俳優・演出家の錦織一清が、このほど大阪芸術大学の舞台芸術部舞台芸術学科で特別講師を務め、演技・演出の道を志す学生たちを前に「私の演出論」と題した講義を行った。自ら立ち稽古(げいこ)を指導するなど、熱の入った講義となった。
【写真】学生たちに熱い講義を行った錦織一清 Part1の座学では、錦織が「夢がいっぱいあふれているような場所に来たんだなとうれしく思います。この年になると寝てるときに見る夢しか見なくなりますから とユーモアたっぷりのあいさつで教室の空気を和ませた。そして、1977年に事務所に入所してから今日(こんにち)までの芸能活動を振り返り、人生の分岐点で重要な人に出会えたおかげで、今の自分があると語った。
レコードデビュー前にも関わらず『夜のヒットスタジオ』に出演させてくれたフジテレビの疋田拓プロデューサーや、30代に差しかかった時に出会ったつかこうへい氏との思い出も。「つかさんは芝居をつけずに、テーラーメイドのように1人1人に合わせてお芝居を作ってくれた。僕もノープランを心がけ演者の良さを出したい」と、錦織流の演出論を展開した。
また、ミュージカル『WEST SIDE STORY』で錦織がリフ役を務めた際に、翻訳・ 訳詞を行っていた勝田安彦氏も交えてトーク。ミュージカルならではの訳詞の難しさや、踊りと感情表現のためにある振付の違いなど、表現の幅の広さに学生たちは終始興味深々だった。
質疑応答コーナーでは、ありのままの自分で舞台に立つ方法は?と質問が寄せられ、錦織は「自分の情緒が保てているか確認するためには鼻で息ができているか確認すること」とアドバイス。そして最後には、学生代表からサプライズプレゼントとして「仮面舞踏会」のダンスが披露される、錦織がノリノリで一緒に踊る場面もあった。
Part2のワークショップでは、実際に『あゝ同期の桜』に出演していた松竹新喜劇の渋谷天笑も参加。天笑がシーンの意図を説明したところから立ち稽古がスタートし、演出家・錦織を前に緊張しながらも、本気で挑む学生たちの姿が見られた。
演技がのっている場面では 静かに学生たちを見守り、せりふ回しに悩んでいる様子がみられると、即座に同じ目線に立って丁寧にアドバイス。がちがちに演出を固めず、演者の“その人らしさ”を大事にする演出家としての心がけがみてとれた。
錦織が「大学の教室に入るのなんて初めてで緊張していましたが、興味を持った時の 若い人の目の輝きを目の当たりにして、逆に僕が学ばせてもらったような気がします」と感謝を伝えると、学生たちから大きな拍手が送られた。
錦織は、今回のワークショップにも参加した天笑をはじめとする松竹新喜劇の若手劇団員が出演する『TENSHO座 Vol.13 熱海殺人事件』(大阪・DAIHATSU心斎橋角座、6月25日〜30日)の演出を担当。さらに、8月から東京・新橋演舞場を皮切りに『カルメン故郷に帰る』の演出家として各地をめぐる。大阪は、大阪松竹座で9月5日〜17日に上演。