今年の流行語大賞は朝ドラ『虎に翼』の“必殺フレーズ”か。日本社会の風通しを良くするワードとは

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2024年06月22日 09:00  女子SPA!

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『虎に翼』©︎NHK
 伊藤沙莉主演の連続テレビ小説『虎に翼』(NHK総合、毎朝8時放送)で主人公・猪爪寅子によって発せられる「はて?」の一言。

 寅子が生きる過去と視聴者が見ている現在が、この疑問形によって重なる。本作でもっとも重要なフレーズである。今年の流行語大賞に選ばれても不思議ではないと思うのだが、どうだろう?

 イケメン研究をライフワークとする“イケメン・サーチャー”こと、コラムニスト・加賀谷健が、「はて?」が流行語大賞になると思う理由を解説する。

◆疑問としての「はて」

 時期尚早だが、筆者の中での2024年流行語大賞はすでに決まっている。4月から放送が始まった朝ドラ『虎に翼』で、伊藤沙莉扮する主人公・猪爪寅子がシグニチャーのように連発する「はて」である。

 毎話必ず繰り出されるこの「はて」は、社会の当たり前に対する痛烈な疑問符である。最初に耳にしたのは、第1週第1回。嫌々のお見合い場面。相手の横山太一郎(藤森慎吾)に好感を持ったものの、太一郎を上回る時事批評を矢継ぎ早に繰り出した寅子が「女のくせに生意気な」と言われる。これに対して素直な疑問を抱いた。

 男女同権を著しく欠いていた時代。ましてや公の場で女性が男性に「はて」を発することは、太一郎が言うように分をわきまえない態度とみなされただろう。でもそのことに何の躊躇もなく、スパンと疑問を突きつける寅子のソーシャルな人物像はすがすがしい。

◆伊藤沙莉の解釈

 そんなあっぱれな「はて」が、猪爪寅子を象徴する必殺フレーズとして、今年の流行語候補にあがってもなんの疑問もない。戦中に日本初の女性弁護士、戦後には裁判官になった三淵嘉子をモデルとする本作への敬意も込めて。

 2024年3月21日にNHK放送センターで行われた出演者の会見では、寅子を演じる伊藤が、丁寧な「はて」の解釈を披露した。自分の感情をひた隠しにすることを強いられた女性たちが、そろって無感情を表す「スンッ」とした状態でいるしかなかった時代をつんざく「はて」とは。

 伊藤自身が抱く疑問をも「代弁」するという「はて」を発する上で、彼女は「劇中の『はて?』に対して、疑問を持たずに『はて?』って言えるんです」と言っている。これは興味深い。伊藤が寅子役を通じて「はて」を発するとき、ほとんど自動的な発語のように聞こえるのはそのためか。

◆憑依型の演技というより能楽師タイプの演技

 この発言からわかるのは、寅子が発する「はて」を役柄として理解しつつ、伊藤自身の「はて」への解釈はいったん、留保されていること。

 つまり、伊藤がひとまず「はて」を発する時点では、正確には俳優の気持ちとキャラクターの感情に完全にはコミットしていない。そのとりあえずの「はて」のあとから、じわじわ伊藤の感情が寅子に追いつく演技フロー。

 俳優とキャラクターがここまで自然と一致する例は珍しい。これはどこか喜怒哀楽に役者の心身があとからコミットする能楽師の演技に近いと思う。寅子を演じる伊藤は、憑依型の演技というより能楽師タイプの演技なのだ。

◆寅子オリジナルではない?

 それがどうだろう、第10週第46回で司法省の事務官として勤務するようになってからの寅子の変わり様は。女性初の弁護士になったものの、苦戦の連続だった。佐田優三(仲野太賀)との子どもをみごもり、休業を余儀なくされた。

 彼女の悔しさは戦後、事務官の仕事で再び解放されるはずが、まるでイップスのように「はて」が出てこない。代わりに、無感情の「スンッ」状態になってしまう。でもそんなとき、明律大学の恩師・穂高重親(小林薫)が事あるごとにトンチンカンな物言いをするものだから、拍子抜けした寅子の「はて」が復活する。

 第49話、覚醒したかのように「はて」を連発する寅子の清々しさったらない。でもこの「はて」、実は伊藤扮する寅子オリジナルのフレーズではないのかもしれない……。

◆たまたま「はて」が共鳴すること

 伊藤が朝ドラ俳優の大チャンスをものにする伏線となったドラマ『いいね!光源氏くん』(NHK総合、2020年)を忘れちゃならない。同作は、千葉雄大扮する光源氏が『源氏物語』の世界を抜け出して現代にタイムスリップしてくるコメディ。

 第5話、光源氏に続いてタイムスリップしてきた頭中将(桐山漣)の住まい探しで、今どきホストのヒカル(神尾楓珠)の豪華なマンションに招かれたときにこの一言。

 平安時代の暮らしとのギャップを感じた光源氏が素朴な疑問と感嘆まじりに「はて」とつぶやいた。現代社会に対する好奇の眼差しとして、このオリジナルな「はて」が発せられたのだ。

『虎に翼』の「はて」と『いいね!光源氏くん』のそれのどちらがオリジナルというより、伊藤沙莉出演作品がこうして地続きにあり、たまたま「はて」が共鳴することが興味深い。

 21世紀を生きる伊藤にとって寅子が生きた時代は当然、自分とは遠い過去のこと。役作りとして、圧倒的過去の人物(他者)をどう自分に引き寄せ、そして現代の自分が演じる意味をそこに見だすのか。光源氏が過去からやってきたのなら、その逆で過去にタイムスリップしてみる。

 寅子を通じて過去の時代性を知るうち、伊藤自身もさまざまな疑問がわく。そして自然と口をついて出てくる「はて」を合言葉として伊藤は役柄をつかむ。

 寅子→伊藤→視聴者の順に率直な疑問が代弁される数珠繋ぎが、「はて」を流行語大賞までつなげてくれたら、ちょっとは風通しのいい日本社会になるんじゃないかしら?

<文/加賀谷健>

【加賀谷健】
音楽プロダクションで企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆している。ジャンルを問わない雑食性を活かして「BANGER!!!」他寄稿中。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu

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