「一般人の日記が30万円で売れる」30歳の古物商が語る、意外な物がカネになる骨董の世界

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2024年06月11日 16:31  日刊SPA!

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高値で売れるという日記の一部
 全国の骨董市へ行き、仕入れた古物を販売する仕事をしているナンブ寛永さん(30歳)。
 他にも「ナンブ堂」という屋号で、ネット通販やヤフーオークションなどを通して、古書や日記などを販売している。同業者は年配の方が多く、ナンブさんは古物商の中では若手であるという。なぜ、古物商という特殊な仕事についたのか、話を聞いた。

◆大学時代は考古学を専攻

――どのようなきっかけで古物商になったのでしょうか?

ナンブ寛永(以下、ナンブ):もともと、大学で考古学を専攻していました。学部生の時から骨董市には通って、古書などに興味があり、当時は貸本漫画などを集めていました。貸本漫画は古本屋にも売ってなくて買い方がわからなかったのですが、そのとき知り合った業者からいろいろ情報を得て、骨董品屋から買うようになりました。

 最初は大学を卒業したら、大学院に進んで、考古学の研究者として生計を立てようとしてきたのですが、「研究者より、骨董屋のほうが稼げるのでは?」と気づき、大学在学中に骨董屋に弟子入りして、キャリアをスタートさせました。

◆「これが給料代わりだ!」

――弟子入りの下積み時代はどのような生活だったのでしょうか?

ナンブ:「こんな商売、ヤクザと変わらない」と言われてしまって親には泣かれましたね。実際、「世話してやるから来いよ」って言われて、弟子入りしたのですが、下積み時代は給料が一度も支払われなかったり、僕の家を勝手に倉庫にされたり、「これが給料代わりだ!」とゴミみたいなものをくれたりして大変でした(笑)。

 でも、そんなクソな師匠でもいろいろ教えてくれたのでありがたかったですね。おかげで、古物商の免許がなくても市場に入れましたし、師匠には宝物が眠っている家などいい現場を見つける能力があったので、勉強にはなりました。合計3か月くらいは働かせてもらって、そこで築いた人脈が今も活きている感じですね。

――ということは下積み3か月で独立みたいなことですか?

ナンブ:そういうことです。新しい遺品整理の現場があると電話が来て呼んでもらえたりするようになりました。でも、ペーペーなので、どうしても2番目、3番目に呼ばれていて、カネになりそうなものはすでに全部持っていかれているんですよね。

 でも、僕はなんの価値もなさそうなゴミみたいなものを集めて売るスタンスだったので、競合にはならなかったですね。一見ゴミのように見えても見方を変えると面白くて、プレゼンの仕方によっては高値で売れるんです。例えば一般人の日記だとか。

◆一般人の日記が30万円で売れることも

――日記が売れるんですか。

ナンブ:研究資料として戦前のサラリーマンの日記が欲しいという学者がたまにいるんですよ。以前も戦前からあった地方の会社社長の日記が研究機関に15万円で売れました。あとは一般人の日記ですね。「お医者さんの家に入って日記あるかな?」と探していると、30年分の娘の日記が出てきて、水滸伝より長いんですよ。

 どの日記もちゃんと読んでから売りに出そうと思うのですが、他人の日記って癖が強いので読みにくいんですよ。特に、明治期の日記はまだ文法など、読み方が確立されてなくて慣れるしかないです。あとは達筆すぎて何が書いてあるかわからない日記も多いです。こういうのはお手上げなので、すぐマニアに流すんですけど、僕の知っているマニアの中にはどんなにぐちゃぐちゃな文章でも読める人がいて、これが適材適所ですね。

――他に面白いグッズとか出てくるんですか?

ナンブ:切り抜かれた女性の下半身と、下半身を切り抜かれた女性の写真があって、組み合わせると下半身だけ裸の女性ができるなど、昭和の知恵が詰まったコレクションとかが出てきたこともあります。

 あとは、元ゲーセンの店長から流れてきたのか、プリクラの中身のデータが全部プリントアウトされて、卑猥な格好をしたプリクラやカップルのチュープリとかが100枚以上束になったのが、流れてきたり…裏ビデオも出てきたこともありました。人の闇の部分が露骨に現れたりするのがおもしろいですね。

◆骨董業界はねたみ嫉みが多い

――本当は犯罪なものが表に出てくることも多々あるんですね。

ナンブ:よくあります。そういう例だと、大正時代くらいからある家に入らせてもらった時、薬箱から覚せい剤の「ヒロポン」や「セドリン」が見つかったことがありました。中身も使いかけでしたが、入っていました。もう何十年も前のものなので使えないとは思いますが……。こんなもの所持していたら捕まってしまうので、見て見ぬふりをしましたが、こういう危険と隣り合わせの部分もあります。

――この業界でツラかったことはありますか?

ナンブ:骨董業界って狭くて、案外ねたみ嫉みが多い業界なんですよ。なので、「これ俺が欲しかったのに」みたいな商品をオークションに出すと嫌がらせとかされるんです。30万円で落札されて嬉しいー!と思ってたら、入金されずにバックれられたりされます。なので、自分のアカウントだとバレないように匿名でやるように変えました。一応、真面目に売れるものも販売しないと生活できないんで、きちんとやっている部分もあります。

◆オウム真理教のグッズは高値が付く

――カネになるものってどういうのがありますか?

ナンブ:オウム真理教のグッズなどは高値で売れますね。上祐(史浩)氏のサインだとか、いまではオウムグッズは高く売れるというのがわかってきたので、あまり業者向けの市場に出なくはなりました。

――仕入れの市場はどのように競り合うのですか?

ナンブ:倉庫みたいなところで荷物を広げて、一箱に雑に色々荷物が入っているんです。そこで、一箱いくらで買うかを大声を出して競り合います。古書の場合は、一箱いくらで買うかというのを書いた紙を封筒にいれて、仕入れ業者に渡します。その中で1番買取価格が高かった業者が購入できるという仕組みです。

◆自分の店をオープンさせたい

――最近の骨董屋のトレンドは何ですか?

ナンブ:昔ではゴミにしかならないような、子どもの描いた落書きなんかも、いまは売れるようになったみたいです。おそらくおもしろいものがSNSでバズったりする影響なんだと思いますが。なので、解体業者もこれは価値がないものと勝手に決めずに、まずは連絡が来て選別してくれとなりましたね。

――今後はどのような活動をしていく予定ですか?

ナンブ:骨董市などを回って売り歩く露天商ではなく、自分の店をオープンさせたいですね。もう物件は借りているのですが、ただの倉庫になってしまっていて、これを店舗になるようにうまく整理させて、店番を雇ったりして……。色々やらなきゃいけないことが山積みで、やるやるといいながらかなり時間が経ってしまっていますが、近いうちにオープンできたらなと思います。

<取材・文/山崎尚哉>

【ナンブ寛永】
古本屋。1994年生まれ。全国の骨董市をめぐり貸本、怪奇漫画、広告漫画、紙もの、人の日記などを中心に希少な品々を幅広く蒐集。
X(旧ツイッター):@kan_ei_sen
Instagram:@nanbu_kan_ei

【山崎尚哉】
’92年神奈川県鎌倉市出身。ライター業、イベント企画、映像編集で生計を立てています。レビュー、取材、インタビュー記事などを執筆。Twitter:@yamazaki_naoya

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