千葉のキッザニアっぽい施設「カンドゥー」 存続の危機から一転、過去最高の来場者数に どう立て直した?

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2024年06月14日 08:40  ITmedia ビジネスオンライン

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仕事体験テーマパーク「カンドゥー」

 千葉県に子ども向けの職業体験型テーマパーク「キッザニア」に“よく似た”「カンドゥー」という施設がある。実は、開業から10年以上たっても業績は安定せず、運営元のイオンモールキッズドリーム(以下、キッズドリーム)は事業を手放すことさえ検討していた。しかし今年に入ってから黒字が続き、今夏に2号店の開業も控えている。


【画像】キッザニアに似てる?「カンドゥー」パーク内(7枚)


 業績が好転した大きな要因は、(1)デジタルを活用したオペレーション改善と、(2)データドリブンの値上げ戦略だ。逆転の舞台裏には何があったのか。キッズドリームの末松央行社長に話を聞いた。


●「コンパクト版キッザニア」? 日本初上陸も苦戦


 カンドゥーは「親子3世代で楽しめる仕事体験テーマパーク」をコンセプトに据えた施設だ。実在の企業がスポンサーとしてブースを出店し、子どもはそこで職業体験できる。


 同業であるキッザニアとの大きな違いとして、敷地がよりコンパクトであり、親子の距離が近いことが挙げられる。保護者の目が届く範囲に職場体験のブースが位置し、時には保護者が客役を演じることもある。


 パーク内中央にはフードコートのようにボックス席を約500席備え、仕事体験の合間に食事もとりながら、家族のコミュニケーションが取れる空間づくりを意識している。子どもが仕事からあぶれないよう、一度に入場できる人数に制限を設けていることも特徴的だ。


 収益の最も大きな柱は入場料で、全体売り上げの6割を占める。3割強は出店企業からのスポンサー料、残りはレストランでの飲食料や物販などが支えるという構成だ。


 もともと、キッザニア創業メンバーの一人であるルイス・ラレスゴイチ氏が「キッザニアでできなかったことをやりたい」という思いで立ち上げたテーマパーク事業で、日本に初上陸したのは2013年12月のこと。


 当初はSNエンタープライズ(旧称:カンドゥージャパン)が経営していたが、思惑通りの収入が得られず債務超過に。同社は2016年に特別清算手続きに入り、カンドゥー事業の経営はキッズドリームに移ったという経緯がある。


●スポンサー離れ、債務超過……撤退寸前に


 キッズドリームに経営が移った後も業績は低空飛行が続いていた。夏休みなど行楽シーズンに客が集中し、繁忙期以外は赤字という状況から抜け出せずにいた。また、受付からパーク内における動線設計にも課題があり、混雑による満足度低下も招いていた。


 こうした課題による影響か、2019年にスポンサー企業の解約が立て続けに起きた。そんな状況でコロナ禍が追い打ちをかける。客足は途絶え、パークを閉鎖した月もあった。キッズドリームの親会社であるイオンモール社内では、カンドゥー事業の“出口戦略”について度々議論していたという。


 「コロナが明けても人が戻ってくるか分からない中で、債務超過に陥った状況をどうするのかと。事業を撤退するか、それとも存続するか、親会社(イオンモール)で喧喧囂囂(けんけんごうごう)たる議論がありました。赤裸々に言うと、実はもう撤退する方向で取締役会にかける準備が進んでいたんですよ」


●「混雑回避」と「値上げ」 改革に着手


 末松社長が着手したのは大きく分けて、(1)オペレーション改善と(2)値上げだ。


 まずオペレーションについて。カンドゥーは営業時間を二部制に区切っている性質上、決められた時間に予約した利用客が一気に押し寄せることになる。ピーク時にはゲート外が満員電車のようになっていたという。


 利用客からすると時間通りに来ても行列に長時間並ばなくてはならず、子どもが“出勤時間”に遅れてしまうことも頻発していた。


 そこで、予約サイトの運営や予約・チケット販売SaaSサービスなどを提供するアソビュー(東京都品川区)の支援を得ることに。チケットの販売から発券、着券(もぎり)までの手続きのオンライン化、及び予約経路の一本化を進めていった。


 一連の手続きをオンライン化したことで、利用客はそれぞれの集合時間をスマホで確認して動けるようになり、スタッフが交通整理する必要はなくなった。最終的には1人当たり1分〜1分30秒の受付時間の短縮につながり、行列は解消された。


