生ジョッキ缶のアサヒ、レモンサワーにも“生感”を追求。「本物のレモンを缶にいれる」新商品の正体とは

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2024年06月12日 16:21  日刊SPA!

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未来のレモンサワー。中からレモンスライスが浮かび上がる
 コロナ禍をきっかけに家飲みをする機会が増えた人も多いだろう。そんななか、アサヒビールが6月11日に限定発売した「未来のレモンサワー」が早くも話題になっている。
 独自技術のフルオープン缶を活用した世界初のレモンサワーで、ふたを開けると中からレモンスライスが浮かび上がってくる。

 まるで居酒屋でのようなレモンサワーを自宅で味わえるのだが、開発にはなんと3年半もの期間をかけたという。開発を担当した、アサヒビール株式会社マーケティング本部新ブランド開発部の山田佑さんに話を聞いた。

◆新商品開発のアイデアの源泉

 未来のレモンサワーは、6月11日から首都圏・関信越エリア1都9県で限定販売されている。開栓すると本物のレモンスライスが浮き上がってくるのが特徴で、レモンスライスはそのまま食べることもできる。

 実際、一足早く筆者が飲んでみたところ、炭酸のシュワシュワという音とともにレモンスライスが浮かび上がってきて、見ているだけで楽しい。飲んでみると、レモン由来の豊かな香りが楽しめ、まさに五感で楽しめる。

 この斬新なアイデアはどのように生まれたのだろうか。

「2021年に弊社のフルオープン缶の特許技術を活用したアサヒスーパードライ生ジョッキ缶を発売したのですが、こちらが市場で非常に好評でした。特に小売店舗や流通、メディア、そしてユーザーからの声が高評価だったことから、この技術を活用しない手はないということで、研究開発チームがRTD(Ready to Drink)に応用できるかどうかを検討しはじめたのが始まりです」(山田さん、以下同)

◆王道のレモンサワーが勝ち筋

 缶入りのチューハイやカクテル、低アルコール飲料など、蓋を開けてすぐ飲めるRTD商品はコロナ禍で特に伸びたジャンルでもあり、とりわけレモンサワーの人気は高い。これに生ジョッキ缶の発想を掛け合わせたのが未来のレモンサワーだった。

「スーパードライ生ジョッキ缶は、“お店の生ビールの味を家でも”がコンセプトでしたので、RTDでは、居酒屋などで本物の果物を入れたチューハイが人気なため、フルーツを入れると今までにない新しいものができるかもしれないと考えました。何が入っていたら嬉しいか、何が美味しいのかと、いろいろなフルーツを試行錯誤しました。開発段階ではブドウの果物を入れたブドウサワーなども候補にありましたが、市場規模が大きく、お客様にもなじみ深いということころで、やはり王道のレモンサワーが勝ち筋だと判断しました」

◆糖でコーティングしたレモンを乾燥

 通常、新商品開発には1〜2年の期間がかかるが、未来のレモンサワーはテスト販売までに2年、発売までさらに1年半と、合計3年半もの時間をかけている。高い品質を実現するためには相当の苦労があったとか。

「アサヒビールの歴史においてもRTDに固形物を入れるのは初めてでした。そのため品質管理や新しい技術の導入など、すべてイチから考えなければならず、越えなければならないハードルが非常に多かったです。とりわけ生のレモンスライスを使うことで、品質管理が非常に難しくなりました。微生物を発生させない工夫が必要で、最終的に糖でコーティングしたレモンを高温と低温で2度乾燥させることで品質の劣化を防ぐこととうま味成分をとじこめることに成功しました」

 そうした生まれた未来のレモンサワーを、昨年5月にアサヒビールが運営するテスト販売サイト「ASAHI Happy Project(アサヒハッピープロジェクト)」で販売したところ、これまでにない大きな反響を得たという。

「テスト販売では、通常1か月ほどで売り切れることが多いのですが、未来のレモンサワーは1700セット(6本入り)が2週間で完売しました。購入者へのインタビューでも、レモンスライスの驚きや味わいに対する期待が高かったため、量産化に踏み切りました」

◆寝かせることで味わいが変化

 未来のレモンサワーには、ほどよい甘さでレモンの果実味と爽やかな苦みが感じられる「オリジナルレモンサワー」と、サワー液に糖も香料も使用せずレモンをダイレクトに味わう「プレーンレモンサワー」の2種類がある。価格はいずれも298円(税込み)。これもテストマーケティングの結果、生まれたそうだ。

「テスト販売時にはオリジナルレモンサワーのみでしたが、ユーザーからの反応で、レモンのジューシーな果実感だけでなく、自然なレモンの味わいを求める声が多くありました。前者のニーズはオリジナルレモンサワーでお届けできていると思いましたが、後者のお客様の声に応えるため、甘みのないプレーンレモンサワーを新たに開発しました」

 レモンスライスの形も1本、1本少しずつ異なっており、個性のある味わいを楽しむことができる。おすすめの飲み方はあるのか。

「飲み終わった後にレモンスライスをかじって楽しんでいただけると嬉しいです。収穫後に薬剤を使用しないポストハーベストフリーで高品質なものを使用しているので、安全に召し上がれます。皮の苦味や香りも楽しめると思います。少し寝かせてレモンの風味が浸透した状態で楽しむこともでき、大体3か月から半年で味わいが変わりますので、ぜひ試してみてください」

◆全国展開は未定

 競合メーカーもさまざまな新商品を投入しているRTD市場だが、どのようにそこで戦っていくのか。山田氏は「我々も新しい価値を提供する商品を開発し、ブランドを育てていきたいと考えています」と語る。

「コロナ禍の影響もありRTD市場は近年、売上が伸びています。私が所属する新ブランド開発部では、ビールに限らずRTDなど新商品を1〜2年かけて市場に投入することがミッションです。とりわけレモンサワーや無糖のチューハイなどはビールを飲まれない方にも広く受け入れられ、市場が形成されつつあります。今後はシェア争いではなく、新しい価値で、ゲームチェンジを起こせるような商品を提供したいと考えております」

 最後に販売計画を聞いたところ、「現在、首都圏と関東甲信越エリアでの限定販売となっています。原料の調達や、製造の難易度も非常に高いものになっているため、全国展開は未定です」とのことだった。

 2021年に発売された生ジョッキ缶が大きな話題になったのを覚えている人も多いだろう。未来のレモンサワーも気になった人は早めにチェックしたほうがいいかもしれない。

<取材・文/詠シルバー祐真>
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