高知東生59歳が“自分の弱さ”をさらけ出せるようになるまで。「恥を知られたら負け」だと思っていたけど

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2024年06月20日 09:31  日刊SPA!

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高知東生さん(59歳)
 2016年、覚せい剤と大麻使用の容疑で逮捕され、執行猶予判決を受けた高知東生さん(59歳)が、商業映画に復帰する。ギャンブル、アルコール、薬物、買い物、ゲームなど、実際の依存症者(アディクト)やその家族を多数起用した話題作『アディクトを待ちながら』の主演である。
 依存症はれっきとした“病”であり、回復(リカバリー)が可能だ。依存症からの回復者たちのつくる文化を「リカバリー・カルチャー」と呼ぶが、当事者たちが演じる本作は、まさにこの病に立ち向かう人々をリアルに映し出している。

 高知さんは自身の回復の道のりにおいて、物事の捉え方に悪いクセ(歪んだ認知)があったと語る。いま振り返る、逮捕から現在までの率直な気持ちとは。

◆「ないこと、ないこと言ってきた」マスコミ

――孤独になった時期もあったかと思いますが、X(旧Twitter)での発信などを含め、現在はご自身の考えを外に出しています。大きな転換があったのでしょうか。

高知東生(以下、高知):依存症の仲間たちと出会ったのは逮捕されて2年後。自分自身、家族がいたり商売もしていた(エステ店を経営していた)なかで起こしてしまったことで、整理することが山ほどありました。最初の1年間は、あっという間に過ぎました。

 大変なのはそうしたことが終わってからの2年目です。24時間、何もすることがない。でもマスメディアは面白おかしく「別れた女房(高島礼子)が支える」とか「復縁する」とか、そんなことばかり言ってくる。

――マスコミの記事はキツかったですか?

高知:これ以上もう家族に迷惑かけたくないし、「ないこと、ないことやめてくれよ」と。周りに残っていた数少ない人たちも、そうした記事に踊らされて「お前、1億円もらったの?」とかありもしないことを言ってくる。生活もできないくらいなのに「1000万、貸してくれよ」とか。いちいち説明するのも面倒くさいし、どんどん人間不信になって、壁が厚くなっていきました。そんななか「気持ち分かるよ」と寄ってくる人がいる。「いい人なのかな」と思ってお茶したりすると、そのうちに「金のカエルを買えば、あなたは明日からもっとラクになる」と言われて。ネットワークビジネスの広告塔にされそうになったこともありました。

――心が弱っているなかで、そこに頼らなかったのは?

高知:なんですかね。家族や自分の大切な人たちが当たり前のようにいた環境を、オレはどれほど裏切ったんだと。そのことを深く重く感じていたから、そのぶん、そうしたところには行かなかったのかなとは思います。

 ただ現実、生活ができないことは弱み。ある会社の社長に「うちで働けば」と言われたこともあって、頑張ったこともあったんだけど、何日かしたら「取締役会議でわざわざ傷持ちを入れる必要はない」となったと。「過去をさかのぼると、芸能人で結局何回もやっちゃう人がいる。そんなのに関わったら大変だ」と。その場では「誘ってくれてありがとう」と言いながら、家に帰ってから打ちのめされる。

◆自分を見つめて“歪んだ認知”があると知った

――自助グループと出会ったときは、どんな状態だったのですか?

高知:歪んだ認知を持ってたね。

――“歪んだ認知”ですか?

高知:たとえば、自分の弱さを人に知られたら負けとか。今のグループとの出会いで言うと、『アディクトを待ちながら』のプロデューサーの田中紀子のパワーが、まずとにかくすごかった。実際に出会う前から、存在は知ってたんですけどね。

――というと。

高知:マトリ(麻薬取締官)が来たとき、オレが「来てくれてありがとう」と言ったことで叩かれまくっていたとき、唯一擁護してくれた人だったんです。「これは依存症者に“あるある”のことで、“これで終わった”“これでやめられる”という、ホッとした正直な気持ち。決して反省していないとか、そういうことじゃない。正直に語り始めているということは、彼は回復できそうな気がする」と、ある記事で言ってくれていた。

 それで名前を覚えていて、“オレはこうやって生きている”とTwitterに書いていたなかで、彼女と繋がって会うことになったんです。最初、喫茶店で7時間喋りました。

――7時間!?

高知:今思うと嬉しかったんだろうな。まず今までの人と違うと思ったのが、彼女は自分のことを最初に全部さらけ出してくれたんです。「自分も依存症者で回復している。それで今度は苦しんでいる人の手助けになるために動いているんだ」と。ここでもオレは、男たるもの、女たるものみたいな“歪んだ認知”があったんだけど、異性である女性が、弱さも全部ふくめて、他人にそんなことまで話していいの?ということまで話してくれました。

――高知さんは、そのときご自身のことを話せたんですか?

