ノルウェー発、職場復帰した新聞記者が一歩を踏み出す『ヒューマン・ポジション』公開

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2024年06月12日 20:01  cinemacafe.net

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『ヒューマン・ポジション』© Vesterhavet 2022
病気の療養から復職した新聞記者が、なにげない日常や社会との繋がりから心の居場所を見出していくノルウェー映画『ヒューマン・ポジション』(原題『A Human Position』)が9月14日(土)より日本公開決定。ティーザーポスターと特報映像が解禁された。

青くて、物悲しいノルウェーの長い夏。うっとりするような静けさの中、パステルカラーに包まれた港町の丘をゆっくりと登って振り返るアスタ。新聞社に勤める彼女は、地元のホッケーチームや、アールヌーボー建築を保存するための小さなデモ、クルーズ船の景気など地元の人々を取材しニュースにする。

彼女の支えとなるガールフレンドのライヴは、デザインチェアを修復し、キーボードを演奏し、作曲をする。子猫が歩きまわる家で、料理を作ったり、古い映画を観たり、ボードゲームを楽しんだりと2人は穏やかな時間を過ごしている。

ある日、アスタは10年間ノルウェーに住み、働いてきた難民のアスランが強制送還されたという記事を目にする。その事件を調べて行くにつれ、アスタは自身を覆っていた無気力感を払拭し、仕事とプライベートの両方で自分が求める“心の居場所”を次第に見出していく…。

監督は、本作が長編2作目となるノルウェーが生んだ才能アンダース・エンブレム。フィヨルドに囲まれ、絵画のような色彩豊かな風景で「ノルウェーで最も美しい街」と称される監督の故郷オーレスンを舞台に、写真集を捲るように優しく美しい筆致で、主人公の心の機微や日常を丁寧に描いた。

繰り返されるショット、音楽の不在、削ぎ落とされた行間、街の音はもちろん呼吸音まで聞こえてきそうな長い静寂…。アスタとライヴを取り巻く環境を、カメラは空気をも映し出すかのようにゆったりと物語る。自身のインスピレーションの源としてロベール・ブレッソンと小津安二郎を挙げるエンブレム監督は、劇中でも『お茶漬けの味』のセリフを登場させ、小津愛溢れる演出を見せる。

また、もう一つの主役とも呼べる椅子への想いが、2人をより結びつけている。ある喪失感を抱えた主人公の日常をそっと見守る子猫も、名脇役として登場する。

主人公アスタを演じるのは、監督デビュー作『HURRY SLOWLY』(原題)に続いて再びタッグを組んだアマリエ・イプセン・ジェンセン。トラウマを抱える心の揺らぎや聡明さを、透明感を放ちながら抑制のきいた演技で表現。彼女に優しく寄り添うライヴ役にはマリア・アグマロ。そのコケティシュな仕草と歌声でほっこりと作品を彩る。

柔道着を着て、着物を着る。日本の映画を観て、囲碁を打つ。箸を使って食事をする。日本文化に囲まれながら少しずつ描かれる2人の機微を愛でるように見守るプロセスは、観るものを心和む気持ちに導いてくれるだろう。

窓越しの淡い新緑、葉のざわめき、風の通る木陰、船にぶつかる波の音、新聞のページを捲る音など、何気ない日々のスナップショットを並べたような描写と共に、柔らかな色彩に包まれたこの作品は、静かな佇まいで絵の具が乾くのを見るかのように進む。世界で最も裕福な国の1つといわれるノルウェーに対する、微妙な疑問とメッセージをそっと囁くように投げかける物語となっている。

『ヒューマン・ポジション』は9月14日(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国にて順次公開。






(シネマカフェ編集部)

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