐々木「路上ネコは年々、数が減っています。地域猫の多くは去勢手術されており、これからさらに少なくなってゆくでしょう。そのため『自分は今、時代の過渡期を画像で残しているんだな』と考えることもあるんです。猫の寿命は長くて18年。この本に掲載された路上ネコの多くは、もうこの世にはいないでしょう。猫を捨てるのは論外ですし、路上ネコの存在には賛否があるでしょうが、『かつてこんな猫が路上で生きていたんだ』と知ってもらえたら嬉しいです」

佐々木まことさんの写真集『路上ネコ、22の居場所で222匹』は、ふてぶてしい表情をしながら街の片隅で生き抜き、小さな肉球でアスファルトを踏みしめた路上ネコたちの足跡が刻まれています。

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▽『路上ネコ、22の居場所で222匹』(幻冬舎)

写真・文/佐々木まこと 企画・プロデュース・編集/石黒謙吾

路上をさすらい撮り続けた22年! 500万カットの集大成です。カワイイだけの猫写真集とは一線を画す、にじみ出るおかしさ、ぐっとくる哀愁。膨大な記録から厳選したバラエティ豊かな路上ネコの数々をご覧ください。定価1,760円(本体1,600円)。

(まいどなニュース特約・吉村 智樹)

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