中村憲剛が語ったカナダ研修での驚き「フロンターレでもそこまではできなかった」

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2024年06月14日 10:20  webスポルティーバ

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中村憲剛がS級ライセンス取得の海外研修先に
「カナダ」を選んだ理由(後編)

◆中村憲剛「なぜカナダへ?」前編>>「2年後のワールドカップ開催地で見た新世界」

 JFA(日本サッカー協会)公認のS級ライセンス取得のため、中村憲剛氏は海外研修としてカナダに2週間半ほど滞在した。そこでお世話になったのが、元川崎フロンターレ・スタッフの高尾真人氏と田代楽(ガク)氏。カナダのサッカー文化をよく知るふたりだ。

 朝から晩までサッカー漬けの日々を送ったパシフィックFCでの研修を終えて、憲剛氏は何を見て感じ、どんなものを持ち帰ってきたのか。

   ※   ※   ※   ※   ※

── カナダ国内では、どれくらいサッカーが盛り上がっているのでしょうか。

高尾「2019年に始まった時から見ているんですけど、やっぱりサラリーキャップがあるので、どうしても若手を育成するリーグという色が強いですよね。原石を磨いて、ヨーロッパやMLSに供給していくという構造になっているんですけど、そのなかでは先ほど憲剛さんにも言っていただいたように面白いタレントがたくさんいるので、そういう選手を見出す醍醐味はあるかなと思います。観客数は、だいたいパシフィックで平均3000〜4000人くらいかな」

田代「そうですね。スタジアムはマックスで6000人とうたってはいるんですけど、4500人くらい入るとパンパンになるっていう、ちょっとよくわかんない構造なんですけど(笑)」

高尾「あと、カナダは国の面積が広いですけど、そのなかに8チームしかないので、アウェーの遠征費がそうとうかかるんです。人件費と遠征費がほぼ同じくらいになるらしいですね。ただ、まだまだいろんな改善点があるとはいえ、リーグとしての価値は少しずつ上がっていっているのは間違いないと思います」

中村「サポーターと選手の距離感が、本当に近いんですよ。試合が終わった直後、ロッカールームに戻る前にゴール裏に来る子どもたちに、選手が普通にサインをしてあげたり。さすがにフロンターレでもそこまではできなかったです(笑)。あと試合中に、ガクがゴール裏でカメラを構えていて、ゴールが入った瞬間に選手たちが喜んでいるところに入っていくんですよ。いちスタッフが、そんなことやっちゃうの?って(笑)」

【カナダのサッカー熱は間違いなく高まっている】

田代「ピッチの中まで入りますからね」

中村「それはダメだろうと思うんですけど、その映像がすごくよかったりするんですよね。当たり前ですがリアリティが半端じゃなかった(笑)」

田代「本当はダメなんですけど、やっぱりそこは北米だなと思うのが、見栄えがいいならアリになっちゃう。ルールとしてはダメなんですけど、今度からは特別な時だけ入っていいことにしよう、みたいな(笑)。そういう意思決定が柔軟に行なわれるのが、いいところですね」

中村「その柔軟性がいいよ。本当に。日本だったら、絶対に怒られる(笑)」

田代「こっちは、いいものはいい、となるんです。そもそも、だってサッカーなんだから、みたいな意識が根底にあるんですよ。サッカーだからしょうがないじゃん、みたいなが考えがみんなのなかで共通理解としてあるのは、もしかしたら南米が近いから、というのもあるかもしれないですね。移民系も多いですしラテン系もいるので、日本とはまったく違う文化があって、僕はすごく好きです」

── 国民のサッカー熱も高まっている感じですか。

田代「もともと女子サッカーは人気ですよね。クリスティン・シンクレアを筆頭にスター選手がいるので、やっぱり女子サッカーの代表戦はスタジアムが埋まりますね」

高尾「男子も前回のワールドカップに出場できたことが大きかったなと思います。36年ぶりですからね。なんとなく、(サッカーが盛り上がっていく過程が)日本と似ているんですよね。日本は1993年にJリーグが立ち上がって、1998年に初めてワールドカップに出て、2002年に自国開催じゃないですか」

中村「たしかに」

高尾「以前、調べたんですけど、日本サッカーの発展には、やっぱりその3つの出来事が大きかったらしいんですよ。特に少年サッカーの競技人口が劇的に増えたのが、そのタイミングなんですね。

 カナダも2019年にリーグができて、2022年のワールドカップは初めてではないですけど、36年ぶりに出場できた。それで2026年に自国でワールドカップが開かれる。日本と同じような現象が起きると思いますし、サッカー熱は間違いなく高まっている感覚はあります」

【日本の若い選手がカナダで経験を積む手段も】

中村「僕はパシフィックのホームスタジアムと、もうひとつアウェーのスタジアムに行きましたけど、雰囲気が全然違うんですよね。ほかの6チームにもまたそれぞれの色があると思いますし、各クラブにいろんなものが根づき始めている段階なんだろうなっていうのは感じました。熱量はすでにありますし、週末に非日常を体感しに来るという文化は、着実に生まれてきていると思いますね」

── パシフィックFCには各国の代表選手も在籍しているのですか。

田代「トリニダード・トバゴ代表とハイチ代表がいます。彼はハイチとカナダのミックスルーツなんですけど、代表はハイチを選びました。中米とのミックスルーツの選手が多いので、これからいろんな国で代表になる選手も増えてくると思います」