 電話予約を受け付けていたコールセンターへの着電も減り、土日はほとんど電話が鳴らなくなったという。


●「冷めたカツ丼」が置きっぱなし……レストラン問題も解消


 カンドゥーの持ち味であるレストランエリアにも問題があった。食事の注文を受け付けるレジが1台しかなく、ここにも長蛇の列ができていたのだ。


 そこでモバイルオーダーを導入し、席に座りながらスマホで注文できるようにした。子どもが仕事をしている姿を横目で見ながら注文と決済ができ、注文した料理が出来上がるとLINEから通知が届き、提供台まで取りに行くだけでよくなった。


 「これまでは注文するまで30分、食事が届くのにさらに30分と、行列に並び始めてから食べられるまで約1時間かかっていました。食事が届いても次の子どもの仕事が始まる時間になってしまい、冷めきったカツ丼がテーブルの上に置きっぱなしになっていることもありました。こうした問題が解決したことで非常に好評を得ています」


 他にも仕事体験の予約端末を1カ所に集約して分かりやすくしたり、仕事体験の空き状況をスマホ上で確認できるようにしたりなど、オペレーション面の改善を進めていった。


●値上げしてもクレームゼロ


 オペレーション改善と同時に、収益化と来場者の満足度を両立すべく、入場料の価格変動制を強化した。チケット購入者のデータ、満足度調査、口コミなどを分析したところ、満足度は混雑状況が影響しやすい一方、料金の高さはさほど影響しないこと、満足度は特定の人数を超えると著しく下がることが分かった。


 これを根拠に、来場者の不満につながらない価格帯と収容人数を精査し、料金帯を2段階から4段階に変更した。加えて、来場者に配っていた500円分の金券を廃止し、ベース全体の値上げも行った。


 その結果、土日祝日に偏りがちだった来場者数の平準化に成功する。子ども料金で比較すると最安値(3250円)と最高値(4500円)との間に1250円の差が生まれたが、それでもこれまでに入場料に対するクレームは発生していないという。


 「値上げによって離反してしまう客数を、新規客の増加数で十分吸収できると判断して、値上げに踏み切りました。結果としてこれまでに入場料に対するクレームは1件もいただいていません。昨今の情勢を鑑み、ご理解いただけていると感じています」


 これまで全くやっていなかったCRM(顧客関係管理)の体制づくりにも取り組んだ。一度カンドゥーを訪れた利用客の属性分析と、メール配信などでアプローチできる環境を整えていき、アプローチできる母集団は約7000人に達した。事前に情報収集しておきたい親が多く、メルマガの開封率は70%を超えているという。


 顧客属性を分析できる環境を整えたことで、プロモーション面の課題も新たに見えるようになった。


 「チケット購入者のほとんどが千葉エリアにお住まいなのに対して、Webサイトの閲覧者は東京が圧倒的に多かったのです。Webサイトまでたどり着けている人が東京に多くいるので、やっぱり(需要を)取り切れていなかったんだなと」


●ポケモンから“ラブコール”


 こうした改善をしていった結果、2024年1月にコロナ禍以降初めて単月黒字を達成。それ以降、4月まで一度も単月赤字になっていない。2月については開業以来過去最高の入場者数を記録した。


 スポンサーも新たにつき始めている。その中でもビッグネームは株式会社ポケモンだ。業績が前を向きだした昨年末に“ラブコール”をもらい、カンドゥー内にポケモンセンターが誕生した。


 ポケモンは長寿コンテンツであるだけにファンも一緒に年を取っていく。従って同社は子どものころからポケモンと触れる機会を増やそうとしており、そのためのカンドゥー出店というわけだ。


 ポケモンと同じように、親子世代へのブランディングの場としてカンドゥーに興味を持つ企業が増えている。直近ではサイゲームス(東京都渋谷区)、BOAT RACE振興会(東京都港区)が新たにブースを構えた。スタートアップ企業、業界団体・協会とのスポンサー交渉も複数進んでいるという。


 データドリブンの改善を実行して業績が上向きだしたカンドゥー。冒頭にも書いたが、既に2号店の出店を決定している。場所は東北最大級のショッピングモール「イオンモール新利府 南館」(宮城県利府町)だ。


 末松社長も「今は『V字回復』というほど劇的な回復ではなく、もっとゆるやかなカーブの『U字回復』が始まったところです」と前置きした上で、さらなる事業拡大を狙う。


 「2号店で終わりにしたくないと思っていまして。将来的には3号店、4号店と出店し、国内の各主要エリアには必ずカンドゥーがある形にしたいなと思っています」


 キッザニアと似ているようで違う。そして、より親子世代が一緒に楽しめるコンセプトを打ち出したカンドゥー。デジタル化とデータドリブンの仮説と検証で、ようやく長い低迷期を抜け出そうとしている。「U字回復」を完遂し、全国にその名を轟(とどろ)かせられるだろうか。


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