「エネルギー、インフラが成長けん引」=電力・防衛軸に投資額倍増−東芝副社長インタビュー

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2024年06月12日 17:01  時事通信社

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時事通信社

インタビューに答える東芝の池谷光司副社長=4日、東京都港区
 経営再建中の東芝の池谷光司副社長はインタビューに応じ、「エネルギー、インフラ事業が成長をけん引する」と述べ、電力や防衛などの分野に対する投資額を倍増させる方針を明らかにした。先月公表した中期経営計画(2024〜26年度)の最終年度に23年度の2倍に当たる約500億円を投じ、収益力の強化を目指す。

 東芝は昨年、経営方針を巡って対立した「物言う株主」を排除するため、国内投資ファンドの日本産業パートナーズ(JIP)の傘下に入り、上場廃止した。池谷氏はJIP副会長を兼務し、中計策定でも中心的な役割を担った。

 東芝にとって送配電や発電システムなどのエネルギー事業や、防衛向けレーダーシステムなどのインフラ事業は得意分野だが、成長ペースが鈍化している。池谷氏は生成AI(人工知能)の普及に伴う電力需要の増加や脱炭素の動きが「追い風になる」と指摘。その上で、「デジタルを活用すれば利益を出せる。機器中心のビジネスから(利益率の高い)保守やメンテナンス中心に切り替える」と説明した。

 半導体関連には、中計期間の3年で計1000億円超を投資する。電気自動車向けの需要増が期待されるパワー半導体は、石川県能美市の工場の生産増強を進めている。池谷氏は既に提携関係にあるロームを含め、「協業も検討していきたい」と述べた。

 固定費に関しては間接部門を中心に国内で最大4000人を削減する方針。池谷氏は「希望退職はこれで最後にしたい」と述べた。一方、支社や生産拠点について「まだ多い。取引先に影響が出ないように効率化を進める」と述べ、集約する必要性に言及した。

 収益強化に加え、固定費の削減や甘かった損失管理を厳格化することで、中計に掲げた26年度営業利益率10%の目標達成に自信を示した。

 インタビューの主なやりとりは次の通り。

 ―2024〜26年度の中期経営計画で掲げた営業利益率10%達成に向けた戦略は。

 採算が悪い事業でも適切な対応をすれば、大幅な収益改善が可能だ。改善を阻む要因の多くはオペレーション面にあり、技術や製品が劣化しているわけではない。価格設定やプロジェクト管理を見直し、顧客に価値あるサービスとしてどのように提供していくかが課題だ。固定費の削減も進める。

 ―成長を期待する事業分野は。

 特に送配電システムなどのエネルギー、防衛向けレーダーシステムなどインフラ領域が東芝の成長をけん引する。従来は成熟市場で成長への期待が低いとみられたが、ここ数年で状況が変わってきた。生成AI(人工知能)の急速な拡大に伴い、電力需要は大きく増加する。エネルギー基本計画の見直しでも、脱炭素効果の高い電源構成に期待が高まっており、追い風だ。特に原子力は重要性を増すはずで、重要な柱となる。

 ―具体的にどう強化するのか。

 26年度に、23年度比約2倍の約500億円を投資する。デジタル技術を活用しつつ、機器中心から保守・メンテナンスを中心とするビジネスにシフトし、収益性を高める。例えば、発電所に設置したセンサーからデータを集めて分析し、トラブルの原因となる兆候を発見しやすくしたりする。こうした取り組みはこれまでも着実に進めてきた分野だ。

 ―半導体分野の事業戦略は。

 3年間で計1000億円超の投資を行う。事業を拡大させる上で、既に提携関係にあるロームを含め、他社との協業も検討していきたい。

 ―これまでの経営方針との違いは。

 過去は株主の要請もあり、アグレッシブな計画だった。売り上げを無理に伸ばそうとすると、固定費も増えるし、難しい案件も獲得せざるを得なくなるという悪循環に陥っていた。今回の中計は蓋然(がいぜん)性にこだわっている。会社の規模に見合うよう固定費を削減し、赤字になるプロジェクトを減らすことがポイントだ。過去数年間、リスク管理強化の努力をしてきたが、結果として不十分な点があった。損失がより出にくくする仕組みづくりなど本社と事業部が連携して取り組む。

 ―低収益事業を売却する考えはないのか。

 それぞれの事業に現時点でどういう実力があるのかをきちんと見たい。利益率が1、2%の事業でも手を打てば、5%程度には十分できる。まず、それを実行する中で、さらに事業を伸ばすためには自前で行くべきなのか、他社とやっていくべきなのかを考えることになる。

 ―本社を川崎市に移転し、拠点の集約化を進める方針だが。

 決してコストを下げることだけが目的ではない。既に事業部がある川崎に経営機能を移すことで現場とコミュニケーションも取りやすくなる。効率化のために支社の集約や生産拠点の統廃合も視野に入る。

 ―統廃合はどのような形で進めるのか。

 あくまでも効率性の観点から集約を進めるというのが中心。電力会社や地域のインフラ企業と取引があるので、影響がないように配慮したい。

 ―国内で従業員を最大4000人削減する。

 長年勤めた方が対象であり、断腸の思いだ。間接部門の従業員が外で活躍できるように、(再就職支援も含め)手厚く制度をつくったと理解してほしい。希望退職はこれで最後にしたいと思っている。

 ―再上場はいつ視野に入るのか。

 今はまず中計をきちんとやり切って、足元を固め、成長軌道に乗せていくことが大事だ。これらが次のステップに当然つながる。

 ―社員や金融機関は中計をどう受け止めているのか。

 島田太郎社長と社内の拠点を回って説明し、おしなべて社員にも理解をいただいていると思う。中堅・若手社員から出たアイデアもできる限り経営に取り入れる方針で、全員で改革に取り組みたい。

 金融機関からは「地に足が着いており、手堅い計画」と評価されている。非上場化する際に受けた融資の返済に対して十分配慮しており、銀行の要請にも耐えうる。

 ―社内でも業務効率化を進める。

 議事録やプレゼンテーション資料の作成などに生成AIを活用し、1人当たり月5、6時間の業務効率化につながった。会議や書類の数の削減も進めている。



 ◇池谷 光司氏(いけや・こうじ)

 慶大経卒。81年三菱銀行(現三菱UFJ銀行)入行、三菱東京UFJ銀行(同)専務執行役員や三菱自動車副社長などを経て、23年11月日本産業パートナーズ副会長。同年12月に東芝副社長。神奈川県出身。 
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