暴行や強姦…過去の罪をさらけ出す「前科者座談会」に集まる人たち 元受刑者の女性がつくる「帰ってくる場所」

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2024年06月16日 09:40  弁護士ドットコム

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参加できるのは罪を犯したことがある「前科者」のみ。職場や家庭では理解されない不安や悩みを語り合い、”先輩”に教えを乞う。そんな集まりがあると聞いて特別にまぜてもらった。(弁護士ドットコムニュース・一宮俊介)


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●罪名や服役経験を自己紹介

「住居侵入と強姦でトータル15年です」



「窃盗、詐欺などで2年10カ月です」



「子どもへの暴行で捕まって執行猶予が付きました」



6月4日午後7時過ぎ、オンラインでつながった約10人の男女が自己紹介を始めた。



最初に語られたのは、過去に犯した事件の罪名と服役期間、服役回数、出所してからどのくらいの日数が経ったか。



中には「罪名は控えさせてください」と話す人も。



参加者はお互いをニックネームで呼び合い、画面に顔を映し出さなくてもよいことになっている。





●テーマは収監されるパートナーにどう対応するか

この日の座談会で話題となったのは、身近な人が刑務所に入ることになったらどうすべきかーー。



ある男性参加者の彼女が事件を起こしたことからテーマに選ばれた。



その女性は保釈された状態で実刑判決を受けたため、パートナーである男性はこれから控訴するか、収監されるために出頭するか、どちらが彼女にとって良い選択なのかを思い悩んでいた。



これに対し、他の参加者から次々と意見が寄せられた。



「僕も事件を起こした時に彼女がいて、心の整理ができずに裁判を引き伸ばしたが、今は早く入っていたらよかったなと思います」



「自分の犯した罪と向き合うべき。自分のケツは自分でぬぐわないと」



「彼女に寄り添って未来の話をしてあげればいいんじゃない?」



「彼女の気持ちの心配よりも2人で一緒に早くやり直したいという気持ちをぶつけてほしいです」



「彼女が刑務所にいる間に自分の足場をまずは固めてほしい」



中には一見厳しいように感じる意見もあったが、悩みを吐露した男性は冷静に受け止めている様子でこう話した。



「彼女が刑務所にいる間は間違いなく自分が支えようと思います。ここでのつながりにも助けてもらいます」



●転機は拘置所で聞いた元ヤクザの講話

この「前科者座談会」を企画したのは、自身も過去に窃盗を繰り返して女子刑務所に入ったことがある湯浅静香さん(44)。



虐待のある家庭で育った湯浅さんは、未成年の頃から万引きや援助交際、薬物に手を出していたという。



裁判で執行猶予の判決を受けても万引きをやめられず、35歳で懲役2年半の実刑判決を受けて初めて服役することになった。



ここで転機を迎えた。女子刑務所に移送される前に立川拘置所に収監されていた時、元暴力団員で今は牧師として出所者らの社会復帰を支援する進藤龍也さんの講話を聞いた。



それまでの講話は社会的に成功している人の話が多く、「私には参考にならない」と感じていたが、同じような失敗を経験しながらもそれを糧に力強く生きている進藤さんの存在を知り、「初めて自分のモデルを見つけられました」。



湯浅さんは出所後、薬物やギャンブルなどの依存症を抱える人や受刑者の家族の相談に乗るサイト「碧の森」を開設した。



そして2022年10月、刑務所を出所した人や有罪判決を受けた人が日常の困り事などを話し合う「前科者座談会」をスタート。



「言いっぱなし聞きっぱなし」がルールの自助グループとは違い、前科者座談会では参加者が双方向に意見を交わす。





●再犯を踏みとどまるために孤立を避ける

「結婚する時、相手の親に前科を伝える?」「誹謗中傷にどう対処する?」「スマホを契約できない時どうする?」ーー。



座談会では一般には理解されにくいセンシティブな悩みや相談が話題に上がる。



湯浅さんは「刑務所を出た人には周りに語れない切実な悩みがある。その時に気軽に先輩に聞けるような場があったらいいなと思って始めました」。



参加者に共通するのは、もう一度社会でやり直すために「孤立」から逃れたいという思いだ。



多くの人が亡くなった京都アニメーション放火殺人事件や大阪駅前のビル放火殺人事件では、加害者の男性はいずれも過去に刑務所で服役していたとされる。出所後に孤立を深めて重大事件を起こしたとの指摘もある。



最近でも、詳細は不明だが、滋賀県大津市で保護観察中の男性が保護司を殺害する事件や、有罪判決を受けたばかりの男性が神奈川県横浜市の路上で女性を殺害する事件が発生しており、再犯防止は社会的な課題だ。



●「帰ってくる場所を作って再犯を防ぎたい」

窃盗罪で4回服役したという参加者の女性は、回復に向けた治療に一緒に取り組んでいた仲間が4月に孤独死したことを明かし、「やっぱりこの前科者座談会のような場が必要だと思う。私はここで一人じゃないという気持ちになれる。また事件を起こさないためにも参加し続けたい」と語った。



座談会は現在、月に2回の頻度で開催。仕事や家事で忙しい人でも参加しやすいように、平日の夜と日曜の午前に開いている。



湯浅さんは「帰ってくる場所を作り、再犯を防ぎたい」と話し、さらなる参加者を募っている。



前科者座談会への参加申し込みは「碧の森」のホームページ(https://aono-mori.com/?page_id=3402)から。


このニュースに関するつぶやき

  • 当人が再犯防止のために自ら動いているのだからとても評価できる。まあ受け入れられるかは別問題だけど。
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