令和の今、「根性論」を再定義する 営業パーソンに求められる“バランス感覚”とは?

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2024年06月11日 12:51  ITmedia ビジネスオンライン

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根性論は今の時代でも有効か

 「現代営業は賢く・スマートに」――どこかのキャッチコピーにも出てきそうな言葉です。


【令和の今、「根性論」を再定義してみた】


 勘や精神論、根性論、はたまたオレ流の営業は、多くのメディアで旧来型と揶揄(やゆ)され、否定されています。


 根性論といえば仕事はもちろんですが、私は学生時代の部活でよく使われてきた言葉として連想することが多いです。「水を飲むな!」「うさぎ跳びでグラウンド10周!」など、まさに「根性」から連想することは、現代では非効率的で無意味なこととされています。


 では、今の時代に根性論は不要なのでしょうか? 「一昔前の根性論から何も享受してこなかったのか」といわれると完全に否定はできず、得てきたものもあるのではないでしょうか。


 今回の記事では、根性論から無駄で無意味な部分を排除し、より大きな成果につなげる要素として有効に活用できないかを考えてみましょう。令和における「根性論」を再考し、アップデートを提起したいと思います。


●今もなお重要視される「根性論」 欧米でも注目


 われわれは根性論的な思想・行動から、どのようなことを学んできたのでしょうか。今回の記事では、「うさぎ跳びでグラウンド10周走ることに意味はあったのか?」という観点で考えてみました(うさぎ跳びを肯定するわけでも、否定するわけでもありません)。


 まず無駄な要素として、個人のスキルアップ自体はほとんど見込めません。体力をつけたいなら、通常のランニングの方が体への負担は少なくケガのリスクも低いです。筋力をつけたいなら、必要な箇所を適度にマシンで鍛える方がよほど効率は良いでしょう。


 では全て無駄なのかというと、そうでもない気がします。隣に仲間がいることを想像しましょう。個人的なスキルアップとしては非有効的でしたが、高校3年の最後の大会、試合で勝つか負けるかギリギリの局面、「あの時一緒にうさぎ跳びでグラウンド10周を乗り越えた仲間」という記憶が連帯感を生み、その試合の結末を左右する力に代わる可能性もあるのではないでしょうか。


 ビジネスにおいてはどうでしょう。「しんどくて無駄なこと」があったとして、顧客とともにそれを乗り越えたならば、通常ではなかなか育めない屈強な信頼関係につながるかもしれません。


 根性論は古い考え方とされる一方で、上記のような効果もあることから今なお多くのビジネスリーダーや成功した営業担当者から重要視されています。欧米でも以下の略語として「GRIT(グリット)」という言葉で注目されています。


Guts(度胸)    :困難なことに立ち向かう


Resilience(復元力):失敗しても諦めずに続ける


Initiative(自発性):自分で目標を見据える


Tenacity(執念)  :最後までやり遂げる


 根性論が重要である理由は、単に粘り強さを示すこと以上に、目標達成のための不屈の努力、挫折に立ち向かう意志、そして逆境を乗り越える力を育むからです。それは個人ではなく組織の方がより享受できるものが多いかもしれません。


●根性論が有効な3つの理由


 筆者が根性論が有効だと考える背景には、3つの理由があります。


(1)顧客との強い信頼関係を築くきっかけに


 機械的な対応ではなく、人間らしさを感じられる営業スタイルは、顧客との長期的な信頼関係の構築につながります。顧客は、自分に熱意をもって真剣に向き合ってくれる営業パーソンに心を開きやすい傾向があります。営業パーソンの熱心さが、問題解決への本気度が顧客の心を動かし、強い絆を生むのです。


 例えば、ある営業パーソンは、顧客の抱える課題に真剣に耳を傾け、解決策を提案し続けました。SFAやCRMなどのツールを活用し、継続的に、かつストーリー性をもって提案。すぐには成果が出なかったものの、諦めずに顧客と向き合い続けた結果、強い信頼関係を築くことができました。


 多くの営業パーソンはなかなかこれが出来ません。すぐに結果のみを求めるからです。この継続性とストーリー性のある提案こそが、現代における根性論の発揮だといえるでしょう。


(2)逆境を乗り越える原動力になる


 営業の世界では、必ず壁にぶつかる時が来ます。厳しい交渉、ライバル企業との競争、目標未達というプレッシャー……。そんな逆境の中で、営業パーソンを支えるのが根性です。「顧客のために、仲間のために」という強い思いが、困難を乗り越える力を与えてくれます。顧客や仲間の役に立ちたい、助けになりたいという一心が、営業パーソンをさらに高みへと押し上げるのです。


