業界が縮小する中で、なぜスタバだけ元気に増加しているのか ヒントは、20年前に始めた店舗にあった

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2024年06月14日 06:51  ITmedia ビジネスオンライン

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“一強”状態が続くスタバ(出所:ゲッティイメージズ)

 市街地やモール内など、多くの場所で見かけるスターバックス コーヒー(スターバックス)。落ち込む業界の中で、実はこのスターバックスだけが元気に店舗数を増やし続けている。2019年に国内1500店舗を達成してから、コロナ禍でも店舗数は順調に増加。2024年3月末時点で1917店舗を展開している。


【画像】スタバが20年前に始めた店舗(計2枚)


 一方、国内の喫茶店市場は1982年の1兆7000億円をピークに減少へ転じており、既に飽和状態にある。業界2位のドトールコーヒーショップ(ドトール)は店舗数が頭打ちとなり、3位のコメダ珈琲店は増加傾向とはいえそのペースは緩やかだ。4位のタリーズコーヒーも伸び悩んでいる中“スタバ一強”の状態はなぜ続くのか。その理由を探っていこう。


●市場縮小もどこ吹く風 対照的に増加したスタバ


 国内の喫茶店市場は、上述の通り1982年に1兆7000億円のピークを記録して以降、減少に転じ、2019年は1兆1784億円だった。さらにコロナ禍が直撃した2020年は、2019年比で68%水準まで落ち込んでいる。


 立ち飲みスタイルとしてドトールが1号店をオープンしたのは1980年。その後、喫茶店のチェーン化が進み、個人店は姿を消していった。全日本コーヒー協会によると、国内の喫茶店数は1981年の15.4万店をピークに減少を続け、2021年の時点で約5.8万店しかない。喫茶店が衰退した背景には、気軽に飲食できるファミレスやファストフード業態の台頭も関係しているとされる。


 業界の縮小が続くさなかの1996年、スターバックスは「銀座松屋通り店」をオープンして日本上陸を果たした。ドトールも駅前や商店街などの好立地に店を構えていたが、スターバックスは乗降客数の多い駅の近くや一等地など、より目に付きやすい場所に出店を続けた。


 高い家賃はドリンクを主としたメニュー構成と高付加価値商品の投入で回収。好立地で目立つ店舗自体が宣伝効果を発揮したほか、「サードプレイス」としての空間づくりや、屋内の全面禁煙化による差別化が集客につながったと考えられる。1996年当時は成人男性の半分以上が喫煙していた時代だ。タバコが吸えないスターバックスは、異例の存在として見られていた。


 スターバックスは2013年に1000店舗を達成、2019年には1500店舗を超えた。現在では約1900店超を展開し、中でも都内には400店もある(6月10日時点)。スターバックスの店舗数が伸びている一方、競合は苦戦している。業界2位のドトールは4月末時点で1063店舗存在しているが、ここ数年で店舗数を減らしている。ドトールが1000店舗を突破したのは2004年であることを考えると、まさに頭打ちの状況だ。


 2月期末時点で1004店を構える業界3位のコメダ珈琲店は、ロードサイドという立地や近年のフルサービス型喫茶店の人気もあり、店舗数を増やし続けているものの、スターバックスほどの勢いはない。業界4位のタリーズコーヒーは公式Webサイトによると787店舗を展開している(同前)。駅や空港といった「インフラロケーション比率」を上げる戦略を進めてきたが、こちらも著しく伸びているわけではない。


 なお業界5位のサンマルクカフェは293店舗(同前)であり、4位と5位には大きな差がある。競合の動きを考えると、コロナ禍にもかかわらず大きく店舗数を伸ばしたスターバックスは、まさに“一強”のような状態といえる。


●2003年に始めたドライブスルー 現在は全体の4分の1を占める


 スターバックスは郊外及び地方のロードサイドに出店したことで店舗数を増やした。都内や大阪にも出店しているが、近年の出店情報をみると郊外や地方への出店が目立つ。そして、ロードサイドの新店はドライブスルー機能を設けていることが多い。ドライブスルーの専用レーンがあり、客はマイクで注文を伝え、窓口で商品を受け取るスタイルだ。事前にモバイルオーダーで頼むこともできる。


 北関東のドライブスルー店を訪れ店内から様子を観察したところ、店員はヘッドセットを付けてドライブスルー利用客への対応をしていた。忙しいときには車が連続で来るため、店内客に対応していない店員は全員、ドライブスルー対応に集中するような様子であった。細かく数えたわけではないが、平日夜の1時間で店内客は4割、ドライブスルー客が6割といったところで、ドライブスルーの人気が高いことが分かる。


 スターバックスが国内で初のドライブスルー店を構えたのは2003年。ちなみに米国では1994年からあったという。6月10日時点でドライブスルー店は514店舗と、店舗網全体のおよそ4分の1を占める。ドライブスルー店は標準店と比較して1.3倍の出店コストがかかるものの2〜3割の増収が期待できるという。標準店よりも回転率が高いからだろう。ちなみに2年前には、群馬県伊勢崎市に国内初のドライブスルー専用店をオープンしている。


●ドトール、タリーズでも郊外店の動きが進む


 地方でスターバックスが店舗数を伸ばす状況で、競合はどう動いているのだろうか。


 都市部・市街地への偏重傾向が強いドトールでは、以前からガソリンスタンドとの併設店を通じて郊外進出を狙ってきた。2016年に「エッソ」に併設したドライブスルー店をオープン。2019年には、ドライブスルー型の郊外店「ドトールキッチン」をオープンしている。


 とはいえ、6月10日時点でドトールキッチンは31店舗しかない。通常サイズのコーヒーを300円で提供するドトールは安さが売りであり、都市部では休憩場として機能する一方、100円台のコンビニコーヒーがあるロードサイドでは安さのメリットは薄くなってしまうのがデメリットだろう。スターバックスように、フラペチーノのような看板商品や強固なブランドがないドトールにとって、ドライブスルー店のメリットは少ないと考えられる。単独ではなくあくまで併設店としてロードサイドを狙う動きには、こうした背景があるのではないだろうか。


 業界3位のコメダ珈琲店は、調べてもドライブスルー店の情報が出てこない。フルサービスやくつろげる空間を売りにしている同チェーンにとって「もってのほか」なのだろう。4位のタリーズコーヒーは2023年にドライブスルー店の1号店をオープンしたばかりでありで、6月10日時点で7店舗しかない。価格帯やブランド力で近い位置にあるスターバックスの競争相手になりそうではあるが、出遅れた形である。


 全国的に知名度の高いスターバックスはこれまで地方では、まず中心地に1店舗を構えてブランドを浸透させ、物流コストを考えながら緩やかに出店する方針をとってきた。そのため県によっては10店舗もない地域も多く、新店は大きな話題になることもある。都心の一等地を押さえてきたスタバだが、今後は幹線沿いのロードサイド店が増えていくことだろう。それに伴う、競合チェーンの出方にも注目である。


●著者プロフィール:山口伸


経済・テクノロジー・不動産分野のライター。企業分析や都市開発の記事を執筆する。取得した資格は簿記、ファイナンシャルプランナー。趣味は経済関係の本や決算書を読むこと。


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  • 元々ドトールは「ちょっと5分・10分の時間調整」の珈琲スタンド。ブレンドが200円を超えてからは頻度が減ったな。あとは喫煙条件。喫煙者なんでスタバの選択肢はハナからなかった。
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