柴咲コウの“あまりにも怖すぎる表情”に注目。8歳女児を殺した犯人と思しき男を拉致・監禁

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2024年06月15日 16:20  女子SPA!

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 2024年6月14日より『蛇の道』が劇場公開されている。本作は1998年公開の同タイトルの映画を、フランスを舞台に黒沢清監督自身がセルフリメイクした「リベンジ・サスペンス」だ。

 日本人にとっての目玉は、主演の1人である柴咲コウが、端的に言ってめちゃくちゃ怖いこと。さらに、その怖さに「深み」をも感じさせることが重要だった。その理由と共に、映画の魅力を記していこう。

◆「導かれるような」「冷静すぎる」役が怖い

 物語は、8歳の愛娘を何者かに殺された中年男性の主人公が、パリで働く心療内科医の協力を得ながら、事件に絡む元財団の関係者たちを拉致監禁していくというインモラルなもの。

 その心療内科医役に、黒沢清監督たっての希望でキャスティングされたのが柴咲コウ。「彼女はあの目つきがいいですよね。あの目で見つめられただけで、男性はあらぬ方向へと誘導されてしまう気がする」と黒沢清監督は語っており、なるほど劇中で復讐のために自らの意思で犯罪に手を染めているはずの主人公が、表向きは協力者にすぎない柴咲コウに「導かれている」印象を覚える。

 例えば、ターゲットをトランクに入れたまま停めていた車のそばに警察がいるのを見て、主人公は「もう終わりだ」と絶望するのだが、すぐさま柴咲コウは冷静に警察と話し合い対処する。その「まったく動じていない」様は、もはや人間らしい恐怖心や葛藤がないようにすら思える、それこそが怖いキャラクターを柴咲コウは体現していたのだ。

◆「移住して10年ほどのフランス語」を習得

 さらに驚愕なのが、柴咲コウがまったく違和感なく聴こえるフランス語を話していること。黒沢清監督は(一部を除いて)全編がフランス語で展開するため、彼女が引き受けてくれるかと心配していたそうだが、実際の柴咲コウからは「だからこそやりたい!」という言葉が返ってきたのだとか。

 柴咲コウは日本にいるときからフランス語の指導を受け、現地で撮影に入ってからもレッスンを続けていた。最初にホン読みをした際には、劇中の役に必要な「ネイティブの人が話す完璧なフランス語ではない、フランスに移住して10年ほど経った日本人が話すようなフランス語」を習得していたのだとか。

 しかも、劇中には200以上のセリフがあったが、NGはほとんどなかったそうだ。

◆抜群の身体能力を生かしたスピード感

 さらには、柴咲コウはパリ滞在中の2ヶ月間はマルシェに行って店員と会話をしたり、東京と同じように自転車を乗り回したりしていたそう。

 普段から体幹を鍛えているため身体能力も抜群だったそうで、黒沢清監督も「相手を押さえ込んだり、物を投げる動きが動物のように俊敏で、獰猛な感じがする。それこそ、車に乗って発車させるまでの速さは映画史上最速です(笑)」と驚いていたのだとか。

 その柴咲コウの役作りおよびスピード感は、前述した「犯罪に協力しているのに迷いがなさすぎて怖い」劇中の役に生かされていたのだろう。また、柴咲コウは休憩時間中にフランス人のキャストやスタッフと一緒に食堂でご飯を食べ談笑していたそうで、その社交性もまた劇中の「普通の女性にも見える」役とシンクロしているように思えるのだ。

◆「何を考えているのかわからない」役の奥深さと恐ろしさ

 その柴咲コウは、フランス語への挑戦以外でも、「何を考えているのか分からない小夜子(心療内科医医)を、物語の進行とともに垣間見られる彼女の本心の見せ方を考えながら、観客を最後まで引きつけられるキャラクターにしていくことに次第に興味が湧いた」「20代、30代の私は特に“動き”のある役が多かったので、小夜子のようにミステリアスで物静かな役でのオファーが意外だった」と、今回の役を振り返っている。

 この言葉通り、今回の柴咲コウの役柄は何を考えているのかわからない、特に序盤は拉致監禁という犯罪に協力する理由が判然としないのだが、だからこそ「彼女の目的や本心はどこにあるのか」という疑問が物語をけん引していた。

 その柴咲コウは『バトル・ロワイアル』(2000)では恐ろしい残虐性を持つ少女を演じていたことや、『喰女-クイメ-』(2014)では美しさの裏にある狂気を感じさせる女性に扮していたこともある。

 そのような怖い役柄を演じた柴咲コウのキャリアの中でも、なるほど今回はもっとも落ち着いた役とも言える。そして、「他人を自分の心に入り込ませない」冷たい印象もまた柴咲コウは体現できるし、その目的や本心がふとしたときに「垣間見える」演技の上手さにも感服したし、その上でやはり恐怖を覚えたのだ。

◆西島秀俊と青木崇高との会話も重要

 さらに劇中で重要になるのは、患者役の西島秀俊との日本語での会話だ。劇中の西島秀俊からぶつけられた疑問は不遜極まりないものだったため、柴咲コウは「困った人ですね」などと当たり前かつ冷静な返答をするのだが、その疑問が「図星」のようで、少なからず動揺しているようにも思える、それでこそ彼女のキャラクターが浮き彫りになるところがあったのだ。

 さらには、劇中で柴咲コウは、リモートで日本にいる夫役の青木崇高とも日本語で話し合っている。現在公開中の『ミッシング』と同様に、どこにでもいる「普通の夫」に見える青木崇高との会話は、ほのぼのとしているように見えるのだが……どこか「本心を隠して話している」印象を与える柴咲コウの表情が、やはり怖く思えるのだ。

 そして、その柴咲コウに真に戦慄できたのは、黒沢清監督らしい「影」の演出も際立ったクライマックスと、それに続くラストシーンだった。見る人によって解釈が異なり、「彼女って実は……」と劇中で明確に描かれていないことにも想像が及ぶからこそ、さらにゾッとできるだろう。それも含めて「柴咲コウ史上最恐」を期待してほしい。

<文/ヒナタカ>

【ヒナタカ】
WEB媒体「All About ニュース」「ねとらぼ」「CINEMAS+」、紙媒体『月刊総務』などで記事を執筆中の映画ライター。Xアカウント:@HinatakaJeF
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