『東京タワー』キンプリ永瀬が“哀愁と孤独”を好演 「エロと泥沼に染まらない」ドラマ識者が解説

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2024年06月15日 08:00  ORICON NEWS

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「永瀬廉は抒情がよく似合う」柿谷氏が解説
 King & Prince・永瀬廉が主演するテレビ朝日系オシドラサタデー『東京タワー』(後11:00)最終話が15日、放送される。不倫を題材にした難しい役どころだが、哀愁ただよう主人公の心情を見事に演じている。その魅力について、ポップカルチャー研究者の柿谷浩一氏(早稲田大学招聘研究員)に解説してもらった。

【写真】永瀬廉、“骨まで美しい”グラビア 鼻筋・顎・喉仏・鎖骨…

 永瀬廉は「抒情」がよく似合う。「哀愁」あるキャラと心情作りがうまい。じわっと沁み出る淡い恋心。温和で一途な純心。その表現力が抜群。昨年のTBS系ドラマ『夕暮れに、手をつなぐ』(2023年)でも際立っていたその特性に一段と磨きがかかり、演技力も高めた印象だ。

 不倫ドラマは、危険な香りやヒリつく刺激、ムーディーな色気へ劇の重きに向かいがち。でも今作が重視するのは、胸に募る「沈鬱」。それを丹念につきつめ、掘り下げる徹底ぶりが秀逸。主人公の透は、禁断の恋をガツガツ略奪するのでも、やみくもにエロティックに乱れ流れるのでもない。簡単には“手の届かない恋”を前に葛藤し佇み、相手と逢える・結ばれるのをひたすら耐えて待つ日々。そんなひとり苦悩を抱え“打ちひしがれる”さま。悲哀と孤独、ニヒルを極めた狂おしい「内省的な恋心の痛み」を、永瀬が好演している。

 他方で、そんな彼の恋心には“しっとりとした上品さ”と、“温もりあるマイルドさ”も滲む。どれほど相手を大切に想っているか。その気持ちが清く純粋か。悲壮な不倫劇ながら、その核にある「ピュアでクリアな内面」を、静かにそっと染み入るように響かせてくる。センチメンタルなピアノ曲を助けに、純愛ゆえの“上質な暗鬱”が、回を追って時間をかけてじっくり深まっていく。そのテイストがとにかく切なく、刺激寄りの不倫ドラマとは一線を画した「内面を凝視する世界観」で惹きつける。

 物語のスピードが「ゆったり」なのもいい。時がうつろう。そんな質感を大事に話は進む。不倫展開や心情変化も慌てず急かさない。大切な人と出逢え、その人と束の間、心を通わせる。そうした恋愛の“愛おしい時間”を、作品全体で優しく丁寧に追いかけ描くスタイルが、良質な感銘をもたらしている。

 そして、どの展開・描写・状況も騒々しくないのも特色だ。不倫劇ではドロ沼と衝突が避けられないが、最終回前まで主人公と不倫相手の激高や怒鳴り合いは強く目立たない。二人のすれ違いも、届かぬ想いも、ひたすら静寂に進展する。

 ゴールデン帯の60分作品では、どうしても筋や人物が入り組み、心情もどこかガチャガチャしてしまうことも多い。でも尺の短い深夜ドラマは、焦点を絞って、一つの感情やムードに特化した見せ方ができる。男女の「1対1」の恋模様、それをめぐる孤独で悲痛な心情。それを“静かな映像空間”に沿って、じっくり浸り味わわせてくれる仕上がりになっている。

 また作品を支えるキーをなすのが、主人公の胸の内を語るモノローグ。吐息交じりの、物柔らかで安堵感がありつつ、“諦め”や“退廃”を含んだ永瀬の曇りある声。囁きかけるような“静謐”な語り。それらが、恋愛の感情一個一個を丁寧に確認していく感じで、とびきり尊く美しい。小説を読んでいる感覚にも似た、原作小説の文学表現を永瀬の声と台詞で見事に体現する絶妙さで、美的なナレーションの醸しだす雰囲気とテンポ。その魅力を損なわない形で、「心の声」に寄り添った映像作りを貫いているのもいい。

 透は「喜怒哀楽」の波を表立ってはあまり見せない。それは情動・欲望が必須の不倫ものでは、「淡泊」に映って感情の劇を弱めるようにも見える。でもそれを“強み=見所”へ変えられるのも、永瀬の役者力。彼の創るポーカーフェイスは、単純なドライではなく、特有の「アンニュイさ」を強く備える。表情を無にし、口を閉ざした彼からは、どこか気だるく、物憂げな“曇り”がかった雰囲気が立ち上る。それが、心にベールをかぶせ続けるしかない不倫の閉塞感と、幸せの突破口をどこにも見出だせずに霧に包まれたような苦境を表現して絶妙。

 緩やかで静か、それでいて陰がある。物語を貫くこの雰囲気は、雑踏や喧騒から離れたシティポップ風な「夜の都会」の趣き。東京タワーのレトロな情景、不倫相手への儚い気持ち、冷静な歳上への憧れ…。それら諸々をひっくるめて「洗練された大人の恋愛×都会に佇む淋しい男」の劇に、永瀬の演技と存在はよくなじみ、サマになっている。

 この数年、アイドル面でも、King & Princeメンバーとしても、さまざま揺らぎのあった永瀬廉。その波の中でも、役の主人公のごとく忍耐強くひたむきに、俳優としての特性を着実に進化させゆく姿は感慨深く、何とも頼もしくもある。彼は経験を全身で受け止め、それを表現へ昇華し滲ませていく力に長けているように見える。主演作の要所で感じる「永瀬ならでは」は、彼の生きざまと直結した役者力そのもののようだ。その確かな成長と成果に評価と激励を送りつつ、最終回も愉しみたい。

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