都心のタクシー運転手を悩ませる“5mルール”という理不尽「そこで降りると言われても…」

7

2024年06月13日 09:01  日刊SPA!

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

日刊SPA!

写真
 本当はダメなんだけど守っていたら立ちいかなくなることが、どこの世界にもある。グレーゾーンというやつだ。パチンコと換金などはよい例で、なんだかんだと問題視されつつも長い間黙認。けれど、どこかで思い出したように取締りが行われる。
 タクシー業界もそれは同じで、とくに道路交通法の駐停車禁止は都市であるほど常に頭を悩ませる問題だ。

◆法律で違反と明記されている場所

 大都市の駐停車禁止がタクシーにとって頭の痛い問題なのは「じゃあどこで乗降させろっちゅうねん!」との思いがあるからだ。などと書くと「ちゃんと法律守れ」と怒られるだろうが、そういう人は自宅や会社周囲の道路をよく観察してほしい。さて、合法的に停車させることのできる場所がどれだけあるだろう? ちなみに、駐停車禁止の場所の代表例は、

・交差点とその端から5m以内
・道路の曲がり角から5m以内
・横断歩道、自転車横断帯とその端から5m以内
・バス停、路面電車停留所の標識版から10m以内
・踏切とその端から前後10m以内

 この中でもっともやっかいなのは、信号のあるなしにかかわらず、脇道など2本以上の道路が交わっている交差点だ。都心の道路はこの脇道だらけなので、端から5mのルールを適用すると大半が駐停車禁止場所になってしまう。

 たまに脇道のない直線路があっても、バス停や横断歩道、駐停車禁止標識があれば同じこと。教習所やタクシー会社は乗務員教育の際「ここでの乗降はできない」と教えはするが、本当に実践したら街はタクシー難民だらけになってしまう。

◆降車場所でもひと悶着

 百歩譲って、駅や空港の専用乗り場を利用すれば乗車はできるだろう。しかし目的地に着いたら、合法的に降車できる場所があるかどうか……。専用乗り場はあっても、専用降車場など滅多に用意されていないからだ。東京駅八重洲口などはよい例で、乗り場は約40台のタクシープール+3台同時乗車の体制が組まれていても、降車場は信じられない小さく、慢性的な混雑が起きている。

 いや、東京駅などはまだいい例で、ターミナル駅でも安全にお客さんを降ろせる場所は、各改札近くに1台分あればいいほうだ。品川や渋谷など今も絶賛工事中の駅が多数あり、合法的に停めていい場所探しに苦労することが珍しくない。

 空港も羽田や成田でさえ降車場に正しく停められるのはわずか数台。しかもカウンターから離れた端ばかり。お客さんから「できるだけターミナルの真ん中に近づいて」と頼まれても、そこはバス停なので係員に追い払われることもある。

 とくに羽田の国際線ターミナルは一般車、白タク、タクシーなどの車が入り乱れ、時間帯によって二重、三重停車で道が塞がれていることが珍しくない。

◆駅の改札・入口近くで停めやすい場所はバス停が占拠

 駅に向かうお客さんの中で、高齢者、ベビーカーや荷物の多い人たちはエレベーターに近いところを指定するケースが多い。運転手も「ここで降ろしてあげないと気の毒だ」と希望に応えたいのだが、そういう場所はほぼほぼバス停になっている。ターミナル駅だとバス停が5つくらい連なっていたりする。

 アプリ決済かつ身軽なお客さんなら、エイヤっと突っ込んで数秒の停車(それでも違反は違反だけど)で降りてもらえるが、ベビーカーや大型スーツケースをトランクに積んでいるとそうはいかない。支払いでお金のやり取りをした後、運転手も降りてバッグドアを開ける手間がかかる。そこにバスがやってくれば鬼クラクションで威嚇され、警察がいれば違反を取られる可能性も大。

 運よく駐停車禁止にならない場所だとしても、2つ目の壁が立ちはだかる。その正体はガードレール。これがまた、とんでもない強敵なのだ。

◆ガードレールの切れ目を探せ

 ガードレールは車道と歩道を分け、車から歩行者を守っている。都市の幹線道路沿いには柵のごとく設置され、正義の味方のような存在だ。しかし、切れ目が少なく仮にあったとしても電柱や街頭、植樹で塞がれていることが多い。柵は約1.1mの高さが基準なので健康な大人の男性なら何とかまたぐことができても、ズボンが汚れてしまう可能性が高い。

 いわんや女性や高齢者がまたぐのは無理な話。危険も伴うため、運転手は目的地付近でスピードを落として切れ目を探すことになる。すると、後続車からクラクション、お客さんには「どこまで行くつもり?」と怒られた挙句、前述の「バス停か交差点の歩道のあたりで降ろして」なんて要望が飛んでくる。

 そんな時「駐停車禁止なので停められません」と突っぱねればクレームが来る。かといって、ガードレールの切れ間のない道路上で降ろせば、お客さんは延々と車道を歩くことになり危険が伴う。さぁ、どっちを選ぶ? 毎回同じような自問自答を繰り返す。

◆「速やかに移動させてください」

 参考までに、筆者は先日、杖をついた高齢のご夫婦を乗せ、ある商業施設の前までお送りした。案の定、周辺はガードレールに阻まれ、安全に降りてもらう場所は横断歩道の近くに停めるしかなかった。仕方ないと歩道から1mほど離れた場所に停め、ご夫婦を介助しながら歩道に誘導していたところ、近くを通りかかったパトカーから大音量で「タクシーの運転手さん、そこは駐停車禁止です。速やかに移動させてください」と注意喚起。

 そりゃね、法律違反はわかっているさ。でもさ、この杖をついたふたりの状況が見えないかね?と思いつつ、さらに10秒ほど介助を続けていたら「繰り返します。そこは駐停車禁止場所です。早く移動させてください」とボリュームが上がり、肝を冷やした。

「交差点を過ぎて〇mくらい行くと切れ目があるからそこで降ります」と指示してくれるような素敵なお客さんは、滅多にいないのが現実だ。

<TEXT/真坂野万吉>

【真坂野万吉】
フリーライター。定時制で東京を走り回っている現役の中年タクシードライバー

このニュースに関するつぶやき

  • 交差点のど真ん中とかバス停で停車させるヤツは明らかに頭がおかしいから、『犯罪教唆』などで罪に問えるようにしてほしい。
    • イイネ!1
    • コメント 0件

つぶやき一覧へ(6件)

前日のランキングへ

ニュース設定