高知:全ては話せないけど、自分の気持ちに一歩踏み込んで、「いま苦しい、寂しい。人間不信だ」といったことは話せました。そこから彼女は、間髪入れずに仲間たちに会う時間をどんどん作ってくれた。気持ちを分かってくれるから、もちろんオレのほうも会いたいし、自助グループも勧めてくれた。山梨ダルクとか、いろんな民間団体に行きました。

 そのうち著名人を集めた自助グループも作ってみようという話が出た。特殊な職業だから、共感し合えるだろうと。彼女が食事会を設定してくれました。オレとNHKのアナウンサーの塚本堅一くんと、あとZIGGYのボーカルの森重樹一。それが後に「花の2016年組」(※)につながった。

(※)高知さん、塚本さん、歌手の杉田あきひろさん、元プロ野球選手の清原和博さんが、全員2016年に薬物で逮捕された4人だとして自虐的に使っている言葉

――有名人同士だから分かり合えることは多いでしょうね。

高知:田中聖くんも、彼が収監されるギリギリまで会ってたよ。あとその前から、オレは自分自身の過去を振り返って、罪と、依存症という病気を認める12stepというプログラムをやってたんです。なぜ自分がそこに至ってしまったのかという背景と自分のクセ、考えの捉え方を知っていく。

 今は自分の捉え方を“歪んだ認知”と呼んでるけど、それによって、自分で勝手にストレスを作り出す。で、コップいっぱいになるとこぼれちゃう。そうならないよう、自分と向き合って、洗いざらい話して、今度は自分が苦しめたり傷つけたりした人にアポを取ったりして謝っていった。

――そうできたのも、仲間の存在があったからでしょうか。

高知:共感し合える仲間ね。あと家族の自助グループも必要だと痛感している。いろんなセミナーとか相談会に行ったり、やったりすると、当事者以上に家族が緊張したり涙を流しながら、自分の犯した罪のように抱え込んで来るんだよね。そういうのをたくさん見てきた。

――「きちんとご家族が管理してください」といった言葉をよく聞きます。

高知:家族は家族で自分を大事にしないと。家族にこそ言えないことってあるし、当事者も家族も、同じ苦しさを共感できる相手と、他人だから話すことが必要。

 あと資格や知識、立場より、理解ある人と出会わないとダメだよね。誰と繋がり直すかで、その人の人生って決まると思うんだけど、それが現状運に左右されている。誰と繋がるか、繋がり直すか。間違った人と出会って、理解ないひと言で、回復できたり生き直すことに近づけぬままに再犯したり、余計に苦しんだりすることがある。

◆分かんなかったら「ヘルプ!」のひと言が大事

――「生き直し」という言葉が出ました。いまは一度失敗すると、立ち直れないほど叩かれてしまうことが多いです。特にSNSはみんなと繋がれる文化ですが、叩きやすくもある。

高知:本当だよね。昔から人の不幸は蜜の味っていうし。自分の国の言葉をガキの頃から使ってきたけど、その重みを知らないことが多いよね。無責任で自分勝手な言葉だという自覚があれば気軽に吐けないし、吐いちゃダメ。

 あと、叩かれるのはもちろん辛いけど、自分のことを振り返ってみると、他者を意識しすぎ、他者の評価を気にしすぎていたところがあったと思う。自分の魂が抜けていた。オレはこれをやってるのに、なんでそれに足る反応が返ってこないんだとか。だけど、それも自分の悪いクセ。「そうじゃない。他人じゃない。すべては自分なんだ」と気づけたとき、すっごくラクになった。それに本当の愛には反論する言葉が出ない。

――本当の愛?

高知:本当の愛、情熱ってなんだろうと考えると、自分の先を行く仲間たちが、自分と本気で向き合ってくれているのが浮かぶ。その時間と労力のすごさ。他人なのに無償でだよ。そういう環境に身を置いて包まれていると、旧型の歪んだ認知を持っていたオレにも、新しいきれいな水がば〜っと入ってくる。

 いまでも歪んだ認知が顔を出すこともあるけどね。昔はそこの中での判断しかできなかった。でもいまは「やべえ! 旧型のクセが出てきた」と気づいてストップをかけられるようになった。そして自分でも分からないものがあるときには、先を行く仲間たちにさらけ出す。

――その都度その都度、何度でもさらけ出していくことが必要ですか。

高知:そうだね。これもオレの歪んだ認知のひとつで、自分の恥を知られたら負けだし、すべて自分で片付けなきゃといった根性論、精神論が植え付けられていた。でもそうじゃない。簡単よ、分かんなかったら「ヘルプ!」。これを言えるようになった。

――分からなくなったらヘルプ!

高知:自分の生き方をしっかり見つめて、認めて、弱さをさらけ出す。残りの人生をアップデートしながら生き直して、成長を楽しんでいこうと。そのためには安心してさらけ出せる環境がないとね。

<取材・文・撮影/望月ふみ>

【望月ふみ】
ケーブルテレビガイド誌の編集を経てフリーランスに。映画周辺のインタビュー取材を軸に、テレビドラマや芝居など、エンタメ系の記事を雑誌やWEBに執筆している。親類縁者で唯一の映画好きとして育った突然変異。X(旧Twitter):@mochi_fumi

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