渡り鳥の移動ルートを追ったら、何が分かった? LUSHの徹底した「リジェネラティブ」を読み解く

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2024年06月18日 07:40  ITmedia ビジネスオンライン

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LUSHは長らく、サステナブルの先にある「リジェネラティブ」に目を向けてきた

 1995年に英国で設立された、ナチュラルコスメブランドの「LUSH」は、2016年頃からサステナブルの先にある「リジェネラティブ」(再生)に目を向け、取り組みを続けてきた。


【画像】「ポップでカラフル」意識したLUSHの内装


 「サステナブルと事業成長はトレードオフ」という考え方があり足踏みする企業も多い中で、LUSHがサステナブルだけでなくリジェネラティブにまで着目して取り組みを続けてきた意義は大きい。しかし、LUSHはその功績を声高に叫ぶことはしない。


 ラッシュジャパン合同会社 ブランドコミュニケーションマネージャーの小山大作さんは「気候変動をはじめとする環境問題は待ったなしの状況です。わたしたちは化粧品ビジネスを通して、変革を起こしていかなければいけない」と話す。


 LUSHが大事にしている「リジェネラティブ」は再生を意味する。多くの企業がサステナブルと事業成長の両立に苦心しているように、企業活動による環境へのマイナスの影響は多かれ少なかれ発生してしまう。企業の取り組みはもはや、持続可能を意味するサステナブルな取り組みだけでは不十分であり、むしろ環境や社会を再生させ、プラスの影響を作っていくことこそが重要な視点である──これがリジェネラティブの考え方だ。


 小山さんはLUSHのリジェネラティブな取り組み例として、こんな風に口火を切った。


 「渡り鳥の移動ルートを追ってみたところ、従来の休憩地点で環境破壊が進み、鳥たちが生息できない場所に変わっていってしまっていることが分かりました」


●原材料調達と渡り鳥 ラッシュの徹底した「再生」


 渡り鳥を追うことが、どうリジェネラティブにつながっていくのか。


 商品の原材料調達を担当するバイヤーが追ったのは「サシバ」という猛禽類の一種でタカ科に属する渡り鳥だ。全長50センチほどと小柄だが、春になると越冬地の東南アジアから日本に渡来し、里山で繁殖・子育てをする。秋になると、日本各地の繁殖地から沖縄の離島を経由して、東南アジアに戻っていく。


 日本の里山には、カエルやバッタといったサシバの好物が多く生息していることに加え、止まり木や巣作りに適した木も多い。サシバが繁殖できる場所は生態系が豊かな場所であり、サシバは里山のシンボルといわれている。しかし、サシバは減少傾向にある。1980年代には5万羽以上生息していたが、2000年代に入り約1万羽と激減した。


 「そこで里山プロジェクトが立ち上がりました。耕作放棄地と化していた山や田畑を再生させ、サシバが休憩できる場所を作っていく。もちろんそこで暮らす地域の方々と連携しながら進めていきます。そうすると、里山にサシバが戻ってくるだけでなく、コミュニティの活性化にもつながります」


 LUSHは里山を再生させる中で栽培した植物などの一部を原材料に使用。例えば、米粉を使ったフェイスマスクなどスキンケアとして展開してきた。一方的に自然から搾取するのではなく、事業活動を通じてさまざまなプラスを自然に返しているのだ。


 このような徹底したリジェネラティブを発信する場が、店舗だ。渡り鳥の活動など世界中のさまざまな原材料調達のストーリーを商品とともに発信していく。世界中の約1000店舗がメディアとして機能している。


●広告費はかけない 店舗が最大のメディア


 「LUSHはイメージ先行型の夢を売るような広告は作りません。店舗やスタッフが広告塔となって情報を発信しています」と小山さんは自信を見せる。


 例えば、LUSHの商品を買いに来た消費者が店を出るときには一つの社会問題に関心を持つようになる。帰り道で環境問題について検索してみる。LUSHの取り組みを知ってチャリティー対象の商品を購入してみる──店舗やスタッフを通じてさまざまなアクションが生み出されるよう、お客の興味に合わせた接客を意識しているという。


 「店舗はポップでカラフルな内装で、来るだけで気持ちが上向きになります。ですが、それだけではありません。その裏で、環境問題やさまざまな社会問題にすごく真剣に向き合って、本気で変化を起こせると信じている集団がLUSHなんです。そこにお客さまも巻き込んで、一緒に変化を起こしていく。それがLUSHのやり方です」


 その言葉を体現するようなエピソードがある。


 スタッフの興味関心が非常に高い「同性婚の法制化」に向けたキャンペーンを複数回実施している。チャリティーボディソープを販売し、消費税を除く売り上げの全額を公益社団法人Marriage For All Japanに寄付したり、人々に行動を促すようなキャンペーンを店舗で展開したりした。


 「日本全国のショップでキャンペーンを展開したところ、家族や友人にすらカミングアウトしていなかったのに、店舗スタッフにカミングアウトされたお客さまが何人もいらっしゃったことが後から分かりました。LUSHは化粧品のお店ですが、当事者にとっての安心できる場所になれた、コミュニティの場になれたことが何よりの成功だったと思っています。ショップで商品を楽しんでいただくことも大事ですが、ショップに来たお客さまが優しい気持ちになれたり、迎え入れられた気持ちになれたりする場所であり続けたいと思っています」


 LUSHがエシカルキャンペーンを実施するにあたって気を付けていることとして、小山さんは「LUSHが主語にならないこと」を挙げる。


 「わたしたちは専門家ではないので、その領域で取り組む小さな草の根団体などとパートナーを組んで実施することが多いです。団体の中には声を上げたくても、限られたプラットフォームしか持っていないところもあります。そこでLUSHというプラットフォームを通して1人でも多くの方に団体が伝えたいメッセージを伝えたり、変化につながるアクションに参加してもらったりします。LUSHのロゴを押し出すのではなく、伝えたいメッセージにみんながフォーカスしてくれるようにします」


 キャンペーンの展開により関わった人々の気持ちが上向きになり、結果的にLUSHに注目が集まったり、LUSHともっと関わりたいと感じる好循環が生まれることもあるようだ。トップダウンでない、当事者の声が中心にあるからこそ、熱量を持った影響力のあるキャンペーンが続いているのだろう。


 小山さんはLUSHを「顔が見えるブランド」と表現する。「『今日ちょっと辛いことがあったからLUSHに行った』『スタッフの笑顔や商品で元気になれた』。そういった声がたくさん届きます。LUSHは友達みたいに、人生の中のいつも近くにいる存在。スタッフや商品がブランドを体現しているから、こういう声が生まれるんだと思います」


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