 実際、私自身も営業の苦しい局面で、根性に助けられたことがあります。ある大口顧客との交渉が難航し、心が折れそうになったとき、「この顧客の役に立ちたい」「仲間の努力に報いたい」という一心で頑張り続けることができました。この時、下手に出て顧客の言いなりとなり、引き下がることもできましたが、顧客のことを思いあえて厳しい指摘もしていました。根性が原動力となり、最後には顧客の信頼を勝ち取り、大型の取引契約につなげることができたのです。


(3)自己成長の源泉となる


 根性を持って営業に取り組むことは、営業パーソンの成長にもつながります。常に高いモチベーションを保ち、 失敗を恐れずチャレンジする姿勢は、自己の可能性を押し広げてくれるでしょう。営業パーソン自身の成長なくして、顧客の期待に応えることはできません。顧客のためにと、自らの限界に挑み続ける。そうした根性が、営業パーソンを確実に成長させているのです。


 営業における根性とは、自己成長の種をまく行為なのです。昔と違い、営業支援ツールは世にあふれており、SNSもあります。これらを適切に学び、活用することで顧客のためになる行動や提案はいくらでもできます。そして、そのような努力を重ねれば重ねるほど、営業パーソンとして大きく成長できるチャンスに恵まれ、ひいては自分のための行動となるのです。


●根性論を再定義 令和に求められるアップデートは?


 とはいえ、旧来の根性論をそのまま適用するのは時代に合いません。ハラスメントなどのモラル面や、well-beingの観点で長続きしないなど、多くの問題が発生するリスクがあります。


 現代の営業シーンでは、効率化や有効性との両立が求められます。限られたリソースを最大限に活用し、無駄を排除することが重要ということです。


 根性論を現代のビジネス環境に合わせて再定義することは、テクノロジーと人間の能力の間のシナジーを最大化するために不可欠です。現代の営業担当者は、CRMシステム、データ分析ツール、自動化プラットフォームなど、さまざまなテクノロジーを駆使しています。


 具体的には、以下のような取り組みが考えられます。


・SFAやCRMなどのツールを活用し、顧客情報を適切に管理する


・AIを用いて顧客データを分析し、最適なアプローチ方法を導き出す


・web会議システムを利用し、移動時間を削減する


・SNSを活用し、顧客とのコミュニケーションを円滑化する


 根性は、これらのテクノロジカルなツールを活用する際にも極めて重要です。例えば、データから洞察を引き出し、それをもとに戦略を練るプロセスは、根気が要求される作業です。また、失敗から学び、持続的に改善を続けることも根性なくしては不可能です。


 このように、根性論は現代の営業活動においてもテクノロジーと並行して、またそれを補完する形でその価値を発揮します。顧客のために、仲間のために、そして自分のためにテクノロジーをうまく取り入れながら、顧客一人一人と真摯(しんし)に向き合う。そこに営業パーソンの根性が光るのです。


 つまり、現代の根性論とは、テクノロジーと人間性の融合といえるでしょう。効率化と人間性のバランスを取りながら、顧客のために尽力する姿勢を指すのです。


●営業パーソンに求められる“バランス感覚”


 一方で根性を発揮しすぎるとワークライフバランスが崩れる危険性があります。


 プライベートを犠牲にしてまで働くことは、長期的に見れば逆効果です。大切なのは、オンとオフのメリハリをつけることです。顧客のために全力を尽くす時間と、自分のために使う時間をきちんと分けましょう。オフの時間は、心身ともにリフレッシュするための大切な時間です。


 また、どこまで根性を発揮するかを見極めることも重要です。顧客のために頑張ることと、無理難題を抱え込むこととは違います。自分の能力の限界を知り、「ノー」と言えることも必要不可欠な要素です。


 一時的ではなく、長期的に活躍できることが営業パーソンにとって本当に大切なことです。そのために、根性論とワークライフバランスの最適な組み合わせを見つけていくことが求められます。自分なりの、持続可能な根性論を構築していくことが重要なのです。


 いかがでしたか? 営業における根性論は、現代に合わせてアップデートされるべきものです。テクノロジーを活用しながらも人間らしさを失わないことと、長期的視点を持ち、ワークライフバランスの維持にも配慮する必要があります。


 そうした現代的な根性論を追求する営業パーソン像が、これからの時代に求められているのではないでしょうか。根性論の本質を理解し、バランス感覚を養いながら実践することが、これからの営業パーソンの在り方なのかもしれません。


 新しい時代の根性論を、自分なりに体現してみてはいかがでしょうか。きっと、営業パーソンとしてのさらなる飛躍につながるはずです。


(株式会社ウィルオブ・ワーク 磯江怜)


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