中村「コロンビアとカナダのU-20代表選手もいるよね」

田代「そうなんです。だから、彼らも含めて将来を考えると、すごく楽しみですよ。小さいクラブからひとり、ふたりと代表選手が出てくれば、僕らクラブの人間としてもうれしいですし、やりがいも感じます」

── 将来どうなるかわからない選手が、たくさんいるわけですよね。

中村「本当に原石の宝庫」

高尾「わかりやすく言うと、若くて安い選手がたくさんいるので、Jリーグの関係者に注目してほしいと思っています」

中村「カナダのサッカーのことは、日本人はたぶん、ほとんど知らないじゃないですか。僕も知らなかったし、Jリーグの強化の人も知らないと思う。だけど今回行ってみて、穴場だと思いましたし、可能性を秘めた彼らのチャンスを広げてあげたいなって思いました。

 逆に、日本の若い選手たちが向こう(カナダ)に行って経験を積むっていうやり方もあるのかなと。でも、簡単にはレギュラーにはなれないと思いますけど」

高尾「それは監督も言っていましたよね。ローンでもいいから、日本の若い選手を連れてきてほしいって。プレーできる環境を用意するし、近々実現したいと言っていましたよ」

【吸収したものをしっかりと発揮したい】

── あらためてカナダで過ごしたこの2週間半の研修期間は、憲剛さんにとってどういったものでしたか。

中村「ひと言でいえば、最高でした。これはふたりのおかげだし、温かく迎えてくれたパシフィックFCのみなさんのおかげでもあります。あますところなく全部、吸収して帰ってこられましたから。パシフィックFCのスタイルもそうですし、クラブと地域とのつながりもそう。カナダのサッカー熱も肌で感じることができました。

 指導のところで言うと、ジェイミーとアルマンダの指導を見ることで、いろんなことをインプットできました。どうしても指導者を始めると、アウトプットし続けるしかないので、人の指導が恋しくなるんですよ。だから僕のなかでは、ふたりの指導を見られたのがすごくよかった。

 僕もただ聞くだけではなくて、自分の意見を言って、指導者同士のコミュニケーションが取れたのもよかったですね。本当に未知の場所でしたけど、今ではカナダのことを一番知っているサッカー解説者じゃないかなって思っているので、2年後はたくさん仕事をいただけるかなと(笑)」

── そういえば、パシフィックFCのアンバサダーになられたんですよね。

中村「そうなんです。パシフィックFCにあやかって『P(Pacific)F(Friendship)C(Connector)』という肩書きをいただきました。具体的に何をするかは決まっていないんですけど、つながるということが大事だと思います。せっかくつながったものがこれで終わりではなくて、つながり続けることの大切さはフロンターレで学んできたこと。そういう関係性を構築できたのも、今回の研修の収穫だと思っています」

── この研修を経て、監督への想いもまた強くなったのでは?

中村「当然、監督の数だけサッカーのスタイルがあって、影響力もやっぱり大きい。監督の考え方とか、資質とか、雰囲気とかでチームの空気が変わるというのをすごく感じた2週間半でした。自分だったらどうするか、ということをあらためて考えるきっかけになりましたし、引き出しも増えたと思います。

 もともと引退した時にはS級取得を最大の目標にここまで走ってきたので、最後の締めくくりとして本当にスペシャルな時間になりました。S級を取得したあかつきには、いつ、どうなってもおかしくない状態にはなります。もちろん、その成果を発揮できる機会がいつになるかはわかりませんけど、吸収したものをしっかりと発揮したいという想いは、当然強くなりました」

【リスペクトを込めて『憲剛はやばいね』】

── それこそ、パシフィックFCの監督になるという選択肢もあるのでは?

中村「そうですね。将来的にはゼロじゃないなと思うくらい、本当にみんなウェルカムでしたし、スタッフ・選手みんなと仲良くなれましたから」

高尾「普通にクラブの一員になっていましたからね。アシスタントコーチの人が、ハーフタイムに意見があったら聞かせてくれって言ってくるくらい」

中村「普通はありえないでしょう」

高尾「それは本当にすごいなと思って。完全に入り込みましたね」

中村「だから、最後にお別れの挨拶をする時は、この時間のことを思い出してちょっと泣きそうになりました」

高尾「最後に憲剛さんが、選手、監督、クラブスタッフを集めて、ピッチの脇でちょっとしたスタンディングパーティーを開いたんですよね。あの時間も本当によかった。みんなとしっかり話せたし、いろんなつながりができたと思います」

田代「選手もいまだに言っていますよ。リスペクトを込めて『憲剛はやばいね』って。2週間半でそこまでがっつりと入り込んだのは、やっぱりすごいことですよ」

高尾「僕が日本とカナダをつなぎたくて移住した答えを、今回、憲剛さんにいただいた気がします。本当に感謝しかありません」

中村「みんなハッピーになれたので、本当によかったです。最高の海外研修でした」

<了>


【profile】
中村憲剛(なかむら・けんご)
1980年10月31日生まれ、東京都出身。久留米高校から中央大学に進学し、2003年にテスト生として参加していた川崎フロンターレに加入。2020年に現役を引退するまで移籍することなく18年間チームひと筋でプレーし、川崎に3度のJ1優勝(2017年、2018年、2020年)をもたらすなど黄金時代を築く。2016年にはJリーグ最優秀選手賞を受賞。日本代表・通算68試合6得点。ポジション=MF。身長175cm、体重65kg。

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